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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第六章 歯車男と大帝国

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三人の力

「何が……一体何が起きたのだ…………?」


 圧倒的に優位な盤面から一転、全ての騎士が床の上に倒れ伏す状況に、クリスエイドが茫然自失となりながらそんな呟きを漏らす。


「あり得ない……焼き殺した? 自分が魔法を飛ばせないから、仲間を経由して発動させた? ゴーレムが触れた騎士だけならまだわかるが、ならば何故全ての騎士が倒れた? あり得ない。道理に合わない。一体何がどうなっているのだ!?」


「知りたいのじゃ?」


「っ!?」


 半ば以上自問自答だったであろう独り言に横から声がかかり、クリスエイドがバッとこっちに……正確にはローズの方に顔を向ける。すると呼吸を整え終えたローズは、余裕のある態度で説明を始めた。


「クリスエイド兄様は、妾をその騎士達と同じように操ろうとしたじゃろう? つまり妾と騎士達は、同じ術式を入れられておったのじゃ。そしてクリスエイド兄様が円滑に命令を下せるように、術式は全て繋がっており、一括で命令が出せるようになっておる……つまり妾と騎士達は全て繋がっておったのじゃ。


 じゃから妾は、妾に入れられた術式を介して、同じように繋がっておる騎士達に大量の魔力を送り込んだのじゃ。その結果妾の魔力によって騎士達の術式が焼き切れたのじゃ」


「わ、私の術式を利用して、魔力を逆流!? そんなことがお前如きにできるはずが……」


「うむ、確かに妾だけではできぬのじゃ。そんな大量の魔力を他者に送り込むような技術など妾にはないし、そもそも妾が騎士に触れようとしたら、あっさりときり殺されてしまうのじゃ。


 じゃが妾はクルトと繋がっておる。クルトならば妾がどれほど大量の魔力を流しても、きっちりとそれを受け入れてくれる。そしてクルトはゴレミとも繋がっておる。ゴーレムであるゴレミなら無茶な量の魔力を流しても十分に耐えられるし、騎士達と斬り合っても一発で倒されたりはしないのじゃ。


 兄様、わかったのじゃ? 魔力しかない妾だけでは駄目なのじゃ。妾と他人を繋いでくれるクルトがおって、そのクルトから力を受け取り送り出せるゴレミがおって……三人揃っていたからこそ、こんなことができたのじゃ。


 妾一人では出来損ないでも、助けてくれる者がいれば変われる。これぞ仲間の力なのじゃ!」


「まさに三位一体なのデス! 肩車する順番で、ビームとドリルと投げ飛ばしに使える技が変化するのデス!」


「何で肩車? あと何か一つだけ方向性が違わねーか?」


「金属が伸びたり縮んだりして重量まで変わる事に比べたら、些細なことなのデス!」


「えぇ……?」


 相変わらずゴレミの言うことは何一つわからん。正直ゴレミも雰囲気だけで話してるんじゃないだろうかと最近はちょっと思ったりもするのだが……まあそれはそれとして。


「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 遂にブチ切れたのか、クリスエイドがもの凄い形相で絶叫をあげる。


「ローザリアだぞ!? あの出来損ないの末妹が、兄上すら出し抜いた私の騎士達を全滅させただと!? しかもそれに力を貸したのが、取るに足らない底辺探索者と安物のゴーレム!?


 あり得ない! あり得ない! あり得ない! クズはどこまでいってもクズのはずだ! たかがクズが三つ集まった程度で、この私を超える!? そんなことがあっていいはずがないのだ!


 おい、起きろ! 起きて私の命令に従え!」


 近くに倒れている騎士の体を、クリスエイドが踏んだり蹴ったりし始める。だがそれでも騎士が起きる様子はなく……


「……なあローズ、あれってひょっとして、全員死んじまってるのか?」


「いや、気絶してるだけのはずなのじゃ。じゃが妾と違ってずっと深くまで兄様の術式が入っておったじゃろうから、それを焼き切った以上、叩いたら起きるとかそういうレベルではないのじゃ」


「なら、やめさせるデス?」


「そうだなぁ……」


 敵だったとはいえ、無抵抗の状態で蹴られ続ける様を黙って見ているのは何とも気分が悪い。それに俺は割と満身創痍で、ゴレミも右腕を肘の少し手前辺りから切り飛ばされているが、クリスエイド一人くらいなら取り押さえられそうな気もする。


 なら最後にもう一仕事するかと思ったのだが……


「そのくらいにしておきたまえ」


 背後から聞こえた声に、俺達は一斉に顔を向ける。するとそこに立っていたのは、金髪のイケメン皇太子様であった。


「兄上!? 何故兄上がこんなところに!?」


「何故と言うなら、やるべき事が終わったからさ。最初はローザリアを救出したゴレミ君と合流してから今後の計画を検討するはずだったんだが、城にいたお前の騎士達が突然全ていなくなってしまってね。その隙をついて陛下は救出させてもらった」


「なっ……!?」


「それと研究所の入り口は兵士達で固めてある。ここの出入り口はあの一つだけだ。もうお前は何処にも逃げられない。騎士達に対する対策も、いくつかの実証実験を経て漸く形になったんだが……まあそちらは必要なくなったみたいだね」


 驚くクリスエイドに、フラム様がそう言って肩をすくめる。対策の実証実験と言われ、俺はこの扉を開いた時に発動した魔導具のことを思い出したが……まあそれ以上は言うまい。助かったのは間違いねーし、たっぷり時間がある状況で事前に説明されていたとしても、持っていったのは変わりねーだろうからな。


 とまあ、俺が内心でそんな事を考えてちょっとだけ微妙な表情を浮かべているなか、護衛もつけずたった一人のフラム様が、悠々と俺の隣を歩いて通り過ぎると、クリスエイドと対面する。


「終わりだ、クリスエイド。陛下の身柄も騎士達も、お前を守ってくれるものはもう何もない。お前を担ぎ上げた貴族達も、事ここに至れば何もできないだろう」


「うるさい! あんな奴らのことなどどうでもいい! 私は……」


「クリスエイド……」


 俯いて拳を握るクリスエイドに、フラム様が哀れむような目を向ける。


「もう一度言うぞ。これで終わりだ、クリスエイド。皇帝になるというお前の望みは、もう絶対に叶わない。


 さあ、いくぞ。これほどの罪を帳消しにするのは不可能だが、せめて最後くらいは……っ!?」


「離せ!」


 フラム様が伸ばした手を、クリスエイドが振り払う。そのまま数歩後ろに飛び退くと、興奮のままにその言葉を続ける。


「兄上はいつもそうだ! ああそうとも、兄上は正しいのでしょう! だがその正しさが、全ての者を救うわけではない! 私はまだ諦めませんよ……アイスウォール!」


 クリスエイドが腕を振るった瞬間、巨大な氷の壁が出現する。それはクリスエイドの背後にあった「最奥の扉」を囲むように……ってマズいだろ!?


「フラム様! あの、後ろの扉、開いてるんですよ! だから早くこの氷の壁をなんとかしないと!」


「ん? ああ、そういえばそのようだったね。だが大丈夫、焦ることはない」


「へ!? い、いいんですか?」


 俺の記憶が確かなら、クリスエイドの一番の目的はあの扉の奥にあるもので、それを奪われないためにこそフラム様達が頑張っていたのだと思っていた。だからこそそう問い返す俺に、フラム様は落ち着いた様子で頷く。


「ああ、いいんだ。確かにあの扉の奥にあるものは貴重などという言葉では済ませられないものだが……この状況であれを抑えたところで、クリスエイドには何もできはしない。


 何せ持ち出せるようなものではないからね。『壊すぞ』と脅したところで、本人がここから動けないのではどうしようもないさ」


「はぁ、そうなんですか……」


 あの扉の向こうにあるのが何だかわからない以上、それを知っているであろうフラム様がそう言うなら、俺としても納得するしかない。


「むー、扉の向こうに何があるのかが気になるデス……」


「ゴレミよ、無理を言ってはいかんのじゃ。妾だって知らぬのじゃぞ?」


「そうそう。大国の秘密なんて興味本位で知るもんじゃねーよ」


 隠されていることを知るのなら、知ったことを隠し通す覚悟が必要になる。俺だって興味がないわけじゃねーが、そんなリスクを背負ってまで知りたいとは思わない。今みたいな厄介事に巻き込まれるのはこりごりだしな。


「ははは、そうだね。今回のお礼はしっかり他のことで返すから、それは――」


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


 そんな俺達のやりとりを聞いて、朗らかに笑うフラム様。しかしそんな平穏な時をあっさりと台無しにするように、突如として氷の壁の向こうからとんでもない叫び声が響いてきた。

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[一言] 発音はビィィィィィィィムですね!ビームではないのですっ!
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