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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第四章 歯車男と試練の塔

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試練の扉:ゴレミ 「永遠はここに在る」

「し、潮時……? 何を言ってるデス?」


「何って、言葉通りだろ。割と粘ったと思うけど、流石に限界だって」


 声を震わせて問うワタシに、マスターがひょいと肩をすくめてそんなことを言うデス。しかもそんなマスターの横では、ローズもまた苦笑しながら変なことを言うデス。


「そうじゃぞ。何事にも終わりはあるものなのじゃ。どれほど引き延ばしたとしても、終わらぬものなどないのじゃ」


「そんな事ないデス! まだまだ全然、ゴレミとマスター達の毎日は、終わったりなんてしないのデス!」


「そうか? でもほら、空はこんなに真っ赤だぜ?」


「え?」


 両手を広げて見上げるマスターに釣られて、ワタシも視線を上にあげたデス。すると壊れて砕けた世界の殻……それの残りに映っていた景色が、燃えるように真っ赤に変わったデス。


「どれだけ遊び足りなくても、空が赤くなったら子供は帰るものなのじゃ。もう少しだけと残り続ければ、世界はどんどん暗くなり……やがて何も見えなくなったら、もう家に帰れなくなってしまうからの」


「あ…………う……………………」


 赤い空を映した破片は、今も少しずつ剥がれ落ちていっているデス。そして映っている空の景色自体も、少しずつ暗くなっていっているデス。


 この場にある全てのモノが、ワタシに「立ち止まるな」「先に進め」と訴えかけてくるデス。でも……でも…………っ。


「ワタシは、まだ…………っ!」


「ふぅぅ…………なあ、ゴレミ?」


「……何デスか、マスター?」


「もしここが、本当にお前にとっての理想の世界だって言うなら……残ってもいいぜ?」


「……え?」


 全てがワタシを責め立ててくるなか、その意外なマスターの言葉に、ワタシは伏せていた顔を上げるデス。するとマスターはちょっとだけ困ったような顔をしながらも、ワタシの方を見て優しく語りかけてくるデス。


「ずっと変わらない、ずっと終わらない、ただ繰り返すだけの日常……それがお前が心から望んだことだって言うなら……『俺』はきっと、それを認める。二度とお前に会えないことを誰よりも悲しむだろうが、それでもお前の幸せのために、『俺』はお前を諦めるだろう」


「そうじゃな。この場所がゴレミの全てだと言うのなら、『妾』もそれを受け入れるじゃろう。大切な友を失うことに心の底から涙するじゃろうが、それでもお主の幸せのために、『妾』はお主を置いていくのじゃ」


「え? え? 二人共、何を言って……」


「だってそうだろ? 『俺』はここには来られない。そしてお前が望まないなら、『俺』はお前を無理矢理連れ出したりしない。辛くても悲しくても、歯を食いしばって『俺』は前に進んでいくさ」


「妾がどれだけ望んでも、『妾』がこちらにくるのは無理なのじゃ。そしてゴレミが嫌がることを、『妾』がするはずがないのじゃ。一時子供のように泣きじゃくっても、いつかきっと立ち直って、『妾』は前に進むのじゃ」


「あ、あ…………」


 ここはとても幸せな場所なのデス。そして大好きなマスターもローズも、ワタシがここに居てもいいと言ってくれているのデス。ならワタシは、大喜びでそれを受け入れて、また変わらない日常に戻るべきなのデス。


 なのに、何故かワタシは迷っているデス。あれほど欲しかった永遠の代わりに、あれほど恐れた明日を失ってしまうことを、心の底から怖がっているデス。


『でも俺は』

『妾は』


『いつか終わりがくるとわかっていても』


『明日もお前と一緒にいたいんだ』

『のじゃ!』


「マスター……ローズ…………ワタシは、ゴレミは…………」


「さあ、どうするゴレミ?」


「選択の時は、今ここなのじゃ」


 そう言って、マスターとローズが横に動く。その先には最後に残った世界の破片があり、そこには永遠を約束された緋色の世界が広がっている。


 駆け込めば、まだ間に合う。でも入ったら、きっと二度と出られない。迷うワタシの背後から、また別の声が聞こえてくるデス。


「ハァ、まったく仕方のない子ねぇ。いくら末っ子だからって、甘えん坊が過ぎるんじゃない?」


「えっ!? だ、誰デス!?」


 振り返った先では、髪の長いスレンダーな感じの女の人が立っていたデス。スラリと背が高いのはとってもカッコいいデスが、胸部装甲が明らかに薄いデス。そのあまりの薄さに、何故かワタシは深い悲しみを覚えてしまうデス。


「ちょっと、何でそんな目で見るのよ!? 言っとくけど、これはモデル体型なの! 決して貧相なわけじゃないのよ! わかってる!?」


「あ、はい。ごめんなさいデス。というか、お姉さんは誰デスか?」


「私? 私は……ボドミよ。板きれだからボドミって、あんまりだと思わない?」


「板きれ……? よくわからないデスけど、うちのマスターが申し訳ないデス」


 経緯が全くわからないデスが、そんなガッカリネームをつけるのはマスターしかあり得ないので、ワタシはひとまず謝っておいたデス。というか、キレイめなお姉さんなのに、何で板きれ……え、ひょっとして胸デスか? だとしたらマスターには、割とガチ目でお説教をする必要があるデス。


「まあいいわ。それよりほら、さっさと行きなさい! いくら時間の流れが違うとはいえ、もうそんなには保たないわよ?」


「で、でも、ワタシは――」


「わかってるわよ。貴方が本当に迷ってるなら、私だって無理に急かしたりしないけど……でも、違うでしょ? 今の貴方は迷ってるわけじゃないの。自分が決めたことに自信を持てないだけなのよ。


 だから私が後押ししてあげる。勇気の出るおまじないよ」


 そう言うと、宙に浮かんでいたボドミがスイッとワタシの側にやってきて、ほっぺたにキスをしてきたデス。


 その瞬間、ワタシのなかに太陽が生まれたデス。石の体に熱が行き渡り、ヒビ割れた魂が生まれたての赤ちゃんみたいにぷるぷるのもち肌になったデス。


 それと同時に、今までずっとしおれていた明日を楽しみにする気持ちが、ワタシの中で一気に膨らんだデス。外れていた……いえ、意図的に外していた歯車がピッタリ噛み合ったかのように、ワタシのなかの(ゴレミ)が動き出したデス。


「ほら、もう平気でしょ? なら行きなさい。貴方を待っていてくれる、大切な人達のところへ」


「……はいデス!」


 元気に返事をすると、ワタシは最後に残った世界の破片に向かって全力ダッシュをするデス。そして……


「やっちまえ!」


「決めるのじゃ!」


「ゴレミ、パーンチ!」


ガシャーン!


 派手な音を立てて、世界の破片が砕け散ったデス。それと同時に意識がグルンと回転して――





「……………………ああ」


 暗いのではなく黒い世界で、ワタシは目を覚ましたデス。そっと頬に手を当てると、そこには三人分(・・・)の温もりが感じられて、ワタシは思わずニヤニヤしちゃうのデス。


「はぁ、随分とお寝坊しちゃったのデス。マスター達を待たせちゃうなんて、ゴレミはご奉仕メイド失格なのデス」


 置いて行かれていたらどうしようなんて不安は、もうワタシのなかにはないのデス。とはいえあまり待たせすぎると、ゴレミ不在による不人気で連載が打ち切られてしまうのデス。


 なのでワタシは、万感の想いを込めて抱いていた歯車を胸に押しつけたデス。するとそれは正しくワタシのなかに入り込み、廻る歯車が再び時を刻み始めたのを感じるデス。


「未来への不安や恐怖が、消えてなくなったわけじゃないのデス。今だって明日が怖くて、生まれたての子鹿のように足が震えちゃうのデス。でも……」


 誰もいない、何もない空間で、しかしワタシは上を見上げて笑顔で宣言する。


 だって、ワタシはもう知っている。だって、ワタシはまだ覚えている。失われたはずの過去は、一つも消えてなんていなかった。お別れはとても辛くて悲しかったけれど、幸せは確かにそこに在った。


「そんな全てを乗り越えて、ワタシもマスターやローズと一緒にいたいのデス! ワタシが望んだ永遠は、最初から歯車(ココ)にあったのデス!」


『汝は見事に試練を乗り越えた。未来への恐怖を克服し、限りある命に真なる輝きを宿した。


 汝、探索者よ。その魂に敬意を表し、ここに試練の終了を宣言します。さあ、扉をくぐりなさい』


「おおー!」


 どこからともなく響いてきた声に合わせて、目の前に突然真っ白な扉が現れるデス。最後の最後で「ゴーレムだからダメです」とか言われたらどうしようかとちょっとだけドキドキしたのは内緒なのデス。


「待ってて欲しいデス、マスター! ローズ! プリティでキュートなゴレミが、今すぐ二人に会いに行くデスよー!」


 一秒でも早く二人の顔が見たくて、声が聞きたくて、ぎゅーっと抱きつきたくて。ワタシは乙女にあるまじきドスドスという足音を立てて、思いっきり扉に向かって走り出したデス!

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