あっさりとした結末……?
「でな、その時ゴレミが――」
「ほほぅ。最初の頃のゴレミは、なかなかに尖っておったのじゃな」
「だな。今思い返すと割と言葉遣いも違うというか……まあお互い距離感とかそういうのを測ってたんだろうな」
カチャッ!
俺とローズが過去のゴレミトークで盛り上がっていると、不意に背後から音がした。二人で顔を揃えて振り返ると、ゴレミの入っていた石箱の隙間から白い煙が吹き出し始め、同時に蓋がゆっくりと開いていく。
プシュー
「ゴレミ爆誕! 恥ずかしながら帰ってきたのデス!」
「その扉内側からでも開くんだな。てか何だその煙? 前はなかったよな?」
「誕生なのに帰還なのじゃ?」
「煙は演出なのデス! あと細かいことは気にしてはいけないのデス! ゴレミはいつだって雰囲気で会話しているのデス!」
「それ自分で言うのかよ……まあいいや」
俺はのっそり立ち上がると、ゴレミの側に歩み寄ってその頭に手を乗せる。
「おかえり、ゴレミ」
「へへ。ただいまデス、マスター!」
「それでゴレミよ、成果はどうだったのじゃ?」
「ふふーん、それはもうバッチリだったのデス!」
ローズの問いに、石箱から出てきたゴレミがムンッと胸を張る。そのドヤ顔を見るに、どうやら今回はいい成果が得られたようだ。
「エロクール・ゴレミのピンク色のゴーレムコアがフル活動した結果、ダンジョンの異変の原因は……わかったけど言えないのデス!」
「言えないのかよ!? いや、わかっただけでスゲーけど、それでどうしろと?」
思わずずっこける俺に、しかしゴレミが舌もないのにチッチッと舌打ちの音だけを響かせ、顔の前で立てた人差し指を左右に振る。
「ふっふっふ、勿論それだけじゃないのデス。この異変はダンジョンにとっても本意ではなかったらしく、あと一〇日もあれば勝手に修正して元に戻るということが判明したのデス!」
「おおー、それは重畳なのじゃ!」
「そ、そうなのか? へー…………」
「マスター、何でそんな反応デス?」
「いや、何て言うか……スゲーあっさり答えが出ちまったから、ちょっと拍子抜けしたっていうか……」
俺としては、「放っておいたらダンジョンの、ひいては世界の危機!」みたいなテンションで立ち向かった事件なわけだが、蓋を開けてみればこんな浅い階層であっさりと答えが得られたうえに、その内容が「放っておいても一〇日で元に戻る」というものだったとなると、肩透かし感が半端ない。
「マスター、気持ちはわかるデスけど、現実なんてそんなものなのデス。リモートワークの楽さを知ってしまったら、いちいち出勤なんてしてられないのデス」
「妾とて大冒険の予感に胸を躍らせなかったと言えば嘘じゃが、とはいえ『ダンジョンの最奥に向かって障害を取り除け』などと言われたら、そっちの方が困っていたのは明白なのじゃ」
「まあ、それはな」
もし本当にダンジョンの異変が致命的なもので、ゴレミをダンジョンの最奥に連れて行かなければならないとなっていたら……俺はどうしただろうか? 気持ちはともかく実力的にはどうやっても不可能なので、最前線を探索しているようなパーティにゴレミを託して、俺とローズは留守番? 現実的にはその辺が落とし所になっていただろう。
だがそれに納得できるかは別だ。もやもやした気持ちを抱え、「部外者」になってしまった俺とローズが地上でゴレミを待ち続けるのに比べれば、あっさり問題が解決する方が万倍いいに決まってる。
「……そうだよな。浪漫を現実として楽しむには、まだまだ実力不足だよな。ならサクッと帰って、リエラさんに報告するか。まずはこの通路の入り口まで戻ろうぜ」
言って俺は、今きた道を引き返し始める。するとすぐにゴレミ達もついてきて、歩きながら会話も続いていく。
「そうデスね。その後はゴレミの価値を知った人達からの激しい争奪戦になって、マスターが『ゴレミは俺の女だ! 誰にも絶対に渡さない!』と啖呵を切る胸熱展開が待っているデス!」
「今回の件が公になれば、本当にそうなりそうなのが怖いのじゃ」
「そこはフラムベルト殿下に素直に頼ろうぜ。オーバードなら、ゴーレムの見た目を人間っぽく偽装する魔導具とかねーのか? 人間が操ってるって言い訳は最近大分キツくなってきてるし、なら逆に見た目を人間っぽくしちまえば問題解決になりそうだと思ったんだが」
「あー、どうじゃろうな? その辺はゴーレムによる詐欺や犯罪を防ぐために、規制されていそうなのじゃが」
「そっか。ならそういうのこそオヤカタさんに聞いとけばよかったぜ。くそっ、失敗したな」
「馬車に乗ってすぐに忘れ物に気づくのはよくあることなのデス。人生とはいつだって、引き返せない後悔を背負って生きるものなのデス」
「おぉぉ、何とも深い台詞なのじゃ」
「内容はただの聞き忘れなんだがなぁ」
国の法律なんてもんに縛られるはずもないうえに、ゴーレムの肌を人間っぽくすることすらできるオヤカタさんなら、見た目を偽装する魔導具なんて簡単に作れそうな気がする。
とはいえまたすぐノースフィールドに戻るわけにもいかねーし、そもそも戻ったとしてオヤカタさんの居る場所に辿り着くのも無理だろう。後悔先に立たずとはこのことか、むぅ。
「あー、そうだ。なあゴレミ、結局あの黒い雫はどうにかできたのか?」
「セキュリティーシステムを完全にダウンさせるのは無理だったデス。でもゴレミ達を一時的な例外設定に書き込んでおいたデスから、それが修正されるまで……一回ダンジョンを出て入り直すくらいまでは攻撃されないと思うデス」
「うん? 攻撃されないってだけなら、あの黒ゴブリンはそのままいるのか? そこを歩いていくのは相当不安なんだが」
ゴレミの事は信じているが、かといって「攻撃されない」とわかっていても、敵の群れの中に割り込んで進むのは落ち着かない。何せ状況が変わった瞬間、全員から囲まれて袋だたきにされるってことだからな。
「それも大丈夫デス。これだけ時間が経っているなら、魔物の方はとっくに『くらやみのしずく』に戻って回収されているデス。加えて例外状態であれば追加で垂れてくることはないデスから、普通にダンジョンを進むだけなのデス。
あ、でも、『くらやみのしずく』ではない普通の魔物は襲ってくるデスから、完全に安全というわけではないデス」
「ふむん。まあそのくらいなら問題ねーだろ。要は来た時と同じってだけだしな」
「入り直したら駄目ということは、たとえば今日出て明日改めて<底なし穴>に潜る時には、今度は最初から黒ゴブリンが襲ってくるのじゃ?」
「異変が起きている状態の間は、そうなると思うデス。異変が収まって元のダンジョンに戻ってからは……入ってみないとわからないデスけど、多分大丈夫だと思うデス。<火吹き山>も大丈夫だったデスしね」
「ならよかったのじゃ。今後もあれが出続けるとなったら、<底なし穴>探索ができなくなってしまうところだったのじゃ」
「流石に無限湧きはなぁ…………あれ?」
そうやって雑談しながら進んでいくと、やがて俺達は通路の突き当たりに到着した。突き当たり……そう、突き当たりだ。俺達の目の前にあるのは石壁に囲まれた場所であり、そこにあるはずの出口がない。
「うむ? 道を間違えたのじゃ?」
「いやいや、一本道だぜ? そんなわけ……ゴレミ、これどういうことだ?」
「わからないデス。時間で閉じるようなものじゃなかったはずデスけど……とりあえずもう一回開けてみるデス」
「頼むぜ」
俺は勿論、歯車を回したローズであろうと、ダンジョンの壁を壊して通路を繋げるなんてのは不可能だ。今回はゴレミに頼り切りなのが情けない限りだが、今更無駄に維持を張り合うような間柄でもない。
ということで、ゴレミが突き当たりの壁に近づいて、手を触れようとしたまさにその瞬間。
「ダンジョンの根幹に干渉してくる侵入者がどれほどの者かと思っていましたが……まさか貴方達でしたか」
「っ!?」
突如背後から聞こえた声に振り返ると、そこではやたら煌びやかな武具に身を包んだ美女が、微妙に宙に浮いて俺達を見下していた。





