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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第四章 歯車男と試練の塔

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試練終了

「ムッ! ムッ! ホァイ! どうですかマスター?」


「おー、いいんじゃねーか?」


 得意げに跳んだり跳ねたりしてみせるゴレミに、俺は感心して頷いてみせる。ゴレミが選んだ「基礎ステータス+一〇」の効果は、なかなかに大きいようだ。


「今はまだ無理デスけど、いずれは壁抜けとか二段ジャンプもできるようになりたいデス! ヴァンパイアなんてイチコロなのデス!」


「何で吸血鬼……?」


「してゴレミよ、何故そっちの才能を選んだのじゃ?」


 相変わらずの謎発言に俺が怪訝な表情を浮かべてみるも、相変わらずなので華麗にスルーしたローズがゴレミに問いかける。するとゴレミは一端動きを止めてからその問いに答えた。


「今すぐ強くなるかいずれ強くなるかで、今すぐ強くなる方を選んだだけデス。確かにゴーレムコアを拡張して技術を身につけた方が長い目で見ると強くなれるデスけど、そっちには莫大な時間が必要なのデス。


 対して基礎ステの強化は、単純にパワーやスピードがあがって雑に強くなるので、すぐにでも……そして当分の間はローズやマスター達と一緒に戦えるので、そっちにしたのデス。


 世紀末世界の種籾オジジは『今日より明日なんじゃー!』と言ってたデスけど、そもそも今日を生き延びられなかったら明日が来ないのデス! お墓に種籾を蒔かれても、世話する人がいなかったら芽も出ないのデス! 農業舐めるなデス!」


「お、おぅ。種籾オジジ……? いや、言わんとすることはわかるけども」


「まあ確かに、遠くだけ見て足下を見ない者は、すっころんで終わりじゃからのう」


 将来を見据えて努力するというのは間違いなく大切だが、その将来を得るためには、今日という日を全力で生きねばならない。


 第一線で活躍するような優秀なパーティなら「今は弱くてもいずれ最強になる新人」をゆっくり育成するって手もあるんだろうが、俺達みたいな駆け出しは「今すぐ強くて頼りになる仲間」の方がありがたいのは間違いないだろう。


「それに、どっちにしろ体の硬さが変わるわけではないデスから、一〇層に挑む頃には盾的な防具が欲しいデスが、その時コアの拡張をした場合は使いこなせる技術があっても重い盾を持つ腕力がないので、高価な装備が必要になるデス。


 でも、基礎ステをあげるなら適当にでっかい盾があればいいデス。使いこなすのは無理でも構えるだけならできるデスから、あとは地力に任せてごり押しするのデス! それならお財布にも優しいデスしね」


「なるほど。確かに今の俺達の懐具合じゃ、白鋼の重盾なんてのはとても買えねーしなぁ」


 今の装備に買い換える前、カージッシュの町に辿り着いた時なら三〇〇万クレドを持っていたが、あんな例外的な美味しい仕事が早々転がっているはずもない。


 もしもう一度同じ額を貯めようと思えば、数年がかりで地道に貯金することになり……安全な場所で少額ずつ稼ぐのに焦れたりすると、試練で見たあのパーティみたいな結末を迎えることになるんだろう。「飽き」や「慣れ」は、怖いと自覚していてなお抑えきれないものだしな。


「勿論お金に余裕があるなら、コアの拡張をとって最高級の装備で身を固める方が強くなると思うデスが……って、あれ? 何でマスターは白鋼の重盾を思い浮かべたデス?」


「へ? それは俺達はゴレミの試練を見てたから……あー、そう言えばまだ説明してなかったか?」


 小首を傾げるゴレミに、俺はしれっとそう告げる。だがそれを聞いたゴレミの反応は穏やかではない。


「聞いてないデス。聞いてないというか、見たってどういうことデス? まさかマスター達は、ゴレミの試練の内容を見てたデス!?」


「あー……まあ、うん。そうだな」


 若干の後ろめたさもあり、俺はそっと視線を逸らしながらそう言う。すると凍り付いたように動きが止まったゴレミが、次の瞬間大声で叫ぶ。


「う、う、ウギャー! ゴレミの秘密が丸見えデス!? プライバシーも何もあったもんじゃないデス! 基本的ゴーレム権を要求するデス!」


「落ち着けって! 俺だって最初から覗こうとしてたわけじゃねーんだぜ? でもゴレミがなかなかこっちに来なかったからさぁ」


「そうなのじゃ! あれはやむを得ない行為だったのじゃ!」


「そんなの知らないのデス! 何でもかんでもコラテラルダメージって言っとけばいいと思ったら大間違いなのデス!


 酷いデス! 横暴デス! 謝罪と賠償を要求するデス! 具体的には今夜は二人にギュッと抱きつかれたり抱きついたりしながら寝たいデス!」


「こら……何だ? それでゴレミが満足するならいいけど」


「妾はむしろ一緒に寝たいのじゃ! なら今夜は三人で寝るのじゃ!」


「わーいデス! ふふふ、ハーレムルートのフラグが立ったデス! 今夜は寝かさないデス!」


「えぇ? 俺スゲー疲れてるから、今夜はぐっすり寝たいんだけど……」


「これはまさか、伝説のパジャマパーティというやつなのじゃ!? ならばダンジョンを出たら、美味しいお菓子を用意せねばなのじゃ!」


『……探索者達よ』


 そうして俺達が横道に逸れまくった雑談を繰り広げていると、まるで痺れを切らしたかのように頭の上から声が響く。どうやら女神様的には、この辺が許容限界だったようだ。


『報酬の引き渡しは完了しました。新たに得た才を存分に生かし、今後も素晴らしき探索を続ける事を期待しています』


(才能もらったの、結局ゴレミだけだけどな)


(こら、クルト! そういうことを言ってはいかんのじゃ!)


 ぼそっと呟いた俺に、ローズが軽く臑を蹴りながら注意してくる。まあ、俺だって本気で文句を言っているわけじゃない。確かにご褒美はもらえなかったが、あの試練を乗り越えたという経験だけでも、俺達にとっては得がたい宝となったのだから。


『行きなさい、探索者達よ。その未来に輝かしき夢の果てがあらんことを』


 その言葉に合わせて、俺達の前に三度白い扉が現れた。おそらくはここを通れば、今度こそ<天に至る塔(フロウライト)>の第一四層に戻るんだろう。


「はー。何かスゲー長居した気がするけど、漸く終わりか」


「終わるとなると、ちょっとだけ寂しいのじゃ」


「でも、その寂しさの向こうには、また楽しい冒険があるのデス!」


 明るい声でそう言うゴレミに、俺達は顔を見合わせ笑い合う。さあ、あとは帰るだけだが……っと、その前に。


「あの、女神様? ボドミっていうか、そこの<天啓の窓>なんですけど」


 扉をくぐる直前で足を止め、俺は振り返って女神像に、それからボドミの方に視線を向ける。そこにはぐったりと寝そべるボドミの姿があり……やっぱりこいつだけ普通の<天啓の窓>と仕様が違うよなぁ……まあそれはそれとして。


「確かにボドミは、ルールを破ったのかも知れないですけど……でもそれは、俺の仲間を助けるために、俺の願いを聞いてやってくれたことなんです。全部俺達のためで……だから何て言うか、あんまり酷い罰みたいなのは与えないで欲しいんです」


 決まりを破れば罰を受ける。そんな当たり前の常識を踏み倒すようなことは口にできない。


 加えて、俺達の為にやってくれたことなんだから、俺達が代わりに罰を負いますなんて台詞も駄目だ。それは我が身を省みず俺達を助けてくれたボドミの覚悟と誠意に対する侮辱となる。


「……どうか、寛大な処置をお願いします」


 故に、俺にできるのは、ただ深く頭を下げることのみ。そんな俺の横で、ローズとゴレミも同じように頭を下げる気配がして……そうして一〇秒ほど経ったところで、俺は頭をあげる。


 神は黙して語らない。あるいは俺達の声は、もう届いていないのかも知れない。所詮こんなものは、ただの自己満足に過ぎないのかも知れない。


 だが、やれることはやった。俺達は来た時と同じく、三人揃って手を繋いで白い扉をくぐり……


――――妹をよろしくね


「ん?」


 ふと、俺の耳にそんな女性の声が聞こえたような気がした。が、慌てて振り返っても特に誰かがいたわけでもなく、加えてすぐに視界は白く染まってしまう。ふーむ、何だかよくわかんねーが……


「任しとけ!」


「? クルトよ、突然どうしたのじゃ?」


「マスター、変なものでも食べたデス?」


「何でだよ!? いいんだよ、ただの独り言だ」


 怪訝な顔をする二人をそのままに、俺は内心でグッと親指を立てて応えつつ、そうして「試練の扉」を後にしていくのだった。

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