ちょっと未来の缶コーヒー〜人気アイドルコラボ全24種の限定デザインパッケージ〜
*なろうラジオ大賞4参加作品です。
徹夜明けの研究室を出て、自販機で缶コーヒーを買う。
僕は18歳になったばかりだけど、飛び級で16の時から大学で研究をしている。
ガコッ、と出てきた缶コーヒーは期間限定の派手なデザイン。世間に疎い僕でも名前くらいは知ってるアイドルグループのロゴと、笑顔の女の子がひとり、大きく印刷されている。
手に取った瞬間、眠気が吹き飛んだ。
「えっ、佐倉さん!?」
思わず声に出すと、缶に印刷された顔がなめらかに動き、驚いた表情に変わる。
「林くん!」
缶から聞こえる声も佐倉さんだ。
小・中学の同級生。地元で一番かわいいと有名だった女子。オタクで根暗な僕は、一度も話したことなかったけど。
「びっくりしたー中学以来だよね、久しぶり!」
缶に印刷された佐倉さんは、うれしそうに話しかけてくる。
僕は缶に向かって返事した。
「佐倉さん、アイドルの仕事してんだな。すごい」
佐倉さんは、エヘヘと照れ笑いする。
「どう? ちゃんとアイドルっぽい?」
「うん。顔見た時、うれしくなったよ」
「わあ、それ最高の褒め言葉だ! ありがとう」
「缶にQRついてるけど、何か応募できるの?」
「メンバー人気投票やってるんだ。一缶で一票。本人プリントの缶から投票したら一缶で二票分だよ」
「じゃ、今投票する」
「ありがと!」
佐倉さんの表情が、楽しげにくるくる変わる。
「林くんは何してるの? 白衣着てるけど研究とか?」
「そ。量子力学。AIの基礎研究的な」
「さっすが! 西中の天才って呼ばれてたもんね」
懐かしくて恥ずかしいフレーズに僕は苦笑する。
「別に天才じゃないから、地道にやってるよ」
「林くん頑張ってるんだね、私も頑張ろ」
「佐倉さんこそ、頑張ってるんでしょ」
そう言って缶をトントンと指すと、佐倉さんは一瞬はにかんだような顔をした。
完璧な笑顔より、今のが一番かわいい。
佐倉さんは慌てて「ありがと、またね!」と手を振って、笑顔の静止画に戻っていった。
缶を開けて、コーヒーを一気に飲み干す。
甘ったるい。変な白昼夢みたいだ。
以前、ラボの研究を応用したいと飲料メーカーから相談があったことを思い出す。うまく実用化されている。彼女の記憶システムを入れたAIなら、本人が思い出せないことも抽出するだろう。データの取り出しは、機械の得意分野だから。
だから、佐倉さん本人が、僕のことなど覚えていなくても。
でも。
またね、って言われたしな……
僕は通販サイトを開いて、同じ缶コーヒーを箱買いした。