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番組

 日本には映像を映し出す箱があると聞いた。


 テレビという不思議な響きの箱。


 遠く離れた場所や事前に保存した映像を流したりすることができるらしい。


 日本には魔法がないと言っていたけれど、その分科学が発達していたらしい。


 この世界にも映写する魔法はあるけれど、簡単には使えない。大きな魔力が必要だし、習得するのも困難だ。


 どんなものなのだろう。疑問に思ったので、ヨウさんに聞いてみた。



「ヨウさん、テレビってどんなものなんですか?」


「なんだ急に?」



 ロッキングチェアで絵を描いているヨウさんも私と同じように暇をしていたのだから、急も何もないはずだ。


 どうせピカチュウでも描いていたのだろう。あとで見せてほしい。



「だってテレビは暇なときに時間をつぶすのにはちょうどいいって聞いたので、ここにもあればいいなぁって思って」


「確かにな。暇つぶしにはちょうどいい。だけど、この世界で作るのは無理だろうな」


「何でですか? この世界では発展してない科学を魔法で補って作ることはできないのですか?」


「なるほど。サリーが言うように、科学と魔法を融合させればある程度テレビに近いものを作ることはできるかもしれない。だけど、完全なものを作るには物理的に難しいところがクリアできない」



 ヨウさんは立ち上がってキッチンに移動する。


 お茶を淹れコップを用意するときに「サリーも飲むか?」と聞いてくれたので「飲みます」と答える。



「何が難しいんですか?」



 ヨウさんに「ありがとうございます」と伝えコップを受け取る。



「東京スカイツリーっていう電波塔があってな」


 そういってヨウさんはスケッチブックでその東京スカイツリーという塔のイラストを描いてみせてくれた。


 変わった形の塔だったけれど、何より驚いたのは六百三十四メートルもあるその高さにだ。


 この世界にも高い建物はあるけれど、それは魔法を使って建設していく。そうでない建物は最大で四階建てくらいだろうか。


 日本には魔法を使わずに雲の上まで届きそうな塔を建てる技術、科学があるというのか。



「電波塔というのはどういうものですか?」


「声は空気の波を口で送信して、耳で受信をするから伝わる。それを電気の波で再現しているのがテレビだ。テレビは受信、そして送信がこの電波塔だ」


「うーん……。まあ、なんとなくわかりました。でもそんなに大きくする必要があるのですか?」


「テレビは誰もが持っていたからな。広い範囲で多くのテレビに受信させるには大きい送信機が必要になる。だからスカイツリーのほかにもいろいろな地域にここまで大きくはないけれど、塔が建っている」



 こんな塔が所々に建っているなんてなかなか日本もダンジョンが多いのだなと思った。



「じゃあテレビは諦めます。でもどんなものだったかは知りたいです。何を映し出してたんですか?」



 この世界では強大な魔力を必要とする映写。科学で気軽に観られるテレビといってもそれなりに重要なものが映し出されるのだろう。



「くだらないものが多かったな。ニュースももちろんあるけれど」


「くだらないもの?」



 ニュースはわかる。私もこの世界の情勢や、地域の出来事を新聞などのニュースである程度仕入れてはいる。


 でもくだらないものとは何だろう。



「ああ、いい意味でな。何も考えずに笑って観られるものって事だ。俺は好きだった」


「どんな感じなんですか?」



 ヨウさんが好きなものは私も知っておきたい。たぶん面白いものだと思う。



「なんだろうな。クイズ番組とかはよく観てたかな」


「クイズ番組ですか……」



 テレビは一日ほぼずっと流れていて、時間で区切られていたらしい。その区切りを番組というらしい。


 クイズを流す時間があったということだ。



「えっと、言っちゃ悪いんですけど、クイズを流して何が面白いんですか?」


「え? ああ、確かにな。それだけ聞くと面白くないか。クイズ番組には解答者がいて、正解に応じてポイントが加算される。勝った人、チームには景品や商品がもらえる」


「頭がいいと得をするのは世界が違っても同じなのですね」


「深いことを言うなぁ。まあだけど、頭が悪くても得をするのがクイズ番組だ」


「どういうことですか?」



 頭が悪くて得をするとはどういう理論だろうか。


 私は一口お茶を飲む。



「珍解答と言って、簡単な問題なのに変な解答をするとそれがウケて喜ばれるんだ」


「珍解答者はそれでいいんですかね?」



 恥ずかしくないのだろうか。私だったら無知がばれて笑われるなんて嫌だ。



「いいんじゃないか? 面白い解答をする人はおバカキャラと言われて次々とクイズ番組に呼ばれるようになるから」


「それじゃあクイズにより知識を得るより、おバカキャラを観るみたいじゃないですか」


「そういうことだ。それが面白いから観るんだ」


「趣味悪いですよ」


「そんなことはない。俺はサリーはおバカキャラだと思っているぞ?」


「え?」



 ヨウさんがなんかひどいことを言ったような気がした。



「サリーを無下に追い返さないのは見ていて面白いところがあるからだぞ。まあそれだけではないけどな」



 実際にひどいことを言っていた。



「それは心外です」


「サリーはそうだろうな。ただ俺が言っているおバカキャラというのは常識がないことを言っているわけではない。日本の知識について無知だ、という意味だ」


「そうだとしたら私に限らずこの世界の住人は全員おバカキャラとなりますよ?」


「そうなる。だけどなんだろうな。サリーの反応や返答が特別に面白い」


「うう。なんだか複雑です」



 特別と言われ悪い気はしないけれど、おバカと言われているので拒否もしたい。



「まあそれに普通の常識もあるのかどうかはちょっと怪しいしな」


「そ、そんなことはありません。日本以外の知識はちゃんとあるはずです」


「そうか? それじゃあクイズでもするか?」

 ヨウさんが挑発的に言ってきた。


「いいですよ。受けて立ちます」



 私としても名誉挽回をしなくてはいけない。ここで及び腰になるにはいかない。



「よし、それじゃあいくぞ。第一問……」



 それからヨウさんによるクイズ番組が始まった。

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[良い点] おバカキャラサリーかわいい!
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