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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第五章 歯車男と森の王

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決着後の悲劇

今回の途中まで三人称です。ご注意ください。

「おぉぉ!? やったのじゃ! 妾の魔法が、あんなに簡単に巨人の腕を切り飛ばしたのじゃ!」


「ふむ。魔力制御は拙いの一言だが、最低限の威力くらいは出せるようになったようだな。だが、まだだぞ」


「なぬっ!?」


 自分の魔法が発揮した思わぬ威力に、ローズがはしゃいだ声をあげる。しかし冷静なジルの声に意識を戻すと、たった今切り飛ばした巨人の腕は地上に落ちるとすぐに霧となって霧散してしまい、その代わりに巨人の肩から、あっという間に元の腕が再生してしまった。


「元に戻ってしまったのじゃ!? 一体どうやって倒せばよいのじゃ!?」


「落ち着け。あれはフォグジャイアント。その名の通り、魔力に満ちた霧が人の形をとっただけのものだ。故に物理的な攻撃は勿論、魔法であってもまっすぐに貫通してしまうようなものは効果が薄い。


 だが……<輝き穿つ白迅の一矢ラウラ・テローベ・イル・ストラタス>」


 矢をつがえぬまま弓を引いたジルが詠唱すると、そこに白く輝く魔法の矢が生まれる。そうして放たれた銀の閃光は今度もまた巨人の肩口辺りに炸裂し、その腕が切り離される。


「ああして体を切り離せば、その部分を再生するために大量の霧を消費する。体を構成する霧が薄くなったのがわかるだろう?」


「ふむ? 確かにちょっと向こうが透けて見える感じになったのじゃ?」


「そうだ。四肢を切り離し、霧を消耗させていくのがアレの基本的な倒し方となる。ただし爆発系の魔法で体の霧を直接吹き飛ばすような戦い方は駄目だ。それをやると体が赤くなり、暴走状態になる。


 まあそうさせないほどの規模で一気に吹き飛ばしてしまえば話は別だが、そこまでするほどの相手ではないからな。ほら、練習も兼ねてどんどん魔法を使え」


「わかったのじゃ! <バーニング(フラム・)歯車(ギルデム・)スプラッシュ(ストラーダ)>!」


 言われたとおり、ローズは炎の歯車を次々と撃ち出していく。足を切るとこっちに倒れてきそうだったので、ひたすら霧の巨人(フォグジャイアント)の両腕を切って落としては再生させを幾度も繰り返すと、己の指先すら見えぬほどの濃霧であった巨人の体は、ほどなくして目をこらさなければわからないほどに薄まっていった。


「ふぅ、ふぅ……のうジル殿。流石にこれ以上は薄まらぬと思うのじゃが、彼奴はどうすれば倒せるのじゃ?」


「あそこまでいけば、あとは風で吹き散らしてやればいい。直接風の魔法を使ってもいいし、爆発するような魔法で吹き飛ばしても構わん。暴走するような魔力などもう残っていないだろうからな」


「風……」


 その言葉に、ローズは身につけていたネックレスに視線を落とす。既に魔石には大きなヒビが入っており、直して使えるような状態ではない。ならば最後の一働きはここがいいだろうと、ローズは覚悟を決めた。


「クルトが贈ってくれたお主のおかげで、妾達はここまで生き延びられたのじゃ。短い付き合いじゃったが……ありがとうなのじゃ」


 魔石を直接握り混んだ右手を伸ばし、感謝と共に魔力を込める。すると緑の魔石がキラリと輝いてからはじけ飛び、前方に向かって強烈な風が吹き荒れた。それは消える寸前であった霧の巨人を吹き散らし、戦闘の終わりを告げるかのように、宙空に出現した魔石が地面へと落下していった。


「倒したのじゃ……? 倒した、倒したのじゃ!」


「ローズ、やったデス!」


「うぉぉ、マジでやっつけたのか!?」


「凄い凄い! 凄いやローズちゃん!」


「ローズちゃん、貴方やれば出来る子だったのね!」


 その光景に笑顔のゴレミがローズに声をかけ、カイ達も喜びながらローズ達の方へと近づいてくる。だがそうして喜ぶローズの姿に、ジルは何とも苦々しい表情を浮かべた。


「まったく、あの程度の魔物を倒したくらいでそこまではしゃぐとは……お前は一体幾つだ? 何年戦っている?」


「む? 何じゃ突然に……妾は一二歳なのじゃ。探索者歴は一年くらいなのじゃ」


「じゅ、一二歳……だと…………っ!?」


 不躾な問いに若干むっとしたローズの言葉に、しかしジルは強烈な衝撃を受けてその場でよろける。顔に手を当て天を仰ぐと、そのまま大きく深いため息を吐いた。


「見た目が幼いとは思っていたが、まさか成人すらしていない子供だったとは……愚かだったのは私の方か。


 今までの辛辣な発言は全て撤回する。すまなかったな、そんな子供が戦いの場に出ているなど、想像すらしていなかったのだ」


「いや、構わぬのじゃ。確かに妾が今この場にいるのは、あくまでも特例のようなものじゃからな」


 ジルの謝罪を、ローズは苦笑しつつも素直に受け入れた。すぐ側ではシルヴィ達も「え、ローズちゃんって未成年だったの!?」と驚いた声をあげていたが、そちらに対応するより前に、ゴレミがちょいちょいとローズの肩に触れてくる。


「ところでローズ。いつまでマスターをそのままにしておくデス?」


「おっと、そうじゃな。勝利を喜ぶなら、その立役者であるクルトもおらねば片手落ちなのじゃ! クルトよ、起きるのじゃ! 戦闘は終わったのじゃ!」


 ゴレミの言葉を受けて、ローズはスカートの上からペチペチとクルトの頭を叩く。するともぞりと頭が動き、スカートの中からクルトが顔を出した。





「プハーッ! あー、空気が美味い……」


 暗く湿ったスカートの中から頭を出して、俺は大きく息を吸ってから言う。何だか今回は、やたらと長く歯車を回していた気がするぜ……


「お疲れ様なのじゃ、クルト」


「マスター、お帰りなのデス!」


「おう、ただいま」


 俺を出迎えてくれたゴレミとローズの顔には笑顔が溢れている。であれば激闘の末に何とか勝ったとか、そういう感じなんだろう。


「その様子だと、あのでかぶつは何とかなったのか?」


「うむ! クルトの作戦通りとはいかなかったのじゃが、皆で頑張って見事に勝利したのじゃ!」


「おお、そりゃスゲーな。よく頑張ったなローズ。ゴレミもお疲れさん」


 そう言って、俺はゴレミとローズの頭を撫でる。片方は柔らかく、片方はゴツゴツした感触だが、どちらもとても温かい。


「ふふふ、もっと褒めてもよいのじゃぞ?」


「そうデスね。今回はゴレミは全然活躍できなかったデス、でもその分ローズは凄く凄ーく頑張ったから、一杯褒めてあげて欲しいデス」


「お、そうなのか? ならダブルで褒めてやろう。ほれほれ」


「ぬあーっ! 髪の毛がくしゃくしゃになってしまうのじゃ!?」


 ゴレミを撫でる手をローズに回し、両手で頭を撫で回すと、ローズが悲鳴のような声をあげる。といってもその表情から喜んでいるのがわかるので、更にくしゃくしゃしてやると……


「おい」


「ん? ふがっ!?」


 突如、思い切り顔面を掴まれた。指の隙間から見えるのは初対面のイケメンだが、何故かそいつがもの凄い形相で俺を睨んでいる。


「ふがっ!? ふがふがふがっ!?」


「ジル殿、どうしたのじゃ!?」


「このような幼子に不埒な遊びを教えたのはお前だな? 成人しているならば個人の自由と見逃すことも考えたが、無知な子供相手に汚れた欲望を押しつけるような輩であれば容赦はせん! このまま消し炭にしてくれるわっ!」


「ふがーっ!?」


「違う! 違うのじゃジル殿! 説明するからクルトを離して欲しいのじゃ!」


「マスターを解放するデス! ゴレミチョップ! ゴレミチョップ!」


「ふががががっ!」


 俺の顔面を鷲づかみにする腕にローズが必死にしがみつき、ゴレミが手刀を連発して俺を解放させようとするも、締め付ける指の力は些かも緩まない。


「ええい、邪魔をするな! お前達は騙されているのだ! 男が女の衣服の中に頭を突っ込んで、それで力が増すなど戯言にも程がある! それとももしや、怪しげな薬でも使っているのではあるまいな!」


「ふががーっ!?」


 あまりにもまっとうなイケメンの怒りに、俺はただ苦痛に悶える声を漏らすことしかできなかった。

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