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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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オカエリナサイ

 その日の夕方。懸念していたような問題もなく、俺は無事に目を覚ますことができた。少しするとローズも目覚め、また夜が明ける頃にはゴレミも復活したので、俺達はそのままダンジョンを脱出することとした。


 なお、その帰路は拍子抜けするくらい楽だった。小部屋の箱からは何故か人数分のパンと水が出たので食料の補充は十分だったし、実質丸一日休んだことで俺達の体調も万全。


 更にジャッカルが不気味なくらい協力的だったり、既に地図ができているので階段同士を最短距離で移動できることもあって、なんと昼頃には俺が馬鹿やって飛ばされた第五層に辿り着くことができていたくらいだ。そこでちょいと思うことがあり例の扉の場所に立ち寄ったのだが……





「うわ、何だこりゃ!?」


「見事に壊れておるのじゃ」


「多分、ベリル姉ちゃんの仕業なのデス」


 俺が挟まって飛ばされた扉は壁から引っぺがされ、ベコベコに破壊されていた。近づいて取っ手の部分を持つと、基本不壊であるはずのそれがペキッという軽い音を立ててあっさりと外れる。


「マジか、こんな簡単に……!?」


「それでマスター、どうするデス? お宝は探すデス?」


「……いや、やめとこう」


 ゴレミの問いに、俺は何気なく外れた取っ手を鞄にしまい込みながら言う。ヨーギさんのから依頼を受けてはいるし、一旦出てから出直しとなると日数的な問題からおそらく達成は不可能となるだろうが、それでも今は外に出て、きちんと情報を整理したい。


「ヨーギさんには後で俺から謝っとくよ」


「クルトよ、水くさいのじゃ! その時は妾だって一緒に行くのじゃ!」


「それにそもそも、ヨーギのオババの依頼は普通なら相当運がよくないと達成できないやつだったのデス。オババだってそれはわかってるはずデスから、駄目だったからって怒られたりはしないと思うデス」


「あー、そりゃそうか。ならもう気にしねーで出よう」


 もしこの扉がそのままだったら、極めて低い確率であろうと別の犠牲者が出るかも知れない。そう思って何か手を……意味があるかはわからねーが、扉にバツ印を描くくらいはしようと考えていたのだが、ぶっ壊れてるならその必要もない。


 ということで俺達はそのまま帰路につき、程なくしてダンジョンの入り口に辿り着くことができた。一歩一歩を噛みしめるように階段を上っていけば、その足が<底なし穴(アンダーアビス)>から外に出る。


「うぉぉ、帰ってきたぞー!」


「ミッション達成なのデス! 文句なしのSランク評価なのデス!」


「はー、やっと出られたのじゃ! 外の空気が美味しいのじゃ!」


「出られた……少なくとも生きて地上までは来られた…………っ!」


「ははは、探索お疲れ様」


 大げさに喜ぶ俺達の姿に、警備の人が笑って言う。その反応を照れながらもやり過ごすと、俺達はそのまま受付の方に向かった。本音を言うなら宿に直行してベッドに倒れ込みたいところだが、その前にやるべき事はやらないとだからな。


「おーい、リエラー! 帰ってきたデスよー!」


「っ!? ゴレミさん!? それにローズさんにジャッカルさんに…………っ」


「ど、どうも……」


「クルトさん!」


 俺の姿を見つけたリエラさんが、受付から飛び出してくる。そのまま俺の手をギュッと掴むと、潤む目で俺を見上げてその口を開いた。


「よくご無事で……本当に、本当によかったです…………」


「ありがとうございます、リエラさん。心配をおかけして申し訳ありませんでした」


「本当ですよ! 何ですか、扉に挟まると発動する転移罠って! そんなのゴブリンだって引っかかりませんよ!?」


「ぐはっ!? ま、まあそういうこともあるかもですけれども……」


 あまりにもまっとうな指摘に、俺は思わず一歩後ずさる。これに関しては俺に反論する権利はないので、ただひたすらに受け入れるしかない。


「まあいいです。こうして無事に帰ってきてくれたわけですしね。それじゃ早速今回の経緯の報告を――」


「ちょっと待ってくれ!」


 カウンターの奥に戻ろうとするリエラさんを、ジャッカルが引き留めた。その必死な様子に、俺達のみならずリエラさんも首を傾げる。


「何ですか、ジャッカルさん?」


「いや、報告の前に、俺の依頼達成の手続きを頼む! そうすりゃ俺まで報告に立ち会う必要はねーだろ?」


「はぁ、それは構いませんが……クルトさん達はどうされますか? 二二層まで潜られたのでしたら、ジャッカルさんも一緒に報告することで異変調査の報酬を追加でお支払いできるかも知れませんけど」


「あー、俺達は……」


「頼む! 俺は何も聞いてないし、見てない! だから何も言わねーし、何も知らねーんだ! 前は調子に乗っちまったけど、もう二度とお前達に手を出したりしねーから! な!」


「えぇ……?」


 顔の前で両手を合わせて拝み倒すジャッカルに、俺は激しく困惑する。今までのいきさつはともかく、今回の一件では間違いなくジャッカルに世話になった。なので俺としてはダンジョンの調査に報酬が出るなら、半分くらいは渡してもいいと思ってたんだが……


「よくわからないデスけど、本人がそう言ってるならそれが一番いいんじゃないデス?」


「そうじゃな。名誉や報酬は無理に押しつけるものでもないのじゃ。名が売れると動きづらくなると、そういうのを断る者は稀にじゃがいるものなのじゃ」


「そんなもんか。わかった……じゃあリエラさん、報告は俺達だけでやります」


「畏まりました。では先に依頼の処理に移りますね」


 そう言うと、リエラさんとジャッカルが淡々と作業を進めていく。ゴレミとローズ、ついでに俺の証言でジャッカルの働きぶりが十分に満足のいくものだったと認められると、ローズ達が補償金として預けていた一〇〇〇万クレドがジャッカルの保管庫の残高に追加される。


 その証書を奪い取るように手にすると、引きつり笑いを浮かべたジャッカルがジリジリと後ずさった。


「じゃ、じゃあ俺はこれで!」


「うむん? 少し待つのじゃ。妾の兄様に紹介してもいいという話はどうするのじゃ?」


「ひぃぃ!? い、いらねぇ! そういうのはもう御免だ! 俺はでかすぎる流れに巻き込まれたら溺れるだけの、ただの一般人なんだよ! 俺のことはもう忘れてくれ! じゃあな!」


 半ば言い捨てるように一方的に捲し立てると、ジャッカルが走り去ってしまった。スキルでも発動させたのか一瞬で消えてしまったその姿に、俺は訳もわからず言葉を漏らす。


「…………いや、本当に何だったんだあれ?」


「謎なのじゃ」


「ほらほらマスター! そんなことよりリエラがお待ちかねなのデス!」


「おっと、そうだった。それじゃリエラさん、今回俺達が体験したことなんですけど……」


 そうして俺達は、<底なし穴(アンダーアビス)>での出来事を話していく。と言っても俺の方は小部屋で寝てた後は武装オークに殺されかけただけなので、話すのは主にゴレミ達だが。


「……という感じで、これが二二層までの地図と罠の位置なのじゃ。まあもう出てしまったから、意味はないかも知れぬのじゃが」


「そんなことありませんよ! たとえ地形が変わるにしても、どんな風に変わるかの傾向を調べることには意味がありますし、そこにある罠や出現する魔物の情報も合わせれば、十分な価値があります。


 特にこの、武装したオーク……オークスローターの情報は貴重ですね。先日二〇層まで潜ったパーティが帰還してるんですけど、そちらには記載されていない情報ですから」


「む、そうなのじゃ? クルトを救出するためのついでの情報だったのじゃが、役に立ったなら嬉しいのじゃ」


「ご協力ありがとうございました。次の調査に役立てさせていただきますね……って、この異変もあと少しで終わりなんでしたっけ?」


「そうデスね。多分あと三日くらいなのデス」


「なるほど。でもまあ、いつまで追加の調査隊を出すかは上の決めることですから、私には関係ないです。しっかり報告をあげて、特別手当をもらっちゃいます!」


「おお、流石はリエラ師匠。貪欲に報酬をもぎ取っていくぜ……」


「金と功績の亡者なのデス! その無駄にでっかい胸には野望と欲望が詰まってるのデス!」


「滅茶苦茶人聞きの悪いこと言われてる!? ちょっ、やめてくださいよ! これは緊急シフトで馬鹿みたいに忙しく働く私への、ちょっとしたご褒美なんですから! 正当な権利なんですよ!」


「ははは、わかってますって。それじゃリエラさん、俺達はこれで」


「まったくもー! あ、そうだ。皆さん!」


 立ち去ろうとする俺達を、リエラさんが呼び止めてくる。俺達が足を止めて振り返ると、スッと立ち上がったリエラさんが体の前で両手を重ね、深く頭を下げた。


「皆さんの生還を、心より祝福致します……お帰りなさい、クルトさん、ゴレミさん、ローズさん」


「リエラさん……」


 その温かい気持ちに、俺達は顔を見合わせ頷き合って、言葉を重ねる。


「「「ただいま!」なのじゃ!」デス!」


「ってオイ!? こういうときくらい語尾まで揃えろよ!」


「そうはいかないのデス。これはゴレミのアイデンティティなのデス!」


「確かに妾のこれは、無能と呼ばれた妾がそれでも何とか皆に存在を認知してもらおうと始めた口調だったから、もうやめてもいいのかも知れぬのじゃが……とはいえ子供の頃からの口癖ゆえ、簡単には直らぬのじゃ」


「え、何その予想外に重い理由……なんかごめんな?」


「ダンジョンの奥で死にかけても、マスターはやっぱりデリカシーなし男なのデス」


「ぐぅぅぅぅ……それ、何か関係あんのか……?」


「ふふっ、皆さんは本当に仲がいいですよね」


 じゃれる俺達を見て、リエラさんが笑う。そうして戻ってきた日常に、俺達もまた心から笑顔を溢れさせるのだった。

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