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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第六章 歯車男と大帝国

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託す者と託される物

途中から三人称になります。ご注意ください。

「ゴ……っ!?」


 思わず声を上げて腕を伸ばしてしまった俺の体を、騎士が背後から羽交い締めにしてくる。あくまでも「思わず」動いてしまっただけで最初から抵抗する気などない俺はすぐに体の力を抜こうとしたのだが、騎士はそんな事お構いなしに俺を締め上げてくる。


「ぐぁぁ!? 痛い痛い痛い!? 何も! 何もしないですから! 離して!」


「はぁ……離してやれ」


「……………………」


「ぐはっ……はぁ、はぁ、はぁ…………あ、ありがとうございます、クリスエイド様」


 拘束から解放されて礼を言う俺に、クリスエイドは若干呆れたような表情を向けてくる。ただそれは俺というより、俺の背後にいる騎士に向けられているように感じられた。


「まあいいでしょう。その反応なら、これがお前の所持品で間違いありませんね?」


「はい。剣も鍵も、ゴーレムもそうです。返してもらえるんですか?」


「ええ、いいですよ。ただし今は鍵だけです。剣とゴーレムは、仕事が終わったらお返ししましょう。さあ、どうぞ」


 そう言って、クリスエイドが「歯車の鍵」を俺に渡してくる。俺はそれを腰に佩くと、追加でクリスエイドに申し出た。


「あの、ゴーレムの様子も見させてもらえませんか? 転移門(リフトポータル)の転移事故に巻き込まれるなんて初めてなので、何か不具合が出てないか心配でたまらないんですけど」


「そうですね……見るくらいならいいでしょう。ただし魔力を補給したり、起動したりした場合は即座にゴーレムを破壊します。それでもいいですか?」


「勿論です! では、ちょっと失礼して……」


 クリスエイドに許可をとり、俺はゴレミの正面で腰を落とす。背後からはクリスエイドがジッとこちらを観察、あるいは監視しているが、俺はそれを気にせずゴレミの体をじっくりと見回していく。


「ふぅ、け……破損とかはないみてーだな。ちょっとした音や衝撃であの騎士さんはいきなり斬りかかってくるから、触って調べられねーのが残念だが、これなら平気だろう……触ったら駄目ですよね?」


「駄目です。今は諦めなさい」


「ははは、わかりました。ちょっと背を向けて視線が切れただけで逃亡扱いされるようじゃ、指先が触れるのも怖いんで自重します。


 ってわけだから、今はお前に構ってやれないんだ。クリスエイド様の用事が終わったら迎えにくるから、それまで一人で頑張ってくれ。じゃあ、また後でな」


 俺は床に手を突くと、腕を支えによっこいしょと立ち上がる。するとずっと俺のことを見ていたクリスエイドが声をかけてくる。


「もういいのですか?」


「はい。いや、よくはないですけど、触れることすらできないとなるとこれ以上はどうすることもできないので……」


「それはまあ、そうですね。では移動しますから、ついてきなさい」


「わかりました」


 先導するクリスエイドと背後の騎士に挟まれながら、俺は歩いて部屋を出て行く。すぐに背後でガチャンと扉の閉まる音がして――


(後は頼んだぜ、ゴレミ)


 見えなくなった相棒に、俺は内心でそう声をかけた。





「……………………」


 クルト達が立ち去って、しばし。誰もいなくなり静寂を取り戻した保管庫で、ゴレミの指がピクリと動く。ゆっくり持ち上がった指先が触れるのは、さっきクルトが立ち上がるときに右手を突いた床……そこに転がる小さな歯車だ。


(マスター……)


 それをそっとつまみ上げると、ゴレミは自らの腹に開いた穴に押し当てる。するとゆっくりと回り続けている歯車がまるで吸い込まれるようにピッタリと嵌まり、ゴレミの体の中に温かな魔力が充填されていく。


(魔力の充填を確認……ギリギリ間に合ったのデス)


 日に一度の魔力補給を必要とするゴレミにとって、激しい戦闘から四日間魔力補給なしというのは、かなりきわどい状況だった。勿論ゴーレムの魔力切れは人間の死とは根本的に違うものなので、魔力が補給されれば今までと変わらずに動くことができるようになる。


 が、いつもと違うダンジョンコアとの切断のされ方に、ゴレミは強い危機感を感じていた。故に運動機能のほとんどをシャットアウトし、視覚と聴覚、そして表情変化の機能だけを最低限で運用することで、ギリギリ稼働を続けていたのだ。


 ちなみに、そんな状況ですら「表情変化」の機能を落とさなかったのは、もしクルトが自分を見つけた時、自分が動いていることに気づいてくれると期待したからだ。そして実際、活動限界を二日分犠牲にして動かし続けたそれに、クルト(マスター)はきちんと気づいてくれた。その事実が、ゴレミにとって飛び上がりたくなるくらい嬉しい。


(魔力充填率、一〇パーセントを突破……これならいけるデス)


 必要な魔力が溜まる事に、眠らせていた機能を一つずつ再起動していく。視覚や触覚が通常に戻り、腕や足に本来の出力が上がり、そして最後に表情を変化させる機能が完全稼働すると、ゴレミは音を立てないように最新の注意を払いながら、シュパッと格好いいポーズを決めた。


(魔力充填率一二〇パーセント! フッフッフ、ゴレミ完全復活なのデス!)


 実際には九八パーセントくらいで、安全上の理由からそれ以上は充填できないようになっているのだが、そこはノリと勢いの方が重要。一時間ほどかけて全ての機能を取り戻したゴレミは、この場にいないクルトに見せつけるように極上の笑顔を浮かべてから、改めて大人しく直立の姿勢をとった。


(むぅ、マスターの突っ込みが懐かしいデス。さて、これからどうすればいいか考えるデス)


 先ほどのクルトの言葉には、様々な情報が隠されていた。たとえば「クリスエイドの用事が終わったら迎えに来る」という言葉と、事前にフラムベルトから聞いていた情報を組み合わせれば、クルト達の行く先が地下研究所の最奥にあるという秘密の扉の場所なのだとわかる。


(目的地はわかったデスけど、目的地の場所がわからないのではどうしようもないデス。それにマスターは「一人で」と言ったデス。つまり別で動いて欲しいということなのデス)


 先ほどの会話中も、そしてそれ以前でも、クルトはゴレミを徹頭徹尾「ごく普通の魔導具(ゴーレム)」として扱っていた。そしてそれを、クリスエイドも疑問に思うことなく受け入れていた。


 つまりクリスエイドにとって、ゴレミが「命令なしで自分で考えて動く」などというのは完璧に想像の埒外である。それはゴレミからすれば知り得ない知識であったが、今こうして自分が無警戒に放置されていることから、クルトが自分の存在を欺いていたであろうことを正確に読み取っていた、


(なら、まずは情報を集めるデス。そうすればきっと、マスターがゴレミに何をして欲しいのかがわかるはずなのデス。そのためには外に出なければならないデスが……)


 ゴレミがまず視線を向けたのは、保管庫の出入り口の扉。だがその向こうにはまず間違いなく見張りの騎士がいるはずなので、正面から脱出するのは早々に諦める。


(あの騎士と戦うのは駄目なのデス。仮にゴレミの方が強かったとしても数で押されたらどうしようもないデスし、何よりマスターやローズが人質に取られたらそこで負け確なのデス。


 やはり時代は隠密行動なのデス。くノ一はお色気担当なのデス)


 次いでゴレミは、部屋の壁や天井を見回す。すると天井に通気口を見つけたが、蓋の部分はしっかりと溶接されていて外せるようには見えなかったし、天井の高さは五メートルほどあり、棚は固定されているので動かして足場にするのも不可能。


 加えてそもそも通気口自体がそれほど大きくなく、ゴレミの体がそこに入るとは思えなかった。


(……まあ、普通は通れないデス。というか、人が通れるように通気口を作る理由の方がないのデス。覗きスペースが許されるのはマスターとゴレミの愛の巣だけなのデス)


 ゴレミの頭の中に、自分とクルトが抱き合う寝室の天井裏にて、それを覗いて白いハンカチを噛むリエラの姿が浮かぶ。すると時を同じくして、遙かエーレンティアの町で仕事に勤しむリエラが大きなクシャミをし、同僚にからかわれるという謎の理不尽に襲われたという話があったりなかったりしたようだが、それはまた別の話。


(むぅ、ならどうすれば…………デス?)


 早くも万策尽きたゴレミが、どうしたものかと考えこむ。するとゴレミが見上げていた天井の通気口から、不意にスルスルと何かが降りて来た。

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