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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第七章 歯車男と夜の雪

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秘密の報告会

「…………という感じのことがあったんですよ」


「ほほぅ、それはそれは大冒険でしたね、フフフフフ……」


 無事町に戻りギルドで報告する俺の言葉を、ソエラさんが懐かしさすら感じる怪しげな笑い方をしながら聞いてくれる。大分長いと思っていた髪の毛も、オヤカタさんに比べれば全然常識の範囲内だと今なら思える。


 ちなみにさらっと「町に戻った」と言ったが、実際にはその道のりは困難を極めた。何せ来る時はフレデリカの案内で一時間ちょいだったのに、三時間以上歩いても篝火が見つからなかったからな。


 見渡す限り何もない真っ白な雪原で、進んでるのか戻ってるのかすらわからず延々とさまよい歩き、「え、コレマジでヤバくね?」と本気で焦り始めた時に遠くに篝火の光が見えたときの感動を、俺は多分三日くらいは忘れないだろう……閑話休題。


「にしても、クルトさん達は本当におかしな経験ばっかりしてきますね……今回のこれも、私じゃなかったら信じないと思いますよ、フフフフフ……」


「いやぁ、別に狙ってやってるわけじゃないんですけどねー」


「当たり前なのじゃ。むしろ狙ってこんな経験ばかりできる方がおかしいのじゃ」


「マスターはいつだって、驚きに導かれているのデス!」


 曖昧な笑みを浮かべる俺に、ゴレミとローズが突っ込んでくる。まあ実際、妖精だと思ってた魔物は実は妖精じゃなかったとか、魔物のドルクの正体がダンジョンによって知性を封じられたドワーフだとか、しかも魔物になりかけた意識を元の状態まで治したとか、相変わらず自分で言ってても与太話としか思えない内容ばっかりだからなぁ。


「ところでクルトさん。そんな貴方に確認ですが……本当にこれ、私に報告してもよかったんですか?」


 と、そこでソエラさんが少しだけ声を低くしてそう問うてくる。そう、今回俺はあの場所での出来事を、ほぼ全て報告している。だがそれは、同時にフレデリカやオヤカタさんの存在を報告したということだ。


 故郷に帰ったフレデリカはともかく、オヤカタさんは今もあの場所にいる。それを教えてよかったのかという言葉に、しかし俺は笑顔で頷く。


「ええ、いいんですよ。俺達はいつかきっと、またあの場所に行くつもりでいますけど……でもそれまでオヤカタさんがずっと一人じゃ、寂しいでしょ」


 約束したのだから、いつかきっとあそこに戻り、俺はオヤカタさんとの再会を果たす。だがそれがいつになるのかはわからない。俺達のことだから突然やむにやまれぬ事情ができて一月もしないうちに再訪する可能性だってあるだろうが、そうでなければ何年どころか十何年先になることも普通に考えられる。


 加えて、俺達は探索者だ。常に危険と隣り合わせであり、いつ死ぬかだってわからない。もしそうなったとき、オヤカタさんのことを知る者が誰も居なくなってしまうのはあまりに寂しい。親しくなれたからこそ、フレデリカやオヤカタさんを「俺達だけの秘密」で終わらせたくなかったという思いもある。


「それに報告しなかったとしても、あそこにオヤカタさんがいるのは事実ですから。いつか誰かが何も知らずに辿り着いた時、魔物と間違えて戦闘になるのも嫌だったんですよ。ならそういう事情を全部ひっくるめて報告しておいた方がいいかなって。


 あ、でも、報告者が俺達だってことだけは伏せておいてもらえます? それを知られるとスゲー面倒くさいことになりそうなんで」


「おや、いいんですか? 大抵の新人さんは、自分の名前を売ることに必死になったりするんですが……?」


「それは間に合ってるんで」


 有名になる面倒さは、これまでの経験で嫌ってほど思い知っている。なので思わずウンザリした顔をしてしまった俺に、ソエラさんが不敵に笑う。


「フフフ、そうですか……わかりました。ではいただいた情報は、ギルドの方で適切に扱わせていただきますね。フフフフフ……」


「はい、よろしくお願いします」


 最後にそう言って軽く頭を下げれば、これにて探索者ギルドへの報告は終了だ。ギルドから出て見渡せば、そこにあるのは大勢の人の営み。日暮れ間近ということもあってか、辺りにはできたての料理のいい匂いが漂っている。


「あー、この雰囲気は久しぶりだな」


「そうじゃな。実際には半月程度など大した期間ではないのじゃが……妙に懐かしく感じるのじゃ」


「それだけダンジョン内での生活が濃かったのデス」


「だな。んじゃ適当に飯を買い込んで、宿で食いながら話をしようぜ」


「了解デス! なら最近の大量購入ですっかり飲食店に顔が利くようになったゴレミが、美味しいところを見繕うのデス!」


「おお、それは楽しみなのじゃ!」


 自信満々に言うゴレミの勧めに従い、俺達はいい感じに出来たての料理を買って、ずっと空けていた宿の部屋に戻った。金を払い続けていただけあって室内はきちんと清掃もされており、またゴレミがそこそこ顔を出していたこともあって「あー、久しぶりだね!」と店主の人に軽く挨拶をされたりしながら室内に入ると、早速買ってきた料理をテーブルに広げて食べ始めた。


「むぐむぐ……温め直した料理も悪くはないのじゃが、やはり出来たてが最高なのじゃ……」


「おいローズ、口の周りがタレでベッタベタになってるぞ?」


「ぬおっ!? ち、違うのじゃ! 今日はちょっとはしゃいで食べ過ぎただけなのじゃ! 普段は立派な淑女(レディ)なのじゃ!」


「ほらほら、拭いてあげるからお口を閉じるデス……それでマスター、明日からはどうするデス?」


 ローズの口元をハンカチで拭いつつ、ゴレミがそう聞いてくる。それに大して俺は口に入れていた料理を飲み込むと、少しだけ考えてから答える。


「うーん、そうだな。とりあえず明日は一日ガッツリ休んで体調を整えるとして、その後はフレデリカと出会った辺りから探索を再開、かな?」


「むぐむぐ……それも悪くないと思うのじゃが、その前に少し手前でオヤカタ殿からもらった魔導具の試運転をしたいのじゃ。クルトもその方がいいのではないのじゃ?」


「ん? そうだな……確かに実戦で手に馴染ませるにしても、最初は弱いところからの方がいいか。ただそれだと、稼ぎがなぁ」


「ちょっと前まで使い切れないほどあったはずなのに、いつの間にかちょっぴりになっちゃったデス」


 最初に装備を揃えるために使った金……これはもうどうしようもない。それがなかったらそもそもダンジョンに入ることすらできなかったのだから、そこは必要経費と割り切っているし、元の額まで無理に稼ごうというつもりもない。


 だがダンジョンに入ってからの出費は別だ。やっと装備に見合う魔物を狩って稼ぎが出せるようになったと思った矢先にフレデリカと出会い、その後の半月に至っては一切金を稼いでいない。


 やむを得なかったとはいえ、これは流石にマズい。フレデリカを助けたことに後悔は微塵もねーし、俺がもらった剣やローズの指輪の金額だと考えればとんでもない激安ではあるが、稼ぎがない状態で更に金を使い込んだという事実がマズいのだ。が……


「まあ、それでもいきなり生活費に困るってほどじゃねーからな。ここで焦って怪我でもしたらそれこそ馬鹿みてーだし、ここは様子見をすることにするか」


「それがいいと思うデス。そもそも最初の頃はその日暮らしに近い稼ぎでやりくりしていたのデス。それを考えればまだまだ全然イケるのデス!」


「確かに妾も、一人で<無限図書館(ノブレス・ノーレッジ)>に潜っておるころは、全く稼げなくて毎日大変だったのじゃ。ああ、何だかもう遠い昔のことのようなのじゃ……」


「ははは、そうだな」


 ローズの言葉に、俺も探索者になったばかりの頃のことを思い出す。まだたったの一年半だって言うのに、俺一人でゴブリンに歯車を投げつけていた日々は、本当に遠い昔のようだ。


「ならまあ、そこまで落っこちない程度にはペースを上げて頑張っていこうぜ」


「おー、デス!」


「おーなのじゃ!」


 三人一緒なら最底辺でも笑ってやっていけるだろうが、落ちずにすむならそれに越したことはない。俺達は決意も新たに方針を定め、再び普通の探索者っぽい生活に戻ろうとしたのだが…………


「すみません、しばらくの間ダンジョンへの立入は禁止となります。フフフフフ……」


 ソエラさんのその一言で、俺達の日常はあっさりと崩れ去ってしまった。

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