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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第七章 歯車男と夜の雪

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語り明かす夜

「うお、この料理めっちゃ美味いな」


「うむうむ。この肉に絡んだとろとろのソースが絶妙に甘酸っぱいのじゃ。自分では味を見ることもできぬというのに、どうしてゴレミはこうも美味いものを選べるのじゃ?」


「それは勿論、マスターへの愛が溢れてるからなのデス!」


「何でもかんでも愛でごり押ししすぎだろ……でもまあ、ゴレミだしなぁ」


「愛の力は偉大なのじゃ」


「何この肉団子、ふわふわですっごくおいしー! ほらほらオヤカタ、これ美味しいわよ! 食べて食べて!」


「待て、わかったから押しつけるな。髭をベタベタにされてはかなわん」


「それも美味そうだな。俺にも一個くれよ」


「何よアンタも? 仕方ないわねー、ほら!」


「うわっ、いきなり押しつけるなよ!?」


「マスターの口の周りがベタベタになったのデス! ここはゴレミが口で拭ってあげるのデス! むちゅー!」


「やめろ! 普通に指とかでいいだろ! てか自分でやるから!」


「オヤカタ殿、そちらの皿を取ってもらってもよいのじゃ?」


「これか? 熱いから気をつけろよ」


「ありがとうなのじゃ! おお、これも美味いのぅ」


 騒がしく楽しく、パーティは進んでいく。まずは腹ごしらえとばかりに並んだ料理を次々と摘まんでいけば、腹の中にどんどん幸せが溜まっていき、同時に仲間達との楽しい会話は、心の中にも幸せを満たしてくれる。


 そうして半分ほど空腹が満たされると、自然と会話の方も弾んでいく。


「そういえばオヤカタ殿、クルトのもらった剣に銘はないのじゃ?」


「うん? オレが銘をつけたことはないな。まあオレが作ったものに、誰かが勝手に名付けたことならあるかも知れんが」


「ならゴレミが素敵な名前をつけてあげるデス! スーパーゴレミブレード、ラブアンドセクシーなのデス!」


「何でだよ! 剣の要素ほぼねーじゃねーか!」


「そんなことないデスー! スケスケの薄い方がセクシーモードで、硬くて重い方がラブモードなのデス」


「おぉぅ、微妙に上手く言えている気がするのじゃ」


「いやいやいやいや、駄目に決まってるだろ! 何だ、俺はこれから強敵と戦う度に『行くぞ! スーパーゴレミブレード、セクシーモード!』とか叫びながら剣を振らなきゃいけねーのか?」


「ぶほっ!? ちょっとアンタ、いきなり笑わせないでよ! 剣の名前なら、せっかくだからアタシの名前を使わせてあげるわ! そうね、氷雪剣フレデリカとか!」


「え、何それ格好いい……って、駄目だ駄目だ! この剣に氷雪要素ねーし!」


「じゃあアンタが頑張って、雪を出せるようにすればいいじゃない!」


「んな無茶な……あ、そうだ。オヤカタさん、この剣って今は俺のスキルに合わせてもらってますけど、元の剣はどんなやつだったんですか?」


「元か……実を言うと、本当の意味での大本はオレが作ったものではないのだ。ある日あいつが『あらゆる扉を開くことのできる鍵』を手に入れたと言ってそれを持ってきたんだが、『どんな鍵にも形を変えられるなら、鍵以外の形にだって変わるんじゃないか?』と無理難題を押しつけられたのが始まりだ。


 オレはその無茶ぶりに応え、全力で鍵の仕組みを解明し、そこに剣の要素を乗せることに成功した。具体的には特大剣から短剣まで、望む形に刀身を変化させることのできる剣を作ったのだ」


「へー。あー、だからヨーギさんに作ってもらった時には、刀身がでかくなったってことなのか?」


「剣かと思ったら鍵だと言われて、改めて剣になったけど大本は鍵だったのじゃ? うぅぅ、頭が混乱してしまうのじゃ」


「ははは、そう難しく考えることはない。これはおそらくだが、それこそ本来その剣は『何にでもなる』のではないかとオレは考えている。剣や鍵だけじゃなく、それこそ槍でも斧でも……果ては盾や鎧、それどころか鍋にすらなるかも知れん。


 まあオレの技量ではそこまでは到底届かなかったから、真偽の程はわからんがな」


「何にでもなる、かぁ……」


「まるでマスターとゴレミの未来のようなのデス。二人で明るい家族計画を作っていくのデス!」


「はは、そうだな。どんな未来があったとしても、お前だけはずっと俺の隣にいる気がするよ」


「ひゃっ!? マスターが突然デレたデス!? 急にそんな事言われたら、ゴレミは恥ずかしくて照れちゃうデス」


「おおー、珍しくゴレミが照れておるのじゃ! 可愛いのじゃ!」


「面白そう! ねえねえオヤカタ、オヤカタもアタシがくっついたら照れちゃう? ほらほらー!」


「……昔、髭の中に小鳥が巣を作ろうとしていたときの気分だな」


「ちょっ、何よそれー!?」


「ひ、髭に鳥の巣……くくっ、いかん、笑っては駄目なのじゃ……くくくくく……」


 そこで交わされる話に、深い意味などない。ただその時のノリで雑談を繰り広げ、ふざけて笑って楽しんで、ただただそれを繰り返す。


 互いにまだまだ、知り合ったばかりの相手。だかだからこそ話題に事欠くことはない。食って飲んで話して食って……それを延々と繰り返して……





「…………ふがっ!?」


 どうやら俺は、いつの間にか寝てしまっていたらしい。冷たい床に横たわったまま寝ぼけた頭で周囲を見回せば、すぐ側で顔面をフレデリカに、体をローズに抱きつかれたゴレミの姿があった。


(おぉぅ、スゲーことになってんな……)


 普通の人間なら絶対息苦しいだろうが、ゴレミは呼吸をしないので問題ないんだろう。


 ちなみにだが、厳密には今のゴレミは寝ているわけではなく、意識レベルを落として記憶の整理? とやらをしているらしい。必須の作業というわけではないのでずっと起きていることも可能だが、定期的にやっておかないと記憶がごちゃついて面倒だとかどうとか……ま、一晩中起きていてもやることなんてねーだろうし、寝られるなら寝とけばいいと俺なんかは思うだけだ。


「ふぁぁ、俺ももう一眠り……ん?」


 寝返りを打つようにして反対に顔を向けると、そこではオヤカタさんが炉に火を入れ、ハンマーを振るっていた。だが不思議なことに炉の熱もハンマーが金属を叩く音も、何もこっちには伝わってこない。


「あれ、オヤカタさん?」


「…………何だ、起こしてしまったか?」


 だというのに俺の声はきっちりとオヤカタさんに届いていたらしく、オヤカタさんの声もまた俺の耳に届く。このダンジョンにある雪を応用した仕掛け? 魔導具? そういうのを使ってるらしいが、これのおかげでオヤカタさんが作業しているすぐ側で俺やローズはスキルの訓練なんてのができていたわけだ。便利なもんだ。


「いえ、ちょっと目が覚めただけです。オヤカタさんこそ、こんな時間まで何を?」


「…………ちょっとな」


 起き上がって話しかける俺に、オヤカタさんは作業しながらそう答える。


「お前には剣をやったが、他の二人に何もなしというのでは寂しいだろう? 素材と時間を考えればそれほど凝ったものは作れんが、それでも何か渡せればと思ったんだ」


「それは……ゴレミもローズも喜ぶと思います」


「……だといいがな」


 ぽつりとこぼした台詞は一見自虐的であるものの、炉の赤に向かい合うオヤカタさんの目は真剣そのものであり、同時に楽しそうでもある。わずか半月の付き合いではあるが、それでもオヤカタさんの髭の揺れ具合から、その機嫌がいいということくらいはわかるようになっていた。


 小気味よい音も汗をかく熱気もないのに、真摯に炉と金属に向き合い、ハンマーを振り下ろすオヤカタさん。その姿を何となくジッと見ていると、不意にオヤカタさんがこっちに顔を向ける。


「どうした、寝ないのか?」


「あ、いや、何か見とれちゃって……すみません、お邪魔だったら寝ますけど」


「別に邪魔ということはないが……」


「なら、もうちょっと見ててもいいですかね?」


「…………好きにしろ」


 オヤカタさんの許可が出たので、俺は近くの椅子を引き寄せて座り、再び作業に見入る。そうしてしばらく経つと、オヤカタさんの口が再び開く。


「……そう言えば、あいつもお前のように、ジッとオレの作業を見ていることがあったな」


「あいつ、ですか?」


「ああ……かつてその剣の元になった剣を持っていた男だ」


 火花を散らすハンマーを打ち付けながら、オヤカタさんが静かに語り始めた。

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