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カルボナーラ

 私はヨウさんの家にただ単に入り浸っているわけではない。


 一応、家のことをさせてもらっている。


 そうしないと存在意義がなくなってしまう。


 私のためにもできることを探してこなしている。

 

 今日はヨウさんにお使いを頼まれ、街まで行って食材をいろいろ買ってきた。


 なんだかんだヨウさんは私のことを認めているのではないだろうかと思う節がある。


 よく買い物を私に頼むのだ。


 そのときお金を私に託す。信頼のおける人にしかお金って持たせられないと思わない?



「おお、ちゃんと帰ったか。金を持ったまま逃げるかと思ったよ。まあその程度だったら構わないけど」



 失礼なことを悪びれることなくヨウさんは言う。


 今日は毒を盛ってしまおうか。



「そんな、ネコババなんてことしませんよ」


「そうか。それなら、お釣りをやろう」


「え、いただけるのですか?」


「そりゃ仕事には対価がセットだろう」


「ありがとうございます」


「それにタダ働きさせて毒でも盛られたらたまらないからな」


「い、嫌だなぁ。そんなことするわけないじゃないですかぁ」



 さすが元勇者。危険察知スキルを取得しているのか?



「それに俺は今日なぜだか機嫌がいい。よし、飯でも作ってやる」


「ありがとうございます」



 たまにあるのだ。こういう日が。


 ヨウさんが料理をふるまってくれることが。


 もともと料理は好きらしい。


 私がここに入り浸っているだけで、そもそもヨウさんは一人で暮らす予定だったのだから、料理をするつもりだったのだ。


 ヨウさんが私の買ってきた食材を見ている。



「それじゃあカルボナーラにしよう」


「カルボナーラ? あれ作れるのですか?」


「ああ。実は簡単だ」



 日本料理はおいしい。街に行くと日本料理の店があり、どこも盛況だ。


 日本では料理人をしていたという転移者が何人かいて、日本の家庭料理や、イタリアンという日本料理をこの世界にも広めた。


 パスタはそのイタリアンという日本料理の中でも群を抜いて人気だ。


 私も好きで、作って食べる。トマトとチーズと相性がよく、そのソースに絡めて食べる。


 カルボナーラはミルク系のソースだったはず。



「まずベーコンとニンニクを細かく切れ」


「え、私がですか?」


「ああ。教えてやる」


「ヨウさんが、作るって言ってませんでした?」


「気が変わった」



 こうなるともう従うほかない。


 エプロンを身に着け、ベーコンとニンニクを切る。



「鍋に油を入れて、ニンニクとベーコンを入れて炒める」



 言われるがままに調理する。


 隣でヨウさんが水を入れた鍋を温めている。



「いい感じなったな。それじゃあミルクを俺がいいと言うまで入れろ」


「はい」



 入れすぎないようにそーっと入れる。



「もういい!」



 大きい声で言うので、びっくりして少しこぼしてしまった。



「そんなに大きい声じゃなくても聞こえますよ」


「悪い悪い。それじゃあ次に買ってきてくれたチーズを入れろ」


「この中ですか?」


「他にどこに入れられる?」



 ヨウさんに言われるがまま、適度に切ったチーズを鍋の中に入れる。


 鍋の中を混ぜているとだんだんチーズが溶けてきた。



「チーズが完全に溶けるまで混ぜていろ」


「はーい」



 木べらでチーズを半分に割いて溶けやすくする。


 ヨウさんは沸騰した鍋の水にパスタを入れている。



「溶けました」


「それじゃあ、味を調えろ」


「私がですか?」


「他に誰がいる?」


「だって味があっているかわからないじゃないですか」


「それもそうだな。よし、じゃあちょっと味見させてみろ」ヨウさんがスプーンですくい、口に運ぶ。「うん、これでいい」


「わかりました」


「よし、それじゃあ麺を入れる」



 そういうとヨウさんは箸で麺を取ると直接ソースの鍋に入れた。



「水を切らないんですか?」


「ゆで汁を入れたいからな」


「なるほど」


「それじゃあ絡めろ」



 麺の入った鍋は重たい。


 だからと言って、箸や木べらで混ぜると麺が切れてしまう。


 一生懸命鍋を振って麺とソースを絡める。


 隣でヨウさんが卵を割り、卵黄だけを器用に取り出していた。



「それじゃあこれも絡めてくれ」



 卵黄を鍋に入れて、箸でつつくと割れた。



「鍋が重いんですよ」


「しょうがない、代われ」



 言ってみるもんだ。ヨウさんが鍋を手に取りなれた手つきで麺を絡ませる。



「皿を用意しろ」



 テーブルにお皿を二枚並べる。イタリアンはフォークで食べるのは知っていたので、ちゃんと用意しておく。


 ヨウさんが盛り付けると、お店で見たあのカルボナーラだ。


 しかし味はどうだろうか。本当にあのカルボナーラなのだろうか。



「それじゃあ席に着け」


「はい!」


「「いただきます」」



 二人対面で座り、カルボナーラをいただく。



「お、美味しい」


「だろう。家で簡単に作れるのに外で食べる意味がない」


「そのとおりですね」



 ものすごく濃厚で重みがある味だ。


 太ってしまうと思っても、絶対に食べたい。また作ってほしいし、私も作りたい。


 あっという間に間食してしまった。


 食べた食器をヨウさんは流しに置く。


 鍋もそのままで洗っていない。



「洗い物は頼んだぞ」



 そう言って自室に向かうヨウさん。


 洗い物を押し付けられたけれど、全然かまわない。


 進んでやってもいいと思えるほど、私は満足していた。



  □◇■◆



 なにやら日本には、コンソメなるものが存在し、それを入れると味が驚くほど整うと、食べているときにヨウさんが言っていた。


 それはカルボナーラにも合うらしい。


 この世界にもコンソメができたら、ぜひとも使ってみたいものだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >イタリアンという日本料理 異世界初心者でもあったこのネタがおもしろい笑
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