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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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意外な状況

「朝か……ふわぁ、ねみぃ」


 翌日。最後の不寝番をしていたローズの前で、ジャッカルがそう呟いて目を開ける。大口を開けてのびをするその姿に、ローズの方から声をかけた。


「おはようなのじゃ……というか、今は朝なのじゃ?」


「ん? ああ、多分な。調べちゃいねーけど、一の鐘(午前六時)ってところだろ」


「ほぅ? そんなことまでわかるとは、随分と慣れておるのじゃな?」


 感心してそう言うローズに、しかしジャッカルはやや不満そうに顔を歪める。


「あーん? 当たり前だろ? 地図が完璧だったとしても、二〇層までは朝イチで潜っても昼過ぎまでかかるんだ。帰りのことも考えりゃ、最低一泊はしねーとまともな探索なんてできねーだろうが」


「むむっ? 言われてみればそうなのじゃ。なら本当に慣れておるのじゃな」


「まあな。つっても普通はこんな階段の途中じゃなくて、手前か降りてすぐの平らなところとか、あるいは共有されてる野営部屋なんかを使うけどよ。おかげで体が痛くて仕方ねーぜ……くそっ」


 立ち上がったジャッカルが、そう言いながら更に体を伸ばしていく。それに倣ってローズも軽く体を動かすと、知らず凝り固まっていたのか全身が痛気持ちいい。


「くぅー、これはきくのじゃ!」


「一晩座ってりゃ、誰だってそうなるさ。なら後は軽く飯を食って出発だが……」


「ゴレミ再起動デス! アンビリカルケーブルは繋がってないのデス!」


「おお、おはようなのじゃゴレミ」


「起きたか。ならテメーもさっさと食え。二〇分で出るぞ」


「わかったデス」


「では、さっさと食べてしまうのじゃ」


 ジャッカルに促され、ローズも鞄から携帯食を取り出す。小麦粉を主にドライフルーツを混ぜて固く焼き締められた棒状のそれは量はそれほどではなくとも歯ごたえがあり、よく噛んで食べれば相応の満足感が得られる。


「ふむ、偶に食う分にはこれも悪くないのじゃ」


「偶に? やっぱり金持ちはいいもん食ってんのか?」


「いや、そうではないのじゃ。単純に妾達はほぼ日帰りの探索しかせぬから、普通に食事をしてるだけなのじゃ」


「あー、そうか。確かに姫さん達ならそうだな」


「ちなみにゴレミは、優雅に焼きたてクロワッサンを食べているのデス! バターの香りがふんわり漂うサクサクのやつなのデス!」


「チッ! 一人だけいいもん食いやがって」


「冗談なのデス。食べてみたいとは思うデスけど、ゴレミの中の人はそんな喉に詰まりそうなもの食べられないのデス」


「…………チッ」


 中の人がいる演技を続けているゴレミに、ジャッカルが顔を背けて舌打ちをする。そうして食事を済ませると、その後に続く生理現象を階段を上った先で済ませてから、一行は全員揃って一三層へと突入した。


「ここはどんな魔物が出るのじゃ?」


「今までと同じなら、ファイター種のゴブリンが出るはずだ」


「うむ? ゴブリンはわかるのじゃが、ファイター種とな何なのじゃ?」


「知らねーのかよ!? ファイター種ってのは、要は武装したゴブリンだ。普通のゴブリンは全部腰布に棍棒だけど、剣持ってたり弓持ってたりするんだ」


「ほほー。それは強いのじゃ?」


「ま、それなりにな。ただ……いや、今はいいか」


「何じゃ? 言いかけは気になるのじゃ! 教えて欲しいのじゃ!」


「すぐわかるっての。それよりさっさと道を探ってくれ」


「むぅぅ……」


 ぞんざいに扱われ、ローズが不満げな表情をしつつもマギロケーターを起動する。そうして少し進むと、通路の先から件のゴブリンが姿を現した。八〇センチほどの鉄剣を持った、典型的な戦士スタイルだ。


「ギャギャー!」


「此奴が件の魔物なのじゃ?」


「そうだ。こいつは見たまんま、ゴブリンソードマンだな。だが……フッ!」


 素早く腰の剣を抜いたジャッカルが、一気に間合いを詰めて斬りかかる。ゴブリンソードマンはそれを剣で受け止めようとしたが、ジャッカルの剣はそれをすり抜け腕を肩から切り落とし、返す刃で首を刎ねる。


 そのあまりにあっさりとした結末にローズとゴレミが目を見開いていると、ジャッカルは剣を戻しながらつまらなそうに口を開いた。


「やっぱりだ。クソザコになってやがる」


「今までのゴブリンソードマンより弱かったデス?」


「いや、違う。さっきも言ったが、ファイター種のゴブリンってのは色んな武装をしてるんだよ。で、ゴブリンみてーな雑魚の真骨頂は、群れを成して襲ってくるってことだ。本来の一三層ならもっと大人数でパーティを組んで襲ってくるんだが……」


「ああ、なるほど。今の<底なし穴(アンダーアビス)>では、一体ずつしか出てこぬからな」


「そういうことだ。今までならシールダーとかソードマンの前衛とアーチャーとかメイジなんかの後衛が、最低でも三体は組んで襲ってきてた。だから多少面倒だったんだが、一体ならちょいと強いゴブリンってだけだからな。


 ま、これなら不意をつかれでもしなきゃ、むしろ一二層(した)より楽だろ。周囲の警戒は俺がやってやるから、ガラクタは姫さんを守れ。で、姫さんは道探しに集中だ」


「わかったデス! ローズはゴレミが守るデス!」


「うむ。二人共頼りにしておるのじゃ」


 役割分担が決まり、一行は更に進んでいく。そうして一四、一五層と降りていくものの、出てくる魔物に変化はない。


「この辺の魔物はずっと同じなのじゃ?」


「この層までは敵の数が増えることで難易度があがる感じだったからなぁ。その分遭遇率はあがってるっぽいが、まあ瞬殺しちまえば関係ねーよ」


「ジャッカルが思った以上に頼りになって、正直ちょっと困惑してるのデス」


「んだそりゃ……まあ俺もちょっと拍子抜けはしてるけどな」


 ゴレミが驚いているのと同じように、ジャッカルもまたこの順調な道程には少なからず驚きを感じていた。ただしそれはゴレミ達のように「ダンジョンの仕様変更のせいで弱くなってしまった魔物」にではなく、ゴレミ達の実力についてだ。


 単体縛りのせいで大分格落ちしているとはいえ、片腕しかないゴレミが一五層の魔物と普通に戦えているし、ローズも障壁魔法を常に張り巡らせているようで、敵の攻撃に傷つく様子がない。五層で負けて逃げ帰ってきたというから風が吹くだけで死ぬような雑魚のお守り(・・・)を覚悟していたジャッカルからすると、これは想定外の結果だった。


(このゴーレム、こんなに強かったのか? 一年前も同じ性能だったって言うなら、初手が決まらなかったら最悪負けてた可能性もあるな。それに姫さんも、皇族だけあってえらく上等な防御系の魔導具を持ってるようだし……こりゃ思ったよりずっと楽に金が稼げそうだ)


 酷く足を引っ張られるのであれば、ジャッカルは最悪二人を適当な場所に残し、クルトの遺品らしきもの(・・・・・・・)を適当に調達して戻ってこようと思っていた。何故ならジャッカルのなかでクルトは間違いなく死んでおり、万が一生きていたとしても負傷者を連れた状態で地上へ戻るなど危険極まりないので、場合によっては自分の手でとどめを刺すことすら厭わないつもりだったからだ。


 だがこの二人がそれなりに戦えるなら、わざわざそんなリスクを冒す必要もない。普通に二二層まで行って遺品を回収し、それで戻れば依頼は円満達成となるのだから、あとのことを考えてもそっちの方がいいに決まっている。


 故にジャッカルは今の状況に内心でほくそ笑み……とはいえ腐っても二〇層超えの探索者。すぐにその油断を切り捨て、内心の焦りを誤魔化すためかどこか浮ついて見える二人に改めて声をかける。


「だからって油断すんなよ。俺は元々誰かを護衛するような戦い方はできねーんだ。倒すだけなら倒してやるが、自分の身は自分で守れ。いくら護衛依頼だからって、自分の命を賭けてまで守ってはやらねーからな」


「わかっておるのじゃ。妾もそこまでを求める気はないのじゃ」


「そうなのデス。『忠義の戦士』なんてジャッカルとは真逆過ぎて、おへそがティーポットになっちゃうのデス!」


「ケッ、言ってろ」


 軽口をかわし終えると、三人は再び前進を開始する。それぞれの思惑を胸に、ダンジョン探索は佳境へと突入していった。

今年も一年お付き合いいただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。

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