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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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その先に「いいこと」あり

「うぉぉ、マジか!? こう繋がるのかよ!?」


 それから更に数時間かけ、地図の八割ほどを埋めたところで、俺達は漸く第二層に降りる階段を見つけた。


 そこから更に入り口へと戻る道を探索し、おおよそ最短と思われる通路を特定したわけだが……その結果、入り口と二層への階段は思った以上に近いということが判明したのだ。


「くっそ、この通路を左じゃなく右に曲がって探索してたら、スゲーあっさり辿り着けてたのか……」


「うーむ、こうして見ると、妾達が歩いてきた場所はほぼほぼ無意味な回り道ばかりなのじゃ」


「ダンジョンあるあるなのデス。今考えていることの逆が正解なのデス。でもそれは大きなミステイクなのデス」


「それは何が正解なんだよ……? はぁ」


 どうやら今日の運勢は、思ったよりもよくなかったらしい。しかもこの苦労が明日からの楽に繋がるわけではなく、外に出たらまた最初からやりなおしというのが辛い。


「一回降りた層までショートカット……とまでは言わねーから、もうちょっと何かこう、次回の探索が楽になる要素があればなぁ。毎回これをやり直すとか、面倒とか以前に時間が掛かりすぎるだろ……」


「まあまあマスター、苦労した分この先はきっといいことがあるのデス。ご希望ならゴレミがいいことをしてあげるのデス」


「何だよいいことって?」


「キャッ! それを乙女の口から言わせようなんて……マスターのえっち!」


「知らんがな……まあ確かに愚痴言ってても仕方ねーよな。んじゃゴレミ、階段まで行ったら調査(・・)を頼む」


「むぅ、スルーされたデス! でもゴレミは無償の奉仕と無限の愛をマスターに捧げる美少女ゴーレムデスから、ここは仕事を優先するのデス!」


 そう言って俺が歩き出すと、変な形に体をくねらせていたゴレミがローズと一緒に着いてくる。そうしてあっさり第二層への階段へと辿り着くと……マジであっという間だ…………改めてゴレミに声をかけた。


「よし、ここならいいだろ。どうだゴレミ、いけそうか?」


「やってみないと何とも言えないデス」


「まあ、そりゃそうだな。じゃあ俺とローズは周辺の安全を確保するから、やってくれ」


「了解デス!」


 ゴレミが壁に手を突き、目を閉じて集中し始める。なので俺達はそんなゴレミを挟むようにして、一層側をローズが、二層側を俺が見張る。


「普通なら見える範囲には魔物は近づいてこねーんだけど、さっきの例もあるからな。ローズも気をつけてくれ」


「わかったのじゃ」


 軽く声を掛け合えば、あとはゴレミ待ちである。特に何かが起こるでもなく、ただ静かな時間だけが流れていく。


「あ、ゴブリンだ」


「む? 平気なのじゃ?」


「ああ、余裕だって。よっと」


「グギャッ!?」


 偶にこうして近くに魔物がやってくるが、流石に今更単体のゴブリンなんて俺達の相手じゃない。それに近づいてこそくるが流石に階層移動はできないのか、階段の中までは入れないようなのだ。


 ならば俺が内側から剣を振るえば、万が一にも魔物の攻撃は届かない。普通に戦っても楽勝なのに安全地帯から一方的に攻撃できるとなれば、もはや負ける方が難しいレベルだ。


「のう、クルトよ。ふと思ったのじゃが、魔物が安全圏ギリギリまで近づいてくるというのなら、ここから一方的に攻撃するようにすれば、かなり強い相手でも倒せたりするのではないのじゃ?」


「おん? そりゃあ…………」


 あまりに何事もなさ過ぎるせいか、不意にローズがそんなことを問うてきた。俺の方も時間を持て余しているので、その内容について考えてみる。


「多分、やればできるんじゃねーか? 一九層から二〇層とかの区切りの場所だと一気に魔物が強くなることがあるから、そういう場所でなら一応有効活用できるかもな。


 ただまあそんなことしても自分達の戦闘経験にならねーから、意味があるかって言われると微妙だけど」


 強い敵を倒せば、そこから得られる魔石は当然高価なものになる。が、よほど格上の存在でもなければ、無理して倒す一体より、無理なく倒せる三体分の魔石の方が高く売れるので、金銭的な意味で格上を狙う意味はほぼ無い。


 それにそんな倒し方では、自分達の成長には繋がらない。そこから先に進む気が一切ないというくらい探索者としての将来を諦めているのでなければ、やはりやる意味はないだろう。


「それに万が一上手くいったとしても、おそらく一〇日もありゃ対応されちまうだろうしな」


「対応?」


「あれ? 『ナザレの大穴』の話を知らねーのか? てっきり探索者なら誰でも知ってると思ってたんだが」


 意外な言葉に俺が首を傾げると、ローズがむむむっと顔をしかめる。


「ぬぅ、知らぬのじゃ。一体どういう話なのじゃ?」


「昔……って言ってもどのくらい昔なのか知らねーけど、どっかにあるナザレって町の近くに、ちょっとしたダンジョンがあったらしい。そこは罠が多い迷宮型の小ダンジョンで、出てくる魔物もちょっと強めだったり倒すのが面倒なのが多くて、あんま人気のない場所だったみてーだな。


 とは言え全然人がいねーってわけじゃねーから、普通に探索に入る奴もいたわけだが……ある日魔物に追われて必死に逃げていた探索者が、その途中でうっかり罠を発動させちまった。突然開いた床の大穴をその探索者はギリギリで回避できたんだが、追いかけてきていた魔物の方はそうじゃなく、何と穴に落ちて死んじまったんだよ。


 その時初めて、その探索者は『魔物も罠にかかる』ってことを認識した。蓋が閉じないように細工をしてから下に降りると、そこには魔石がいくつか転がってる。


 そこでそいつは閃いた。同じように魔物を引っ張ってきてから落とし穴に落とせば、自分は楽して大量の魔石が稼げるってな」


「おおー、それは賢いのじゃ! じゃが逸話になっておるということは、ろくでもないオチがあるのじゃな?」


「はは、まあな。同業者が少ないってこともあって、そいつはそれから何度も同じ事を繰り返し、魔物を罠に嵌めて魔石を拾い集めていった。だがそれを繰り返すこと、一〇日目。すっかり慣れた様子でそいつが落とし穴を開くと……何と魔物が落とし穴の手前で立ち止まったり、それどころか一部はひょいと落とし穴を飛び越えて、そいつに襲いかかってきたんだ。


 予想外の動きに対応できなかったそいつは今度こそ死に物狂いで逃げ出して、這々の体でギルドに戻るとその事実を報告した……ってのが『ナザレの大穴』の話さ」


 俺がそう話を終えると、ローズが顎に手を当てふむふむと感心したように頷き……しかし途中で首を傾げる。


「ほほぅ、なるほど。何度も同じ事を繰り返せば、魔物も学習するということじゃな……ん? いや、魔物というのは知性を封印されておるのじゃろ? なのに学習とは、矛盾しておるのじゃ?」


「あー、言われるとそうだな?」


 今までは特に何とも思っていなかったというか、「そういうこともあるんだな」と素直に納得していた内容なのだが、ジルさんの話を聞いた今では、確かにその行動に疑問が残る。これは一体……?


「簡単な理屈なのデス。それは魔物が個別に学習したのではなく、ダンジョン側が魔物の行動に修正パッチを当てたからそうなったのデス」


「ゴレミ? 調査は終わったのか?」


「修正ぱっち? というのは何なのじゃ?」


「修正パッチというのは、ダンジョン側が魔物に一括で新たな指示を出すことなのデス。罠の位置やそれが作動したときの行動などを新たに追加されただけデスから、罠があることを知り、どうすればいいかを考えて対処する知性的(・・・)な行動とは真逆なのデス」


 いつの間にか作業を終えたらしいゴレミが、ローズの問いにそう答える。それから俺の方に向き直ると、今度はしょんぼりと肩を落とす。


「調査の方は……ごめんなさいデス、マスター。上手くいかなかったデス」


「ん、そうか……まあそうしょげるなって。苦労した分、この先はきっといいことがあるんだろ?」


「マスター! ならゴレミは遠慮せず、マスターに『いいこと』を要求するのデス!」


「お、おぅ、何だよ?」


「頭を撫でて欲しいデス!」


「ははは……おう、そのくらいならいくらでもしてやるさ」


「へへへー」


 俯くゴレミの頭を、俺はあえてちょっと乱雑にガシガシと撫でてやる。青いリボンの揺れる下で、その顔が嬉しそうにほころび……なるほどこれは「いいこと」だ。クソみてーなマッピングを頑張った甲斐があったってもんだぜ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] と言うことはゴレミ偵察にもそろそろ「アプデ修正」が入る可能性出てきましたね…
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