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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第七章 歯車男と夜の雪

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適材適所

「……いい顔になったな」


「えっ!?」


 まだ何ができるようになったってわけでもねーが、とりあえず最初の壁は越えた。そう思って一旦室内に戻ると、俺を見たオヤカタさんがそう声をかけてきた。


「いい顔ですか?」


「ああ。随分とスッキリした顔をしている」


「ふふふ、マスターの溜まりに溜まった青い情動は、ゴレミの中に綺麗さっぱり吐き出されたのデス! おかげでゴレミはタプタプなのデス!」


「…………そういう話なのか?」


「ははは、まったく違いますね」


 真面目な声色で問うてくるオヤカタさんに、俺は乾いた笑い声をあげて答える。なお「んなわけねーだろ!」とオヤカタさんの頭を引っ叩く代わりにゴレミの足を蹴ってみたが、当然痛いのは俺のつま先だけである。


「……まあでも、気持ちの整理はつきました。本格的な訓練はこれからですけど、ちゃんと前に進んで行けそうです」


「そうか、よかったな」


「はい!」


「マスターの方は順調デスけど、オヤカタのオジジの方はどうデス?」


「む、それは……」


 ゴレミに問われて、オヤカタさんが微妙に沈んだ声を出す。え、何だ? スゲー不安になるんだけど……


「さっきまでは何の問題もなかったんだがな」


「えっと、それはどういう……?」


「今のお前の顔を見たら、もう少しいいものを作りたいと思ったのだ。だがそうなると、材料が足りなくてな」


「あー、そういう! 何だよ、へへへ……でも材料不足か。それは確かに問題ですね」


「市販されてる武具を鋳つぶして素材にすることはできるデスけど、インゴットをそのままは多分買えないのデス。というか、どうやって買ったらいいかもわからないデス」


 オヤカタさんの悪戯っぽい言い回しにニヤけつつも考えこむ俺に、ゴレミもまた追従する。大抵のものはそうなんだが、売り物になっている加工品は普通に買えても、その元となる素材は一般には売っていないのだ。


 無論探せば売ってる場所はあるんだろうが、俺達がふらりと行って少量だけ売ってくれと頼んで買えるかどうかは、正直かなり微妙なところだと思うが……そんな事を考える俺達の前で、オヤカタさんが髭を揺らして首を横に振る。


「いや、そういう一般的な材料じゃない。今必要なのはオリハルコンだ……おい、フレデリカ」


「え? 何ー?」


 オヤカタさんに声をかけられ、部屋の隅でローズの頭の上に雪玉を積んでいたフレデリカが振り返る。ちなみにそれは遊んでいるわけではなく、歴とした魔法の鍛錬……らしい。詳しいことは知らないが、このところずっと二人でやっているやつだ。


「すまんが、外に素材を取りに行ってきてくれ」


「えー? 前も言ったけど、あの光る石はもうなかったわよ?」


「だがそれは大分昔のことだろう? ここは常識とは違う空間だ。時が経てばまた落ちている可能性もあるんじゃないか?」


「そーかなー? キノコだったら採っても生えてくるけど、石が生えてくるとは思えないんだけど……アンタはどう思う?」


「俺か? そうだな……ダンジョンなら、可能性はゼロじゃねーとは思う」


 自然に存在する鉄だの金だのってのは、何かこう……いい感じに色んなものが土に混じったり潰れたりして、気の遠くなるような時間をかけて作られるものだ。なので一度掘り尽くした場所にもう一回同じ鉱物が精製されるなんてのは、普通に考えればあり得ない。


 が、ダンジョンならば話は別。罠や宝箱、果ては魔物すらいつの間にか復活しているのだから、鉱石くらいまた拾えても不思議じゃないだろう。実際<火吹き山(マウントマキア)>の無限鉱山とかは、出現する度に大量の鉱石が生み出されてるわけだしな。


「ホントにー? うーん、でもなー。あそこ遠かったしなー」


「そもそもこいつらは、お前が仲間のところに帰るために協力してくれているんだ。ならお前もこいつらのためにひと働きしてもいいだろう?」


「何よ、それじゃアタシが何もしてないみたいじゃない! わかったわよ、なら行くだけ行ってきてあげるわ!」


「妾も行くのじゃー!」


 と、そこで突然ローズが声をあげて立ち上がる。それと同時に頭の上の雪玉が溶けて、ローズの顔にバシャッと水がかかる。


「おいローズ、大丈夫か?」


「こんなもの魔法を使えばすぐに乾くのじゃ! それより妾も、いい加減外に出たいのじゃ!」


 あれが溶けないように魔力を制御する訓練だったなら、濡れても服が乾くってのは違うんじゃ……と内心思いはしたものの、ローズの剣幕に口には出さずにおく。するとローズはその場で地団駄を踏んで声を上げ始めた。


「飽きたのじゃ! 流石に飽きたのじゃ! 訓練が嫌だとかそういうことではないのじゃが、こうもずーっと部屋に閉じこもりっきりというのは、流石にウンザリしてきたのじゃ!」


「落ち着くデス、ローズ。あんまり興奮すると、また倒れちゃわないデス?」


「そんなことにはならぬのじゃ! 魔力を込めた直後ならともかく、一、二時間も休めばあとは元気いっぱいなのじゃ!」


「え、魔力ってそんなペースで回復するもんなのか?」


「そんなわけないだろう。だが限度を超えて減らなければ、本来それで体調を崩すようなものではないからな。魔力を消耗していることと、体力が余っていることは別の問題だ」


「あー、そういう…………」


 ちょっと呆れたようなオヤカタさんの説明に、俺は苦笑して頷く。確かに自分自身で疲労を感じていないなら、ここに閉じこもりきりというのはストレスが溜まるんだろう。ならばこそローズが、ここぞとばかりに不満を爆発させる。


「そもそも普段の戦闘で、魔力を二割も使うことなどなかったのじゃ! ならばちょっとくらい外に出て戦っても大丈夫なのじゃ! そろそろ外の光を浴びたいのじゃ!」


「光って、このダンジョンはずーっと夜デスよ?」


「うぅ……この際月の光でもいいのじゃ! とにかく体を動かしたいのじゃ!」


「そっか……ならいっそのこと、俺達全員で行くか?」


 ドスドスと足を踏みならして騒ぐローズに、俺はそう提案する。元々俺の剣の素材の話だし、ならば久しぶりに……と言っても数日程度だが……全員で探索するってのも悪くない。


「よいのじゃ!?」


「たまにはいいんじゃねーか? 俺も訓練ばっかりじゃ、戦闘勘が鈍っちまうからな」


「ならゴレミがしっかりサポートするデス!」


「ふふふ、久しぶりの探索なのじゃ! 楽しみなのじゃ!」


「よーし、決まりだ。ならフレデリカ、案内を――」


「……待て。お前剣もなしに魔物と戦うつもりなのか?」


「えっ? あっ…………」


 オヤカタさんに指摘され、俺は自らの不備を思い出す。そうか、俺がここ数日スキルの特訓ばっかりしてたのは、剣がないからってのも理由だったな……


「えっと……そこはほら、歯車を投げまくるとか?」


「それで上手くいくなら、オレの剣は必要ないってことだな?」


「いえ、必要です! すみません、調子に乗りました!」


 凄みのあるオヤカタさんの声に、俺は秒で態度を翻し、深々と頭を下げた。今の俺なら入り口付近の雑魚魔物に限定すればマジで歯車だけでも戦えそうではあるが、スノーウルフとかに囲まれたら普通に為す術もなくやられることだろう。


「アンタだって、魔法を前にすら飛ばせないんじゃ足手まといもいいところよ! アタシと一緒に冒険したかったら、せめてその雪玉を溶かさないで魔法を使えるようになりなさいよね!」


「むぐぅ、何も言い返せぬのじゃ」


 頭の上に雪玉を三段積み重ねられ、ローズがむくれた顔をする。そして最後はゴレミなわけだが……


「……一応アンタならついて来られるかも知れないけど、来たいの?」


「マスターとローズがいかないなら、ゴレミもいかないデス。あ、荷物持ちとか護衛が必要ってことなら勿論行くデスけど」


「いらないわよ。アタシでも持てる石ころ一つとってくるだけだし、そもそもアタシ一人ならビュビューンと空を飛んでいけるんだから、下手にアンタを連れていく方がよっぽど危ないわ。


 はぁ、仕方ないわね。ならアタシが光る石を拾ってきてあげるから、アンタ達はちゃーんと門に魔力を込めてるのよ? あとオヤカタ、アタシを働かせるからには――」


「わかっている。とっておきの果物を食わせてやろう」


「やったー! 約束したからね! じゃ、行ってくる!」


「お。おぅ。行ってらっしゃい?」


「気をつけてなのじゃ?」


「じゃーねー!」


 俺達が微妙な顔で見送りすると、フレデリカが通気口から勢いよく飛び出していく。どうやら俺達の探索は、今回は始まらないようだ……むぅ。

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