私鉄沿線
初めて乗車したのは、高校三年生の、秋。
目指す大学が、私鉄沿線上にあった。
初めて乗る、私鉄沿線は、思いのほか情緒にあふれていた。
路面電車の、車との距離感。
車内の窮屈な空間。
古ぼけた座席と、くたびれたつり革。
車内で切符を買うと、薄いメモ用紙のような切符をもらえた。
初めて乗ったというのに、私はこの電車が、とても、身近なものに思えた。
私は、この電車に、乗り続けるだろう。
そういう、未来の、確信。
ただ漠然と、初めて乗ったというのに、私には確信があった。
受験をし、失敗した。
しかし、私には、確信があった。
私は、必ず、この電車で四年間通うことになる。
未来の記憶が、私に届いたのだと、思った。
再度、受験をすることになった。
合格した。
四年間の通学。
毎日通った、私鉄沿線。
あのときの、確信。
今はなき、私鉄沿線の面影を、まぶたの裏に、思い浮かべる。
線路も駅もなくなった。
あの時通った私鉄沿線の記憶は、私の中に。
記憶は時間を、超越すると、私は思う。
私の記憶に残る私鉄沿線の風景が、高校生の自分に飛んで行ったのだと、信じて、いる。