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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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ゴレミの覚悟

『二二層…………』


 告げられたその情報に、ゴレミは必死に思考を巡らせる。


 今現在のゴレミの性能は、「試練の扉」を攻略したことにより二〇層相当にまで引き上げられている。だが奉仕型であるゴレミの素体はそもそも戦闘能力に乏しいため、実際に問題なく戦えるのは精々一五層くらいまでだと判断していた。


 にも拘わらず、クルトがいるのは二二層。それはつまり、居場所がわかっても辿り着く手段がないということだ。


『ランダム転移なのに通常空間、しかも同じダンジョンの中に出現するとは、流石イリスを引き当てただけあって、この人間は相当な幸運……いえ、運命力とでも言うべきものを持っているようですね。


 それでイリス、貴方はどうするのですか?』


『勿論、助けに行くデス』


 ベリルの問いに、ゴレミは一瞬たりとも迷うことなく断言する。だがそんな妹の言葉に、ベリルは少しだけ姉の顔を出して答える。


『今の貴方の能力では、その途中で壊れてしまうと思いますよ?』


『それでもデス。もし逆の状況だったら、マスターは絶対にワタシを助けに来てくれたデス。きっとワタシには予想もつかない方法で、どんな困難だってどうにかしちゃうのデス!』


『随分とあの人間を信頼しているのですね』


『そりゃあもう! だってマスターは、マスターなのデス!』


 何の根拠もない言葉。だがそこに込められた無限の想いに、ベリルはしばし押し黙る。


『じゃ、ワタシはどうやってマスターを助けるかをみんなと話し合ってみるデス! ありがとうデス、ベリル姉ちゃん』


『……少し待ちなさい。貴方がそこまで言うのであれば、私も覚悟を決めましょう。ガーディアン権限によりコマンド発動。異常を調査するための<拠点>の設営を開始』


『? ベリル姉ちゃん?』


『……あの人間のいる場所をセーフルームにしました。これで部屋の中に魔物は入れず、また最低限必要な水と食料の入った宝箱を、八時間ごとに再設置するように設定してあります。部屋の中にいる限りは安全でしょう』


『姉ちゃん! ベリル姉ちゃんは最高なのデス!』


 ベリルの配慮に、ゴレミは飛びつくほどの感謝をその声にのせて伝える。その声にベリルは今すぐ妹の側に行きたい衝動に駆られるが、何とか脳内で抱きつかれる妄想をするだけに留める。


『ただし、絶対に安全とは言いません。セーフルームはあくまでも魔物が入れないだけで、あの人間が自分の意思で出入りすることはできます。迂闊にも外に出て強力な魔物に殺されたとしても、それは自業自得です。


 それとこれは、あくまでもダンジョンの異変が続く間だけの特例措置です。通常ダンジョンにこのような部屋が存在することはアルフィア姉様が絶対に認めませんからね。


 なので、タイムリミットはエプシルが異変を収束させるまでの間……おおよそあと七日となります。あの人間を助けたいなら、それまでに何とかしなさい』


『わかったデス! ベリル姉ちゃん、本当に……本当にありがとうデス!』


 その言葉を最後に、プツッとゴレミとベリルの接続が切れる。だが妹が残した心からの感謝の言葉は、ベリルのなかにずっと残り続ける。


「……頑張りなさい、イリス。貴方が大事だと思うもののために」


「オォォォォォォォォ…………」


 霧深い<深淵の森(ビッグ・ウータン)>の最奥。会話しながら討伐した敵……割れた空から落ちてきた太陽を背負う巨人の断末魔を背に、ベリルは妹の幸せを祈った。





「……………………ハッ!」


「む、目が覚めたのじゃ?」


 意識が戻り声をあげたゴレミに、すぐ側で警戒していたローズが話しかける。するとゴレミは勢いよく立ち上がると、ローズに向かって会心の笑みを浮かべた。


「マスターの居場所がわかったデス!」


「なぬ!? それは凄いのじゃ! で、クルトは何処におるのじゃ?」


「この<底なし穴(アンダーアビス)>の二二層デス。偶然にも(・・・・)魔物が入れない部屋に転移したみたいなので、今のところは無事なのデス」


「ほぉ、それは朗報なのじゃ! しかし、二二層……」


 予想を大きく超える朗報に、ローズが一瞬喜ぶ。だが同時に覆せない悲報の方に顔を苦渋に歪める。


「妾達だけでは、二二層に辿り着くのは現実的ではないのじゃ。かといって誰かに助力を頼むにしても、一旦ダンジョンの外に出てしまえば、二度とクルトと合流できなくなってしまうのじゃ」


「それに関しては、ゴレミに妙案があるデス。ただ時間がないデスから、今すぐ地上に向かって移動しながら話をするデス」


「そうなのじゃ? わかったのじゃ」


 その言葉にローズが頷いたことで、二人は足早にダンジョンを脱出していく。行きと違って帰りは地図があるため迷うこともなく、またゴレミが一切の手加減なしで遭遇した魔物を全て瞬殺していったため、二人がダンジョンの出入り口に辿り着くまで一時間ほどしか掛からなかった。


「それでゴレミよ、どうするのじゃ?」


「ローズはこの変異ダンジョンに最初に入った時のこと、覚えてるデス?」


「うん? 何度も出たり入ったりした時のことなら、当然覚えておるのじゃ」


 ゴレミの問いに頷きつつも、ローズは不思議そうに首を傾げる。


「じゃが同じパーティであったとしても、一旦出てから入り直したら違うダンジョンに跳ばされておったのじゃ。それともまさか、妾とゴレミが手を繋いだ状態で一人だけ外に出て、入り口近くで交渉でもするのじゃ?」


「当たらずとも遠からずなのデス。答えは…………ふんっ!」


 突如として、ゴレミが全力でダンジョンの壁に体当たりを始める。驚いたローズがゴレミを止めようとしたが、ゴレミはそれを一切聞き入れることなく体当たりを……正確には左の肩だけをダンジョンの壁に打ち付け続け、遂にバカンという音を立てて、ゴレミの左肩が砕けた。


「ふーっ、ふーっ、ふーっ…………やっと砕けたのデス」


「ゴレミよ、一体どうしたのじゃ!? 妾は怖くて泣きそうなのじゃ……」


「ああ、ごめんなさいデス。でもこれでいいのデス」


 オロオロするローズに、ゴレミは笑顔でそう答えながら砕けて落ちた自分の左腕をそっと通路の横に寄せる。


「たとえ体の一部がダンジョンから出ても、全部出ない限りは同じダンジョンに戻れるデス。つまりゴレミの一部であるこの左腕がここにある限り、ゴレミと手を繋いでいればローズや別の誰かを連れて、このダンジョンに戻ることができるデス」


「それは……っ!? いや、実に盲点なのじゃが、しかしゴレミの腕は……」


 ちょっと欠けたり傷ついたりしたくらいなら、ゴレミの体が直るということをローズも知っている。だが肩が砕けて落ちた腕が直るのかと問われれば、甚だ疑問だ。


 だがそんなローズに、ゴレミは穏やかな笑みを浮かべたまま静かに首を横に振る。


「問題ないのデス。この程度でマスターを助けられるなら、安いものなのデス。ゴレミはお高くとまった女ではないのデス!」


「ゴレミ…………」


「さあ、それより早く、マスター救出に力を貸してくれる人を探すデス! 流石にダンジョンの異変が収まってしまったら、もうマスターのところには辿り着けないのデス!」


「ということは、今日も含めてあと七日ほどか!? 確かにゆっくりはしておられぬのじゃ! 急ぐのじゃ!」


 仲間(ゴレミ)の献身に胸を打つより、己の無力を嘆くより、今はただ仲間(クルト)の為に。想いを一つにした二人は、真夜中の探索者ギルドに足音を響かせながら走り出した。

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