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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第四章 歯車男と試練の塔

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大暴走

 物理無効……それは文字通り、物理攻撃の一切が効かないということである。少し前に戦ったオブシダンタートルのような「糞硬いので事実上物理攻撃が通じない」というのとは一線を画し、どんな達人がぶった切ろうが、どんな怪力でぶん殴ろうが、この特性を持つ魔物にはそよ風ほどの意味もない。


 加えて、ならば魔法攻撃が弱点かと言うと、そんなこともない。そもそも物理無効の特性を持つのはごく一部の例外を除けば幽霊(ゴースト)精霊(スピリット)などの魔法生物と呼ばれる種族であり、自身が魔力の塊のため、魔法に対する抵抗力はむしろ普通の魔物より強い傾向があるくらいだ。


 ならば目の前にいるウィスプは、物理攻撃が効かず魔法も聞きづらい強敵なのか? そう問われたならば……無論答えは「否」である。


「んじゃ、次は『聖水付き』でいくぞ!」


「了解デス!」


 俺は腰の鞄からギルド併設の売店で買った小瓶を取り出し、その中身を刀身にかける。そうして濡れた刀身で再びウィスプを切り裂くと、今度はほんのわずかな手応えと共にウィスプの体がバチッとはじけ、俺の足下に小さな魔石がコロンと転がり落ちた。


「おおー、凄い効き目じゃな!」


「だな。流石はアルトラ教の純正品だぜ」


 感心するローズの言葉に答えつつ、俺は改めて刀身を見る。聖水とは言いつつもその本質は水ではないためか、刀身は既に乾いてしまっており、雫の一滴もついてはいない。何もしなければ一分くらいは効果が持続するという話だったが、使ってしまえばそれまでだ。


 そう。もっと強大な魔物ならともかく、たかだかダンジョンの第一層にいるような魔物が、それほど強い魔力を持っているはずがない。如何に魔法生物といえ……いや、純粋な魔法生物だからこそ、魔力の押し合いに負けたらそれで終わり。


 普通の生命なら心臓を貫かれたって一〇秒くらいなら動いてくるが、魔法生物はそういう「粘り」のようなものがないので、倒す手段さえ確立していれば、むしろ安全かつ倒しやすい相手なのだ。


「んじゃ、次行くか。今度はローズの魔法でウィスプの攻撃を防げるか試すぞ」


「うむ! 見事防ぎきってやるのじゃ!」


「囮はゴレミにお任せデス!」


 ひとまず「倒せる」という確証を得たので、俺達は更に道を進んで次の敵を探す。最短の……つまり最も人が通る道を外れたことで魔物との遭遇率も若干ながらあがったのか、次のターゲットは特に苦労することなく見つかった。


「お、いたいた。じゃ、手はず通りいくぞ!」


「わかったのじゃ……よし。ゴレミ、よいぞ!」


「では引きつけるデス! こいよタマ公! 武器なんか捨ててかかってくるデス!」


 ゴレミがお約束の口上を口にしながら手袋の金属をシャンシャンと打ち鳴らすと、それに誘われるようにフワフワとウィスプが近づいてくる。それを確認したローズはゴレミの背後にピッタリとくっつき、先んじて魔法を発動させた。


「防ぐのじゃ! フレアスクリーン!」


 瞬間、ローズの……そしてゴレミの前に、薄い火の膜が広がる。そこにウィスプからパチッと雷が迸ると、ローズの張った火の膜に小さな波紋が生じ、小さな雷は貫通してゴレミの体に命中した。


「ぬあっ!? まさか貫通されたのじゃ!?」


「みたいデスね。でも威力は相当に落ちてるです。冬場に服を着るとパチってなるあれの、更に一〇分の一くらいの威力だと思うデス」


「そっか。そのくらいなら十分成功――」


「駄目なのじゃ! そんなの納得いかないのじゃ! もう一回! もう一回やらせて欲しいのじゃー!」


「お、おぅ。まあ別にいいけど……」


 子供のように駄々をこねるローズに、俺は若干引きながらもそう告げる。するとローズは今度こそとばかりに気合いを入れ……火の膜の魔法に揺らぎが生じる。


「ぐぬぬぬぬ……もっと、もっとなのじゃ!」


「ローズ、これ大丈夫なやつデスか? 凄くゴレミに距離が近いのデスが……」


「そりゃ妾と魔法の間にゴレミがいるのじゃから、仕方なかろう! 大丈夫なのじゃ!」


「いやでも、ちょっと色が変わってきてるデスよ? 大丈夫な感じがグングン失われていってる感じデス!?」


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ! さあ、これでも貫通できるなら、やってみるのじゃあああああ!!!」


「マスター!? 早く! 早く観測して欲しいデス! 何か火の膜が濃すぎて、ゴレミからはもう何も見えないし、何も感じないデス!?」


「あー……いや、さっきから割とパシパシ打たれてるけど、全部防いでるんじゃねーかな?」


 焦るゴレミに、俺は見たままを伝える。強大な力に怯えるかのようにウィスプは雷を連射していたが、火の膜を貫通している様子はない。というか、もはや膜に触れるちょっと前に魔法が霧散してるんじゃないかとすら思える。


「わかったデス! ほら、ローズ! 防いだデスよ! 完全防御デス! だから早く魔法を解除するのデス!」


「わっはっは! やっぱり妾はやれば出来る子なのじゃー!」


「周囲の景色が揺らいできたデス!? え、これどれだけ熱いデスか!?」


「…………よ、よし。じゃあ最後の実験だ。まずは……食らえ、歯車スプラッシュ!」


 笑ってはしゃぐローズと、それに戦くゴレミをそのままに、俺は手の中に生みだした歯車をウィスプ目掛けて思い切り投げつける。すると歯車はパラパラと音を立て、ウィスプに当たって(・・・・・・・・・)床に落ちる。


パチッ!


「うおっ、こっちに来た!? ってことは、やっぱり当たる(・・・)のか!」


 俺の生み出す歯車は魔力によって生み出された物質であり、魔力を纏っている。それはつまり魔法武器としての条件を満たしているということだ。


 であれば当然、ウィスプにその攻撃は当たる。そして当たるならば……それは倒せるということだ。


「なら次だ! おい、ローズ! やるぞ!」


「むふふふふ! 妾はいつだってオーケーなのじゃ!」


「マスター! 早く! 早めに終わらせて欲しいデス!」


「本当か……? まあいいや。あとゴレミはもうちょっと頑張ってくれ。それじゃ……食らえ、バーニング歯車スプラッシュ!」


 次いで俺は、ローズが少しだけ上にずらした火の膜を通し、ウィスプに命中するように歯車を投げる。だが……


「…………は?」


「も、燃え尽きたデス!?」


「流石妾なのじゃ! クルトの歯車だって一発で燃え尽きるのじゃ!」


「馬鹿言ってんじゃねぇ! それじゃ意味ねーだろうが!」


「なっはっはっはっは! 妾が最強なのじゃー!」


 テンションが上がりすぎておかしな感じになっているローズに、俺は思いきり怒鳴りつける。だがまるで酔っ払っているかのように、ローズは話を聞いてくれない。


「あーもー、仕方ねーなぁ! ならこれは飛ばしだ! 最後は……食らえ、歯車ボンバー!」


 手の中に生みだした五角形の歯車を、俺はウィスプ目掛けて投げつける。ギチギチと音を立てるそれがウィスプに当たった瞬間。


ボンッ! バチバチバチッ!


「お、やったぜ!」


 小さな爆発と共に、ウィスプの体が消えてなくなる。それを確認して、俺は思わずガッツポーズを決めた。この瞬間剣士である俺にとって相性最悪であるはずの魔物は、俺が単身で倒せる数少ない魔物の一つとなったのだ。


「よしよし、これで倒せるなら聖水は大分節約できるな。一撃で仕留められるなら不意打ち先制で反撃の危険もねーし、探索が随分楽に……」


「マスター! そろそろローズをなんとかして欲しいデスー!」


「あー? おいおい、まだやってるのか?」


 今後のダンジョン探索に思いを馳せる俺に、ゴレミからのヘルプコールが届く。顔をしかめつつ振り向いてみれば、既に敵は倒したというのに未だに魔法を展開し続けるローズと、ローズ自身とその魔法に挟まれて身動きが取れず、困り果てた顔をするゴレミの姿がある。


「おいローズ! いい加減にしろって。もう魔物は倒したぞ?」


「うひゃひゃひゃひゃ! 妾はできそこないではないのじゃ! 妾が本気を出せば、このくらい楽勝なのじゃ!」


「ローズ? おい、マジでどうした?」


 尋常ではないその様子に、俺は慌ててローズの肩に手をかける。するとほとんど何の抵抗もなくローズの体がこちらに倒れてきて、俺は慌ててそれを受け止める。


「うおっ!? ローズ!?」


「うきゅぅぅぅぅぅ……」


「えぇ?」


 目を回して倒れ込んでしまったローズを前に、俺はただ頭を抱えることしかできなかった。

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