守護神
今日もいつもと変わらずちゃんと退屈だ。
周りの友だちはアルバイトをしたり、早い人だと仕事を持ったり、あるいは将来のために資格や技術を身につけようと勉強をしている。
それに比べて私と言ったら……。
いやいや、私だって将来のためにいろいろと身につけようとしているではないか。
ただそのスピードと実感が遅いだけ。
うん、大丈夫。たぶん、大丈夫。きっと、大丈夫。
そんな私の師匠であるはずのヨウさんは今日も今日とてロッキングチェアでのんびり過ごしている。
おそらく寝ている。
さっきお昼を食べたばかりだ。今お昼寝なんかしたら、太ってしまうのではないか?
まあもう激しく体を動かすような仕事をすることもないだろうから、太っても問題ないか。
ヨウさんのロッキングチェアのとなりに置いてあるサイドテーブルにスケッチブックが置いてあった。
風景を描いていると思ったらピカチュウという日本に生息するかわいらしいモンスターを描いていたことがあった。
あの時は勝手に見たので怒られてしまったけれど、また見たい衝動に駆られている。
たしかピカチュウは、ピカッと光る電気のチュウと鳴くネズミのモンスターと言っていた。
ピカチュウというモンスターが生息しているのであれば、他にもモンスターがいる可能性がある……。
見てみたい。
私はそーっと手を伸ばして、スケッチブックを開く。
「おい、何してるんだ?」
「ひぃいい!」
急に声を掛けられ驚く。
起きていたのだろうか。
「勝手に見るんじゃない」
ヨウさんは私の手からスケッチブックを取り返す。
「ごめんなさい。ボワコケコッコーがいるかなと思って……」
「なんだそれ? え? ボワコケコッコー?」
「ボワッと炎を出すコケコッコーと鳴くニワトリのモンスター……」
私は自分で考えたモンスターを言ってみた。
「そんなもんはいない。センスがないな名前に」
「ピカチュウと同じ名づけ方法ですよ」
「だとしても雲泥の差だ。全然魅力的な名前じゃない」
「じゃあ他にはどんなのがいるのですか?」
「はあ、他にはなぁ……」
そう言ってヨウさんはいろいろとモンスターを絵と共に教えてくれた。
かわいらしいものから、かっこいいもの、変わった形のものもいて、どのモンスターも実際にいるとは思えないほどイラストチックだった。
この世界の魔物もこんなモンスターだったらいいのにと思った。
「いいですね。このモンスターを手懐けるのですよね、日本人は」
「まあ、そうだな。全員じゃないけれど」
「この世界じゃモンスターを手懐けるのはそれなりの訓練が必要ですから、簡単じゃないですもんね」
「そうだな。魔獣使いにならないとな」
日本に行けるとしたら、絶対にマラカッチとシンボラーを仲間にしたい。
ヨウさんは、ドンカラスが似合うなって思った。あるいはゴリランダー。
いいな。そういう自分の相棒を連れているのって。
「あ! いいこと思い付きました」
「いや、言わなくていい。どうせろくなことじゃない」
「言います。絶対言います」
「やめろ。たぶん仕事が増える」
「あのですね、このお店に、オリジナルのキャラクターを作りましょう」
私はヨウさんの拒否を無視して話した。
「なんだそれは。看板にピカチュウを描いたからいいじゃないか。この世界だったらもはやオリジナルと言ってもいい」
「ピカチュウもいいんですけれど、もしかしたら他の勇者様が使っているかもしれないじゃないですか。最初からオリジナルだったらかぶることもないし」
「うーん。まあサリーにしては説得力があるな。じゃあ考えたらいいんじゃないか。がんばれ」
ヨウさんはそう言うと目をつむった。
「え? 一緒に考えましょうよ! ちょっと、起きてくださいよ!」
残念ながら、ヨウさんは寝てしまった。嫌絶対寝ていないけれど、意地でも反応しないつもりだろう。
仕方なく、私はオリジナルのキャラクターを考えてみることにした。
□◇■◆
私は「ふう」とため息をついてペンを置いた。
完成したのだ。私のオリジナルキャラクターが。
「ヨウさん、起きてください。オリジナルのキャラクターを考えましたよ」
ゆさゆさとヨウさんをロッキングチェアごと揺らす。
「ん? あ? 終わったか?」
本当に寝てしまっていたようだ。
「ええ、見てください」
私はスケッチブックをヨウさんに渡す。
「なんだこの小っちゃいおじさんは」
ヨウさんは私の描いた絵を見るなり眉間にしわを寄せた。
「これはですね。ミニヨウちゃんって言って、ヨウさんの小っちゃい版です」
「これじゃあゆるキャラじゃないか」
ヨウさんがまた知らない言葉を放った。
「ゆるキャラ?」
キャラはキャラクターのことだろう。でもゆるは何だろう?
「ああ、こっちにはいないもんな。ゆるキャラって言うのは、ゆるい感じのキャラクターで、日本だと地域に一体ぐらいずついて、その自分の地域を応援する役割があったんだよ」
なんということだ。まるで守り神じゃないか。守護神的なものが各地域にいたというのか。
これは新事実だ。またしても日本の新しい情報を手に入れた。
「すごいです。そんなものが日本にいたなんて!?」
「別にすごくはない。でも俺はゆるキャラになる気はない」
スケッチブックを指してヨウさんは言う。
「あ、これですか? そうですね、ゆるキャラを意識して描いたわけではないですから」
「それだったら、サリーがゆるキャラになればいいじゃないか」
「え? いいんですか?」
ヨウさんは私をここの守護神として見てくれるのだろうか。
「え? 逆にいいのか?」
ヨウさんが言ってきたのに、なんか心配するような言い方をする。
「はい! もちろん!」
「あ、ああ……。まあ、サリーがいいならいいんだけれど……」
ぽりぽりと頭を掻くヨウさん。
「はい! 今日から私はここのゆるキャラです!」
私はヨウさんの便利屋のゆるキャラとしめでたく任命されました。




