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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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害虫駆除

「ローズ、下がれ!」


「マスター!」


 俺がローズを庇うように立つと、即座にそんな俺の前にゴレミが回り込んで両手を広げた。その状況で俺は努めて冷静に、目の前で浮かぶ相手のことを観察していく。


 身長は、おそらく俺と同じくらい。両サイドに羽根飾りのついた丸みを帯びた兜を目深に被り、体には青を基調として金で縁取りされた豪華な金属鎧。腰はスカートになっており、脚には鎧と同じ意匠のグリーブを履いている。そのうえで三〇センチほど床から浮いているのは、足音を立てずに移動するためだろうか?


 手に持っているのは槍。身長と同じくらいの長さがあるそれはこの場所で振り回すには明らかに長すぎて不便だと思われるが、こんな装備をしている奴があえて持っているのだから、きっと何らかの仕掛けがあるんだろう。


(くそっ、何だこいつ!? 何処から現れた!?)


 俺達が今いるのは、分岐などない一本道。死角がないとは言わねーが、それでも人間が隠れられるような場所は皆無だ。


 まあさっきの黒ゴブリンだって染み出た水が魔物の形になったわけだから、ダンジョン側の存在なら色々やりようはあるんだろうが……今重要なのはそこじゃない。


「ふぅ。ダンジョンに不正アクセスを試みるような輩はどのような者かと思っていましたが……」


「……誰だ、あんた?」


「貴方に名乗る意味を感じません」


 俺の問いかけに、そいつはどうでもよさそうな声でそう答える。だがその反応に、俺は内心でガッツポーズを決めた。


(よし、話が通じる!)


 もしこいつが魔物と同じ存在であれば、俺の言葉なんざ完全無視して攻撃してきたはずだ。だが友好的ではないにしろ、こいつは俺の問いかけに答えた。


 つまり、会話が通じる可能性がある。明らかに特別な存在っぽい相手に戦って勝てるとは思えねーから、こいつは素晴らしい僥倖だ。このチャンスを逃さないように、俺はできるだけ自然な笑みを浮かべて話を続けていく。


「ははは、そいつぁ残念。せっかくこうして会話ができるなら、お名前くらいは伺いたかったんですが……ああ、ちなみに俺はクルトって言います。で、こっちがローズで、こいつはゴレミです」


「ゴレミ…………」


 俺が二人を紹介すると、謎の女……声や鎧の意匠から、多分……がゴレミの方をジッと見る。


「? 何デスか?」


「いえ、別に……しかし、ゴレミ…………貴方、そんな名前でいいのですか?」


「勿論デス! マスターがつけてくれた、大事な名前なのデス!」


「そう、ですか……」


 笑顔で堂々と答えるゴレミに、謎の女が何とも含みのありそうな声で呟く。何だ? ゴレミと何か繋がりが……って、ゴレミはダンジョン関係者なんだから、よく考えりゃ繋がりがあって当然なのか?


「なあゴレミ、この人知り合いか?」


「今のゴレミ的には、全然知らない人デス。でも元のゴレミが知ってる人かどうかはわからないデス。言えないではなく、本当にわからないデス」


「そっか、なら今はどうしようもねーな。それでその、貴方は――」


「貴方のような者から、貴方と呼ばれるほど親しくなった覚えはありませんが?」


「えぇ……? じゃあ何とお呼びすれば?」


「好きに呼べばいいでしょう?」


「おぉぅ、えっと、それじゃあ…………」


 その無茶ぶりに、俺は背筋が寒くなる。好きに呼べということは、気に入らない呼び方をしたらただじゃおかねぇということだ。全くのノーヒントで正解を当てるのは天に浮かぶ星を掴むようなもんだが…………ふふ、俺のセンスを見せてやるぜ!


「フワミさんでどうですかね?」


「……………………フワミ? どういう意味ですか?」


「どう? どうってその……ほら、フワッと浮いてるから?」


「……………………」


「……………………」


 俺と謎の女ことフワミが、互いに無言で相対する。すると俺の服の肩を、ゴレミとローズがポンと叩いてきた。


「クルトよ、流石にそれは悪ふざけが過ぎるのじゃ。いや、クルトが本気であることはわかっておるのじゃが、それがまた始末に悪いというか……」


「マスターのネーミングセンスがしょぼくれきっているのはわかってるデスけど、女の子なら最後にミをつけとけば大丈夫だろうという発想は、いくら何でも是正するべきだと思うデス」


「な、何だよ二人して!? いいじゃねーかよフワミ! これ以上ないほどピッタリの名前じゃねーか!」


 力説する俺の前で、フワミがスッと地面に降り立つ。それと同時にフワミの全身から言い知れぬ圧のようなものが迸ってくる。


「……これでもう、私は浮いていません。なので断じてフワミなどではありません」


「お、お気に召さなかった感じ? ですかね? あはははは……」


「……………………ハァ。私の名前はベリルです。ベリルと呼ぶことを許します」


「お!? おお! ベリルさん! いい名前ですね、ベリルさん! わかりました、そう呼ばせていただきますね、ベリルさん!」


「…………連呼することまでは許していません」


「わっかりました!」


 呆れと諦めの混じったベリルさんの声に、俺は元気にそう返事をする。俺の渾身のネーミングが却下されたのは残念だが、自然に会話を続けられるこの流れは悪くない。


「それじゃ改めまして、ベリルさんは俺達に何かご用ですか?」


「用というほどのものではありません。ダンジョンに不正アクセスする(バグ)を見つけ、必要ならばそれを叩き潰しにきただけです」


「へ、へー。そんな悪いことをするやつがいるんですねー。大変ですねー、困っちゃいますねー」


「何故他人事のように言うのですか? ああ、やったのはそのゴーレムで、自分は関係ないと主張したいのですか?」


「それは違います」


 ベリルさんの言葉を即座に否定し、俺はゴレミの前に出る。


「ゴレミは俺達の大事な仲間で、今回のことは俺が頼んでゴレミにやってもらったことです。責任があるというのなら、それはパーティリーダーである俺にだけです」


「マスター! それは違うデス! これはゴレミが――」


「いいから! ベリルさん。俺達は別に、ダンジョンをどうにかしようなんて思ってないです。むしろ異常な状況になったダンジョンをどうにか元に戻したくて、その原因を探っていたんです。


 まあ結局何もわからず、ほっとけば一〇日くらいで元に戻るってことがわかっただけですけど……でもそれが気に障ったというのなら、正式に謝罪します。申し訳ありませんでした」


 そう言って、俺は深く頭を下げる。そうして一〇秒ほどしてから頭をあげると、何故かベリルさんが再びフワリと床から浮かび上がっていた。


「やっぱりフワミ……」


「……」


「ンンッ! な、何も言ってません!」


 思い切り唇を噛みしめて、俺は呟きを飲み込む。兜に隠れて目は見えていないのに、何故かスゲー睨まれたと感じたのだ。事実ベリルさんは上空から見下すようにして、俺達に冷たい言葉を投げかけてくる。


「謝罪も反省も必要ありません。私の役目は、ダンジョンの健全な運営を妨げる存在の排除です。自力でダンジョンコアにアクセスしたというのなら、それはそれで人間の技術と努力の発展を言祝ぐところですが……ゴーレムを使ったチートであるなら、それを認めることはできません」


「ま、待ってください! もう二度としませんから! だから今回はほら、もう済んだことってことで、見逃してもらったりとか……」


「謝罪も反省も必要ないと言ったはずです。付け加えるなら、言い訳も必要ありません。貴方達に対する処置は、既に決定事項です。では……」


「チッ! ゴレミ、ローズ、こっちに!」

「うむ!」

「手を繋ぐデス!」


 槍を掲げるベリルさんに、俺はせめて分断されないように、ゴレミ達と手を繋ぐ。だが……


「インスタントキーを使用し、アドミニストレーター権限でコマンドを発令。対象者を指定の空間へ強制転移」


「なっ!?」

「ぬあっ!?」

「マスター!」


 突如足下に開いた黒い穴。がっちり繋いでいたはずの手はあっさりと分かたれ、俺達はそれぞれ別の場所へと吸い込まれていった。

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