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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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無駄な努力の価値

「え、ちょ、ちょっと待ってください。一〇日で戻るって、クルトさん達がダンジョンの異変を解決したってことですか!?」


「いえ、違います。俺達は何もしてないですね」


「あれ、そうなんですか? じゃあ異変の原因を特定して、それが一〇日ほどで収まるってことでしょうか?」


「いや、原因とかはわからないですね」


「…………? 問題を見つけて解決したわけでも、原因が判明したわけでもなく、でも一〇日くらいで元に戻るんですか? どうして一〇日だと?」


「そこはゴレミが調べたからですね」


 段々と首の傾きが深くなっていっていたリエラさんが、姿勢を戻してゴレミの方を見る。


「……あの、ゴレミさん?」


「確かにゴレミが調べたデスけど、それ以上のことは言えないのデス。たとえ触手で拘束されてヌルヌルイヤーンな拷問をされても追加情報はないのデス!」


「いや、そんなことしないですけど……えぇぇ…………?」


 アホな情報を付け加えつつきっぱり断言するゴレミに、リエラさんがこれ以上ないくらい困惑の表情を浮かべる。その気持ちは痛いほどわかるが、俺にできるのは精々苦笑いを浮かべておくことだけだ。


「あの、クルトさん? これは流石に……全く何もわからないし何もしていないけれど、おそらく一〇日ほどで異変が消えると言われても、ギルド側としてはどうにも対応できないというか…………」


「ですよねー。とは言え、俺達は別に何かをして欲しいわけじゃないですから。単に一〇日くらいで元に戻るという情報を得たので、一応お伝えしただけです。それによって何か被害が出るとかじゃないみたいですし……だよな、ゴレミ?」


「そうデス。異変が起きた時がそうだったように、元に戻る時も中にいる人に影響はないデス。強制排除とかもされないデスし、一回外に出るまで今の状況が適応され続けるだけなのデス」


「な、なるほど? ちなみにですけど、何故そんなことがわかるのかも……?」


「勿論トップシークレットなのデス! 感覚遮断落とし穴に下半身だけ落とされても言えないのデス!」


「はぁ…………」


 どうしていいかわからないという顔で、リエラさんが俺の方を見る。なので俺はずっと浮かべたままの苦笑いをそのままに、その思いに答えるべく口を開く。


「すみませんリエラさん。でもこれ、俺達からすると最上の解決なんですよ。元々俺達が異変の調査に名乗り出たのは、何かできるかも知れないのに何もしないで大量の被害者が出たりしたら嫌だって、ただそれだけのことなんです。


 でも、蓋を開けてみたらダンジョンがぶっ壊れるわけでもなく、大量の被害者がでるとかでもなく、おまけに放っておけば勝手に元に戻ってくれる……これなら俺達がこれ以上出しゃばる必要がないでしょう?」


 そこで一旦言葉を切ると、俺は隣にいるゴレミの頭にポンと手を乗せる。


特別なこと(・・・・・)なんて何もない。新人がイキッて調査に協力すると名乗り出たけれど、ただダンジョンに潜っただけで何もできず何もわからずに終わった。その結果こそ、俺達が一番欲しかったものなんです。いざとなれば目立つ覚悟はありましたけど、そうならなくていいならその方がいいですからね」


 見ず知らずの相手だろうと、沢山の犠牲を出したりダンジョンの未来が潰えるような状況であれば、ゴレミの存在を世に知らしめることも覚悟していた。


 だがそうでないのなら、あえて有名になんてなりたくない。手の届かないところにある未来なんて、俺には必要ない。


 天に轟く名声よりも、使い切れない大金よりも、これからも三人揃って探索を続ける事の方が、俺に取ってはずっと大事なものなのだから。


「……そうですか。確かにそれがいいかも知れませんね」


 そんな俺達の態度に、リエラさんが優しく微笑む。だがすぐに真面目な顔つきに戻ると、改めて話を続けた。


「わかりました。大きな被害が出るとかであれば何とかして上層部を説得する必要がありましたけど、放っておいても解決するということであれば、私の方としても参考意見に留めさせていただきます。


 ただ勿論、根拠のないクルトさん達の報告を真に受けて調査を打ち切るわけにはいきませんので、今後も異変が収まるまでは、今のダンジョンの調査を続けていく形になると思います」


「それがいいと思います。何か起きてるのは間違いないので、自力で調べるならわかることもあるかも知れないですからね」


「うむ。ズルはできないというだけじゃからな」


「ゴレミはズルじゃないのデスー! 関係者だからネタバレを禁止されてるだけなのデス!」


「ははは、わかってるって」


「フフッ、そうですね。ではクルトさん、明日以降の調査はどうしますか? ダンジョンの中に入るのであれば、改めて申請をしていただかないといけないんですけど」


「あー、どうすっかな……?」


 改めてそう問われて、俺はしばし考える。当初の目的である「人的被害の軽減」と「ダンジョンの異変解決」は、放っておけば勝手に達成されるということが既に判明した。ならば俺達にはこれ以上異変の続くダンジョンに潜る理由はない。が……


「このダンジョンに潜れるのがあと一〇日だけってなると、それはそれで逆に魅力的な気がするな」


「確かに、これを逃したら二度と体験できぬとなると、途端に特別感が増すのじゃ!」


「ならまた潜るデス?」


「そうしたい気持ちもあるんだが、それだと収入がな……」


 今日の俺達の活動時間は、その大半がマッピング作業だった。倒した魔物の数も魔石を残さない黒いゴブリンを除くと二〇体ほどで、かつその全てが通常のゴブリンのため稼ぎは悪い。


 もっと深くまで潜ってそれなりに強い敵を倒さないとまともな収入にならないのだが、毎回地形が変わってしまうため潜るのに時間がかかる。その問題を解決しない限りは、今のダンジョンで安定した収入を得るのは難しいと言わざるを得ないのだ。


「せめて階段の位置が……って、そうだ! あの、リエラさん。周囲の地形がわかるとか、ダンジョンの階段の位置がわかるみたいなスキルとか魔導具ってあるんですか?」


「地形に、階段の位置ですか? ちょっと待ってください」


 思い出して問う俺に、リエラさんが一旦受付から離れ、奥でゴソゴソと何かを探し始める。そうしてしばらく待つと、いつもの営業スマイルを浮かべたリエラさんが説明をしてくれた。


「お待たせしました。地形の把握ということでしたら、<風魔法>にそういうものがありますね。特殊な高い音を発してそれの反射を聞き分けることで地形を把握できるとのことで、かなり正確に全体像を把握できるそうですが、反面<底なし穴(アンダーアビス)>のような入り組んだ場所だと音の乱反射が酷くて使えないらしいです。


 他には弱めの風魔法を発動させ続け、その流れで道を知るというものもあるようです。こちらはあくまで道の繋がりがわかるだけで精緻な地形の把握は無理ですが、その分広い範囲をカバーできるみたいですね。


 音の反響なら勿論、風の道の方でも通路が上や下に向かっていればわかるので、どちらも階段の位置を特定することもできるはずですよ」


「ほほぅ、風魔法……どっちもスゲー便利そうですけど、風魔法じゃないと駄目なんですか? たとえばローズの<火魔法>で似たようなことができたりとかは?」


「クルトよ、それは無茶なのじゃ」


 俺の問いかけに、しかしリエラさんではなくローズがそう口を挟んでくる。


「少し考えてみればわかるのじゃ。風なら吹き抜けるだけじゃが、水や土となればそうはいかぬのじゃ。ましてや炎が通路の奥から迫ってきたりしたら、普通に攻撃と勘違いされるのじゃ!」


「……ああ、そりゃそうだな」


 確かに風が吹いたからって何とも思わねーけど、足下に水が満ちてきたり土が盛り上がったりしてきたらスゲービビるし、火が迫ってきたらそれこそ罠を疑って、まずは全力で逃げるだろう。


「ならやっぱ、そういう魔導具を探す方が賢明か? リエラさん、ひとまず明日以降の探索は保留ってことでお願いします。で、また潜る時は事前にお伝えしますので」


「わかりました。では夜も遅いですから、気をつけてお帰りください」


「ありがとうございます、リエラさんもあまり無理をしないで……って、俺が言っても仕方ないですけど」


「ふふ、ご心配なく。さっきもお話しした通り、昼間は割と暇なんで、こっそりお昼寝とかしてますから。これ、内緒ですよ?」


「うむ! 乙女の秘密なのじゃ!」


 悪戯っぽく微笑みながら口の前で人差し指を立てて見せるリエラさんに、俺達も同じような笑みを帰してからギルドを後にする。眠い目を擦りながら宿に辿り着き、身支度もそこそこにベッドに倒れ込めば、頬に感じる布団の柔らかさに、俺の意識はあっという間に吸い込まれていくのだった。

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