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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第六章 歯車男と大帝国

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援軍到来

「んで、俺はどうすりゃいいんだ? ゴレミの代わりに俺がクリスエイドに触るのか?」


 具体的にどうすればいいのか問う俺に、ローズが首を横に振る。


「いや、違うのじゃ。今回は妾が繋ぐ役じゃから、クルトが妾と手を繋いだ上で、妾が兄様に触れねばならぬのじゃ。それと……」


「それと?」


「……妾の歯車を回す時と同じなのじゃ。兄様が元に戻るまで、妾がずっと兄様に触れ続けて(・・・・・)いなければならぬと思うのじゃ」


「は!? それは流石に……」


 モジモジと言いづらそうに告げられたローズの言葉に、俺は思わず魔導具の陰から顔を出して激闘の様子を見る。


「何もかもみんな……消えてしまえ!」


「水ですらなくなったお前に、私の火が消せるものか!」


「…………無理じゃね?」


 無数の魔法が飛び交う戦場は、明らかに俺達がどうにかできるレベルを超えている。緑の騎士達の時のように一瞬触ればいいだけというのなら隙を突けばいけると思うが、数十秒……どころか数分、下手したら数十分の間触れ続けるとなれば、どう考えてもできるとは思えない。


「むむむ……流石のゴレミもあれを押さえつけるのは無理なのデス。そのうえでマスターとローズが動けないとなると……」


「フラム兄様に頼むしかないのじゃ」


「そっか……じゃあ早速駄目元になるけど、頼んでみるか。おーい、フラム様ー!」


 ここで無理だと言われたらいきなり作戦が頓挫するわけだが、とはいえ聞いてみなければわからない。俺が声をあげると、フラム様がチラリとこちらに視線を向けて言葉を返してくる。


「何だい? ああ、先に安全な場所に避難したいというのなら、構わないよ?」


「いえ、そうではなく。ローズがですね、クリスエイド……様を助けたいと言ってまして」


「ローザリアが? それは……くっ!?」


「よそ見をするなぁぁぁ!!!」


 俺と会話をした……正確にはローズの提案を聞いたことでフラム様にわずかな隙が生じ、そこをついてクリスエイドが魔法の連打を叩き込んでくる。あー、こりゃヤバい。単刀直入に必要なことだけ伝えた方がよさそうだ。


「成功するかどうかは未知数! 加えて無防備になる俺とローズが、クリスエイド様にそれなりの時間触れ続けないといけないんですけど、何とかクリスエイド様の動きを止めることってできませんか?」


「それは…………っ、難しい注文だね…………っ!」


 炎の剣でクリスエイドの魔法を捌きながら、フラム様が厳しい顔つきで答えてくれる。


「この巨体に、この貌だ。まともな手段では……拘束は難しいんじゃないかな?」


「ですよねー」


 これが普通の人の大きさであれば数人で押さえ込むこともできただろうし、人の形であれば最悪手足をあの炎の剣で切って燃やせば動けなくなっただろう。


 だが今のクリスエイドは俺達の何倍どころじゃない重さだろうから、俺達が取り込まれることはあっても押さえ込むのは物理的に不可能。加えて歪な手足はあるものの、無数のそれらが生えたり消えたりしてるので、それを全部焼き払うのも難しそうだ。


 うーん、ローズには悪いが、やっぱり無理か? 俺の中の冷静な部分がそう判断を下そうとしたところで……不意に背後から声が聞こえてくる。


「事情はわかりました。お力になれるかと思います」


「うおっ!?」


 ビックリして振り向くと、そこにはちゃんとしたメイド服に身を包む妙齢の女性の姿がある。その顔はどこか見覚えがあり、俺が思い出そうとするより先にフラム様が答えを口にした。


「ロッテ!? どうしてここに!?」


「施設入り口で待機しておりましたが、一向に誰もやってこないので様子を見に来たのです。まさかこのような状況になっているとは……」


「おお、ロッテなのじゃ! それで力になれるとはどういうことなのじゃ?」


 ローズの問いかけに、ロッテさんが優雅に一礼してからその口を開く。


「はい。クリスエイド様の騎士対策として開発した魔導具があります。クルト様とゴレミ様の協力により、あれが騎士のみならずクリスエイド様にも効果があるのは実証済みですので」


「あー、あれか」


「確かに強烈だったデス! でも今のクリスエイドにも効くデス?」


「あれほど変貌されてしまっては、想定していた効果は望めないかも知れません。が、そこは数でカバーしようかと」


 そう言うと、ロッテさんが自分のスカートをつまんでわずかに裾を持ち上げた。するとスカートの中からジャラジャラと音を立てて例の球が零れてくる。


「元々大量の騎士を相手にするために用意したものなので、五〇個ほどあります。これを皆さんで一斉にクリスエイド様に投げつけ、それを殿下の魔法で一度に砕いていただければ、十分な効果が望めるかと」


「おぉぅ…………」


 その説明に感心しつつも、俺は別の意味で声を漏らす。スカートの中から球がジャラジャラ落ちてくる光景が、何と言うか……うむ、まあ色々思うところがあるというか。これを口にしたら俺の社会的地位が地の底まで落ちるので絶対に言わないが、何か……うん。アレだ。


「クルトよ……妾が言うのも何じゃが、その……もうちょっと時と場合はわきまえた方がいいと思うのじゃ」


「はぁ!? 俺の何が何だってんだよ!? 何も言ってねーし! ただほら、あれだよ。割と繊細な魔導具だったのに、こんなボトボト落として大丈夫なのかなって気になっただけだし!」


「クルト様の性癖を歪める意図はありませんでした。申し訳ありません」


「ちっげーよ! 全然そんなんじゃねーから! マジ違うから!」


「大丈夫デスよマスター! ゴレミならバッチコイなのデス! ゴレミもダダ漏れ仕様にバージョンアップするのデス!」


「やめっ! やめろよ! 泣くぞ!? ローズじゃねーけど、マジで泣くからな!」


「はっはっは、相変わらず君達は仲がいいね…………ローザリア」


 騒ぐ俺達を軽快に笑い飛ばしてから、フラム様がローズに真剣な表情で声をかける。


「できる限りの協力はしよう。その上で失敗したとしても、そこにお前の責任は一切ない。全ての責任は私のもので……だからお前は気負うことなく、自由にやってみるといい」


「兄様……はい!」


 その優しい気遣いに、ローズが嬉しそうに返事をする。だがそのやりとりを聞いたクリスエイドは激高し、魔法だけでなく肉の塊のような腕そのものを辺りに叩きつけ始める。


「何故……何故だ!? 何故その出来損ないのやることは応援して、私のやることは邪魔ばかりしたのだ!? どうして、どうしてローザリアは認められて、この私は認められない!?」


「クリスエイド!? それは――」


「ウルサイウルサイウルサイ! 聞きたくない! キキタクナイ! みんなミンナ、潰れて死ねぇぇぇ!!!」


「皆さん、これを」


 その間にも、ロッテさんが取り出した球を俺達に配り始めた。俺とローズはロッテさんと同じく両手一杯に、ゴレミは片手のみにその球を握り込み、クリスエイドに狙いをつける。


「クルト様、合図を!」


「俺!? それじゃえっと……食らえ、歯車……じゃない、魔導具スプラッシュ!」


「スプラッシュなのじゃ!」

「スプラッシュなのデス!」

「スプラッシュです」


 俺達全員が投げた球が、クリスエイドの巨体に降りかかる。破壊することで発動するとわかっているのでクリスエイドはそれを迎撃できず、また巨体故に回避することもできない。


「焼き尽くせ、フレイムヴォルテックス!」


 そこにフラム様の炎の魔法が炸裂し、投げつけた球が一斉に壊れる。その瞬間――


ギィィィィィィィン!


「うおっ!?」


「ぬあっ!?」


「ウギャァァァァァァァ!?!?!?」


 鳴り響く甲高い不協和音に、俺とローズは思わず耳を塞いでしまう。そしてそんな俺の隣で、ゴレミが突如倒れ込む。


「ゴレミ!?」


「ゴレミ様は大丈夫です。それよりクルト様、姫殿下と!」


「あーくそっ、ローズ!」


「行くのじゃ!」


 ゴレミは心配だが、今は他にやるべきことがある。俺はローズの手を引いてクリスエイドの側まで駆け寄った。その巨体がぐったりと動かないのを確認して、ローズが気味の悪い肉の壁にその手をめり込ませるように押しつける。


「よし! クルトよ!」


「おう!」


 故に俺も、すぐにローズの内側に入り込むべくスカートの中に頭を突っ込む。その外側から「いや、手を繋げばいいのじゃぞ!?」とか聞こえた気がしたが、今は一秒を争うので気にしている余裕がない。


「あーもう、仕方ないのじゃ! どうか繋がって欲しいのじゃ……フレア、コネクト!」


 さあ、果たしてローズの語った理想の未来が現実となるか? ここからが俺の頑張り所だ。

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