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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第五章 歯車男と森の王

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視点と欠点

 さて、自分達で考えても答えがわからず、話を聞けるような先輩もいない。となればどうやって問題を解決するか? その答えは至極単純。即ち「武具店に行って店員さんに聞いてみよう」である。


 普通過ぎる? こんなところで奇をてらっても仕方ねーだろ。俺達が欲しいのは山の向こうから狙い撃たれても回避できる能力とかじゃなく、目の前の猿が投げてくる石を防ぐ方法だからな。


 ということで、俺達は早速町へと繰り出し、ヘーゼルの町で一番でかい武具店へとやってきた。広い店内には武器や防具の他、探索に便利な魔導具やちょっとした消耗品など、ここにくればダンジョン探索に必要なものは大体全部揃うと言われている店である。


「おおー、めっちゃ広いな」


「見て回るだけで一日が終わりそうデス!」


「確かに、これは色々見てみたくなるのじゃ」


 見渡すと言いたくなるような広い店内は、今まで俺が行ったことのある店とは明らかに格が違う。まあそれも当然で、実はこの店は国営なのだ。より正確には国がこの巨大な店舗を管理しており、そこに色んな個人が商品を卸してるって感じ……なのか? 何かそんな話を聞いたような気がするが、単なる客である俺達にはその辺の事情はどうでもいいことだ。


「んじゃ、早速見に行こうぜ! まず見るところは、やっぱり兜か?」


「それも悪くはないのじゃが、最初に店の者に話を聞いた方がよいのではないのじゃ?」


「そうデスよマスター。武具がいっぱいあってテンションがあがってるのはわかるデスけど、はしゃぎすぎは駄目なのデス」


「ぐっ……わ、わかってるよ…………」


 思いっきり図星を指されて、俺は思わず言葉に詰まる。個人的にはこのまま自由に武器とか防具とかを見て回りたい気持ちが強いが、だからといって目的を忘れてるわけではないのだ。


「じゃあ適当な人に……すみませーん!」


「はい、何ですか?」


「実は……」


 俺は店の中を歩いていた若い男性の店員を呼び止め、来店の主旨を伝える。すると店員さんはふむふむと頷きながら話を聞いてくれた。


「なるほど、遠距離攻撃に対する防御をどうすればいいか、ということですか」


「はい。俺達の認識だと適当な兜でも被ればいいんじゃないかとも思ったんですけど……でも、改めて思い出してみると、兜を装備してる探索者ってあんまりいないんですよね」


「確かに探索者の方は、視界が塞がるのをとても嫌がりますからね。実際頭部を完全に守るような兜ですと視界がとても狭くなってしまうので、選ばれる方はほとんどいません。ダンジョンの深部まで行くような熟練パーティの壁役の方以外ですと、ほぼ皆無といっていいくらいです」


「やっぱりそうなのじゃ。でもそれにしたって、本当に全ての攻撃を防ぎきれるわけではないと思うのじゃ。そういう場合の後衛などは、どのような対策をとるのが一般的なのじゃろうか?」


「一番多いのは、ご自身、あるいはお仲間のスキルを活用する方法ですね。各属性にある防御系の魔法を使うのが一般的かと。


 それとこれはあくまでもお客様から聞いた話になるのですが、そもそも魔法士などの後衛の方は、遠距離攻撃は自力でかわしてしまう方が多いようですよ」


「自力で? それは一体……?」


 首を傾げるローズに、店員さんが更に詳しく説明してくれる。


「弓士や魔法士は敵を遠くから狙い撃つでしょう? その経験から『自分なら何処に身を隠し、どうやって敵を撃つか』を魔物の側の視点で考えることで、自分が何処からどのように狙われるのか、おおよその見当がつくのだそうです。


 なのでその射線を切るように前衛や障害物の影に隠れたりすることで、自分の身を守るんだそうですよ。そのくらいなら身体能力に劣る魔法士でも十分に対応できるとのことで」


「む、それは…………」


 最後まで話を聞いて、ローズは困ったように顔をしかめた。


 今更ではあるが、ローズは魔法を前に飛ばせない。つまりローズは今まで遠距離攻撃を意識した立ち回りを一切していないのだ。であれば相手の立場になったとしても、何処から狙えばいいのかなどわからないのも道理である。


「くぅぅ、ここにきて妾の未熟が仇になるとは……そうか、じゃからガーベラ姉様もジャスリン殿も軽装だったのじゃ」


「考えてみりゃ当然か。俺とかローズが動きが鈍るほど重武装したって、ゴレミより硬くなるわけねーもんなぁ」


「適材適所というやつなのデス。鉄壁のゴレミシールドの後ろから攻撃してくれた方が、確かに守りやすいのデス」


 わかりやすい答えは出た。だがそれは俺達が求める答えとはちょっと違う。ローズが遠距離攻撃の視点を学ぶのは有効だろうが、それはこれから時間をかけて身につけるものであり、今すぐ必要な対処法としては不合格だ。


「うーん、もっとこう……直接的というか、簡単に遠距離攻撃から身を守る方法ってないですかね? ほら、そう! この『耐熱』の効果がついた防具とか魔導具とかみたいな感じで!」


 そう言って、俺は自分の鎧やローズが嵌めている腕輪を見せる。ちなみにローズが必要ないのに腕輪を身につけているのは、身につけていて邪魔になるものではないことと、外して宿に置いておくにはやや高価すぎて怖いからだ。鞄にしまい込んで無駄に容量を圧迫するくらいなら、腕につけておいた方が場所もとらねーしな。


 と、それを見せられた店員さんは、しげしげと俺達の装備を見てから口を開く。


「魔導具ですか……多少値は張ってしまいますが、そういう品もありますよ。ご覧になられますか?」


「いいんですか? お願いします」


 買うかどうかはともかく、見るだけならタダだ。俺達は店員さんに連れられて店の中を移動し、一見すると宝飾品を扱っているかのような魔導具売り場へと辿り着いた。


「遠距離攻撃対策なら、この辺ですね。一番オーソドックスなものはこちらで、<風魔法>の『ウィンドベール』と同じ効果があります。ネックレス型のものであれば身につけて発動させると上半身を風の膜が覆い、ちょっとした矢や投石を後方に逸らしてくれます。


 こちらの腕輪型は伸ばした手の先に風の障壁を発生させ、より強力に攻撃を逸らしてくれます。


 ただしどちらも強すぎる攻撃は逸らしきれずに貫通してしまいますし、またあくまでも逸らすだけなので、背後に流れ弾が発生してしまう点には注意が必要ですね」


「へー。ってことは、このネックレス型を常時起動しとけば、ピンキーモンキーの投石くらいなら完全無効化できたりします?」


「ピンキーモンキー……ああ、あのくらいの魔物の攻撃でしたら余裕です。火属性の魔法だけは風に乗ってバッと広がってしまうので危険ですが、それだけ気をつければ一〇層を超えるくらいまでは十分に恩恵が感じられるかと」


「それはいい感じなのじゃ! で、それは幾らくらいするのじゃ?」


「こちらのネックレス型は、四〇万クレドとなっております」


「うっ……」

「ぬぅ」

「なかなかのお値打ち価格なのデス……」


 平然と告げられた値段に、俺達は全員揃って顔をしかめる。四〇万クレドはかなりの大金……というか、具体的にはパーティ資金をほぼ全額突っ込むくらいの金額だ。買えないわけではないが、買ってしまうと後がない。


「どうするデス、マスター?」


「クルトよ、無理をする必要はないのじゃ。そうそう頭に投石など食らわぬし、妾も十分に気をつけるのじゃ」


「むむむむむ…………」


 純粋に問うてくるゴレミと、心配そうに俺を見つめてくるローズを前に、俺は腕組みをして考えこむ。「トライギア」のリーダーは俺なのだから、ここは俺がビシッと決めなければならない。


 命は金より大事だ。だが金がなければ生きていけない。何処までを許容し、どこまで妥協するか。その見極めの妙こそがリーダーの資質。俺は二人の顔と、あとついでに何かを期待するような店員さんの顔も見ながら考えに考えて……


「……よし、決めた!」


 そして遂に、決断を下した。

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