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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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犠牲の先の願い

「えっ!?」


「うむん? ゴレミよ、どうかしたのじゃ?」


「い、いえ、何でもないのデス。強いて言うなら歯車の振動が、ゴレミのセンシティブなアレを刺激したのデス」


「お、おぅ。そうなのじゃ? それは……すまぬ、何と言っていいのかわからぬのじゃ」


 思わず声を出してしまい、焦りながら誤魔化すゴレミにローズが何とも言えない表情になる。年の近い同性の相手……だとローズは認識している……とはいえ、そんな事いきなり言われても困るのだ。


 クルトがいれば突っ込みの一つも入っただろうが、この場にはいない。なのでゴレミは小さく首を横に振ってから、改めてその口を開く。


「それより早く、先に進むデス! 時間も若さも有限なのデス!」


「そうじゃな。今はまだ平気とはいえ、急いだ方がいいのは間違いないのじゃ。ジャッカルよ、頼むのじゃ!」


「ハーッ、仕方ねーなぁ……俺は忠告したからな?」


 ローズに促され、ジャッカルが呆れたような諦めたような顔で頭を掻いてから進み出す。二人もまたそれに着いていったが、ゴレミの内心は穏やかではない。


(大丈夫、大丈夫なのデス。確かに歯車は消えたデスけど、それがマスターの身に何かあったこととイコールではないのデス。全力でスキルを使うために自分の意思で解除したのかも知れないデスし、あるいは単純にスキルの継続限界って可能性も十分にあるのデス)


 相手の体のなかに生じさせる概念的な歯車と違い、ゴレミの腹に入っていたのはクルトが物理的に作り出した歯車だ。普通その手のものが維持できるのは精々五分とかであり、如何にただ回るだけの小さな歯車とはいえ、それが数日存在していられたのはそっちの方が異常である。


 ただクルトの場合、魔力を込めて「回転する歯車」を生みだしたのではなく、魔力で生みだした歯車に更に魔力を送ることで回転させるという二重の手続きを踏んでいる。そのため魔力を送られている間は消えなかったのだが、とはいえ魔力で生み出された不安定な物質が「本物」になることなどあり得ない。


(そうデス。今まで試してなかったからわからなかっただけで、消えるのはむしろ当たり前なのデス。だからマスターは無事。絶対に無事なのデス)


 己の言い聞かせるように、ゴレミは心の中で「大丈夫」と繰り返す。だがそれでも心の奥底から無限に湧き出てくる焦りを抑えきることはできず、今までにも増して力を振るい……そして遂に一九層を抜け、二〇層へと至る階段の途中。誰より先に動きを止めたのは、このなかで一番余裕のある男であった。


「ふーっ、今日はここまでだ」


「は!? 何を言ってるデスかジャッカル! あとちょっと……もうちょっとで二二層なのデスよ!?」


「そうなのじゃ! あとたった三層なのじゃ! ならばここは踏ん張りどころなのじゃ!」


 どっかりと階段に腰を下ろしてしまったジャッカルに、ゴレミとローズが抗議の声をあげる。それは昨日も見た光景で……ならばこそジャッカルの答えも同じだった。


「いーや、違うね。たった三層じゃねー、まだ三層もある、だ。それに二〇層となると俺にも余裕がなくなってくる。ましてや姫さん達じゃどうやっても抵抗できねー魔物が出始める頃だ。


 おまけに二〇層からは引っかかったら即死の罠がちゃんと隠されて(・・・・・・・・)存在する。姫さんの魔導具で道がわかったって、今までみてーには進めねーんだよ。罠探知とか解除のできるスキル持ちでもいりゃ、話は別だがな」


「むぅ、それは……」


「ジャッカルはそんなところ、どうやって進んだデス?」


「俺か? 俺は普通に地図見てたからな。専門家じゃねーから解除は無理だったが、何処にあるか、どんな罠かがわかってりゃ、走り抜けりゃいいだけだ。でもお前には無理だろ?」


「ぐぐぐ……ならゴレミが囮に、盾になるのデス。片っ端から引っかかって、全部この身で受け止めるのデス! そうすれば最速で進めるのデス!」


「ゴレミ!? それは流石に無茶なのじゃ!?」


「あーん? そうだな……まあそれなら確かに、半分くらいの罠はどうにかなるだろうが……」


 驚くローズをそのままに、ジャッカルが考え始める。ダンジョンの罠は深く潜れば潜るほど凶悪になるが、その対象は何処まで行っても人間でしかない。金属鎧を貫通するような罠ならゴーレムにも有効だろうが、それでも当たり所が悪くなければゴーレムが一撃粉砕とはならないだろうと思われた。


「…………わかった。その条件ならもうちょっとくらいは進んでもいい。ただしヤバそうだったらすぐ引き返すからな? もう時間だって大分遅いんだ」


「あー、そう言われると、確かにもう夜なのデス。もうちょっとで八の鐘が鳴るデス」


(へぇ、本当に町にいるのか……)


 ゴレミの言葉に、ジャッカルが内心でそう呟く。あまりにも自在に動きすぎるゴレミの存在をかなり訝しく考えていたジャッカルだったが、時計を見るでもなく自分の判断と大きく変わらない時刻を告げられたことで、ゴレミの中身が確かに町にいるのだと認識した。


 なお、勿論それはジャッカルの勘違いであり、単にゴレミが正確な時刻を把握できているというだけの話なのだが、ジャッカルがそれを知る由はない。


「んじゃ、一〇分で飯を食え。それから進むぞ」


「了解なのじゃ!」


「わかったデス!」


 ジャッカルの指示に従い、ローズが手早く携帯食を口に詰め込む。そうして夜の探索を続ける事となったが、その先にあったのは、目を覆うような現実。


ビシュッ!


「あうっ!?」


 巧妙に隠された壁の穴から打ち出された金属製の矢が、ゴレミの足に突き刺さる。その衝撃でよろけて倒れたゴレミに、ローズが慌てて近寄って声をかけた。


「ゴレミ、大丈夫なのじゃ!?」


「へ、平気なのデス。ゴレミはゴーレムデスから、痛くも痒くもないのデス!」


「それはそうかも知れぬが……」


 ゴレミの足に深々と突き刺さったそれは、人間ならば確実に片足を駄目にするような威力だった。だがゴレミは何事も無かったように立ち上がり、また先頭を歩き出す。


「ほら、それより早く行くデス! 時間が勿体ないのデス!」


「……………………」


「ほら、コイツがこう言ってんだから、行こうぜ姫さん」


「…………わかったのじゃ」


 気楽な調子で言うジャッカルに、ローズは強く奥歯を噛みしめながら頷く。少しでも友の負担が軽くなるようにとマギロケーター発動中は常時強力な防壁を張り巡らせることでゴレミを休ませる工夫などをし、進んでいくが……


「ゴレミよ、もう……もうこれ以上は…………」


「ダイ、ジョーブ……ナノ、デス…………」


 遂に辿り着いた、<底なし穴(アンダーアビス)>二二層。だがここにきて、ゴレミの体は誰が見ても限界だった。足や体のみならず頭にまで金属製の矢が刺さり、体中に大小様々な亀裂が走る。右腕に至ってはもはや砕ける寸前で、次に大きな衝撃を受ければそのまま壊れてしまいそうだ。


 そんな友の姿に、ローズは涙を流して言う。ボロボロになったゴレミの代わりに荷物を持っているのみならず、自分もまた魔力の使いすぎで酷い頭痛に襲われ脂汗を流しているというのに、それを気にするそぶりすらない。そしてそんな二人の様子に、ジャッカルは思い切りドン引きしている。


(マジか? 何でここまで必死になれるんだよ……くそっ、もう帰りてぇ……)


 常人ならその雰囲気の押されて「自分も命がけで助けたい」などと流されるところだが、ジャッカルはそんな男ではない。むしろここまで必死になれることの意味がわからず、違う意味で泣きそうな気持ちになっている。


 だがそんなジャッカルだからこそ、生存には人一倍敏感だった。身の毛のよだつような気配を通路の先に感じると、二人の体を強引に引っ張って通路の角に身を隠す。


「ぬあっ!? 何を――」


「黙れ! 声を出すな!」


 ローズの口を強く押さえ、ジャッカルがそっと頭だけを出して先を見る。するとそこにいたのは、完全武装したオークの戦士。


(嘘だろ、オークスローター!? ソルジャー種が出るのは二五層からじゃねーのか!?)


 ソルジャー種は、ファイター種の更に上位種だ。無手のオークが通常種なら、簡素な武具を身につけたオークライオットがファイター種、そしてしっかりとした金属製の武具を身につけたオークスローターがソルジャー種である。


 なので、当然強い。オークスローターはジャッカルをして「走って逃げるならともかく、正面から戦って勝てるとは思えない」くらいには強敵だ。


「おい、逃げるぞ! あんなのとまともに戦えるか!」


「確かにあれには勝てる気が……うむ? 奥に何か――」


「マスター!」


 小声で話すローズとジャッカルを無視して、ゴレミが突如大声をあげて角から飛び出す。その視線の先には、オークスローターに追い詰められ、血を流しながら仰向けに倒れ込むクルトの姿があった。

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