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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第五章 歯車男と森の王

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ボスメダル

「……で、これからどうなるんだ?」


「キエラ殿の話だと、何かあるのは間違いないようじゃったが……はて?」


 縄張りのボスであるピンキーモンキークイーンを無事に倒し終え、仲間とひとしきり喜び合った後。何も起こらない現状に、俺達は揃って首を傾げる。てっきり特殊なドロップアイテムでもあるのかと思ったんだが、クイーンが残したのは小石くらいの大きさの魔石だけだった。


「この魔石が特別なのか? ぱっと見じゃ普通の魔石だけど」


「むぅ。ゴレミ的には地面から宝箱がニョキニョキ生えてきて欲しかったデス」


「それは流石に……いや、ダンジョンならあり得るのじゃ?」


「待て、何か来るぞ」


 アホな妄想を言うゴレミとそれに困惑するローズを後ろに、俺は森の奥から近づいてきた影に警戒を口にする。そちらに視線と意識を向けると、そこには怯えているような媚びているような、そんな微妙な表情を浮かべたピンキーモンキーが、箱のようなものを抱えてこっちにやってくるところだった。


「魔物!? 倒すのじゃ?」


「いや、様子をみよう。戦いに来たって感じじゃねーし」


 問うローズに、俺は首を横に振る。そうして警戒しながら待つと、俺達の三歩手前くらいで足を止めた。


「ウキー」


「……? それをくれるってことか?」


「ウキー」


 言葉が通じているのかはわからねーが、それでもピンキーモンキーは俺の言葉に一礼すると、そのまま逃げるように広場を出て森へと戻っていった。となればこの箱をどうするかだが……


「まあ、開けないって選択はねーよな。悪いゴレミ、頼んだ」


(オトコ)解除デスね! ゴレミにお任せデス!」


 一歩下がりつつ頼んだ俺に、ゴレミが笑顔で応じて宝箱の方に近づいていく。俺達に罠解除の技術がある仲間はいないが、ゴレミなら大抵の罠は無効だ。流石に強制転移させられるような罠なら別だが、まさか五層相当の場所でそんな罠ってことはないだろう。


「じゃ、開けるデスよ……えいっ!」


 可愛らしいかけ声と共に、ゴレミが無造作に箱の蓋を開ける。すると箱は爆発することも煙を吹き出すこともなく、ごく普通に開いた。


「開いたデス。罠とかはなかったデス」


「おう、そっか。んじゃそっちに行くから、そのままにしといてくれ。行くぞローズ」


「うむ! 中身が楽しみなのじゃ!」


 俺はローズを引き連れて箱の側に移動する。そうして中を覗き込んでみると、そこに入っていたのは箱の大きさとはあまりにも不釣り合いな、五センチほどの銀色のメダルが一枚だけであった。


「え、これだけ? てか何で猿の魔物がこんなもんを箱に入れて持ってくるんだ?」


「そこはダンジョンだからで納得した方がいいと思うデス。考えてもわからないことというより、考えても意味のないことだと思うデス」


「つまり深い意味はないということなのじゃ? まあゴレミがそういうのなら、そうなのじゃろうなぁ」


「そうだな。ならそういうもんだってことにしとくか」


 俺が箱からメダルを取り出すと、すぐに箱が溶けるように消えてしまう。その現象に比べれば、確かに猿がメダルを持ってることなんて些細な問題だろう。


「しっかし、アホほど趣味の悪いメダルだな。何だこのドヤ顔?」


 手にしたメダルを観察すると、表面にはピンキーモンキークイーンの顔が、裏側には骨で作ったバツ印のうえにドクロという、絵物語の海賊旗なんかでありがちの図案が刻まれている。


「ボスドロップというよりは、記念品のような感じなのじゃ」


「まさか本当に記念品だったりしてな。で、何か起こるって、これで終わりなのか?」


「しょぼくれたお猿が箱を持ってくるのは、なかなかシュールなイベントだったと思うデスよ?」


「……それもそうだな。じゃあやることやったし、帰るか。キエラに話も聞きたいし」


 体調的にはまだ十分な余裕があるが、それでも初めてのボス戦を切り抜けたのだから、自覚できていない精神的な消耗なんかはあるかも知れない。それに帰りの森でだってピンキーモンキーが襲ってくるわけだから、そこで戦う余力も必要だ。


 ということで、俺達は来た道を通ってダンジョンの外へと向かう。幸運にも……あるいはクイーンが呼びまくって数が減ったからか、懸念していた帰り道での戦闘は一度も発生せず、そのまま中央の道に出ると、あっさりとダンジョンの脱出に成功。


 やや拍子抜けしたものの楽ができたのはいいことだし、そのおかげで時間的な余裕もあるので、俺達はそのまま受付に行ってキエラに報告をすることにした。


「おーい、キエラー」


「あ、お兄さん! 今日も早いね。ひょっとしてまた何か問題?」


「いやいや、今日は凱旋だ。ピンキーモンキーの縄張りを制覇してきたぜ!」


「えっ、本当に!?」


「当然! これが証拠だ!」


 驚くキエラに、俺は腰の鞄から例のメダルを取りだして見せる。ついでにクイーンの魔石も横に並べると、その両方を手に取ったキエラはまじまじと二つを観察してから、喜色満面の笑みを浮かべて声をあげた。


「うわ、本当だ! お兄さん達、すごーい!」


「お、おぅ……何か照れるな」


「ふふふ、いいじゃん! こういうときは素直に褒められとくのがいいんだよ! 拍手喝采! パチパチパチー!」


 手を叩くキエラに、周囲にいた奴らもこっちに視線を向けてくる。だが俺達が(最弱とはいえ)ボスを倒したのだとわかると、普通に拍手してくれたり軽く褒めたりしてくれた。


「むふふふふ、ゴレミが賞賛されているのデス!」


「聖都でのあれは困ったものじゃったが、こういう分相応の褒められ方は嬉しいのじゃ!」


「よかったな二人共。で、キエラ。そのメダルって何なんだ? 討伐証明ってことで、ギルドが高値で買い取ってくれるとかなら嬉しいんだが……」


 今俺達はすこぶる金欠なので、記念品より金が欲しい。そんな事を口にすると、キエラが軽く苦笑しながらその口を開く。


「残念ながら、これの買い取りはしてないなー。と言うのも、これ手に入れた人しか使えないの」


「使えない? ってことは、使い道があるということなのじゃ?」


「そうよお姫ちゃん。このメダルにはちゃんと意味があるの! まず一番わかりやすいのは、これを持ってる間は、ボスを倒した縄張りのなかでは魔物が積極的には襲ってこなくなるわ」


「襲って? あー、そういえば帰りは一度も戦闘しなかったな。じゃあそれがそのメダルの効果だったってことか?」


「そうそう! ボスを倒した人が次のボスになって、恐れ敬われるって感じね。勿論こっちから攻撃をしたら反撃してくるけど、何もしなかったら近づいてもこなくなるわ。それがどれだけ凄いことか、お兄さん達にはわかるかなー?」


「んー? 襲ってこないったって、そもそも縄張りに入らなきゃ魔物は襲ってこねーよな?」


「マスター、蜂の存在を忘れてるデス」


「蜂……? ああ、縄張りの外に居続けると襲ってくる魔物だっけ? ん? 縄張りのなかだけど魔物に襲われなくなるってことは……ダンジョン内に完全な安全地帯ができるってことか!?」


「ご名答! そう、それが縄張り制覇の一番の報酬なの。お兄さん達ももう一年ダンジョンに潜ってるなら、ダンジョン内で安全な場所があるのがどれだけ便利かはわかるでしょ?」


「そうだな」


 キエラの説明に、俺は大きく頷く。今はまだ入り口付近でしか活動してねーからそれほど恩恵はないが、もしこの先も俺達がダンジョンに潜り続け、もっと深いところに辿り着けるようになるなら、いずれは野営とかが必要になったりもするだろう。


 だが基本的に、ダンジョンのなかに安全な場所などない。常に誰かが見張りをしなければならないだろうし、魔物が襲ってくれば寝ていようが飯を食っていようが戦わなければならない。


 だがこのメダルを手に入れれば、ダンジョンが(・・・・・・)その場の安全を保証してくれるという。それは確かに大したお宝だ。


「ちなみに、有効期限はボスが再設置されるまでの一ヶ月だよ。ボスの存在はパーティ単位で管理されてて、どんな縄張りのどんなボスも一ヶ月で復活するの。その時にメダルが消えるから、メダルを持っておけばいつボスが復活したかもわかるってわけ。


 ただ逆に言うと、一ヶ月は同じボスとは戦えないし、そのボスの縄張りでは魔物が襲ってこなくなるから、戦闘の効率も落ちるよ。だからどのタイミングでどの縄張りを攻略するかっていうのを考えるのも大切なの。わかった、お兄さん達?」


「おう! 学びを得たぜ!」


「日々の稼ぎを考えると、単純に目につく縄張りを片っ端から攻略すればいいというわけではないのじゃな。これは奥が深そうなのじゃ」


「戦略ゲームみたいで面白いのデス!」


 まるで教師か何かのように言うキエラに、俺達は大きく頷いて答えた。

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