ヒサカキ様
遅くなりました。
新キャラ登場です。
<ネスク>
真っ白な空間を揺蕩っている。
前後左右上下全ての方向に何もない。
方向感覚すら存在しないような空間。
――そんな中でネスクは目が覚めた。
「俺は確か、ドルイドの人達を治療して‥‥」
そうだ、
魔力維持をソフィアに頼んで眠ったはず、
どうしてこんな所にいるんだろうか。
周りを見渡しても地平線の彼方まで何もない。
一体ここはどこ、なのであろうか...。
ツンツン
背中をつつかれる感触を感じて振り返る。
しかし、誰もいない。
キョロキョロと見渡していると、
ツンツン
後ろを振り返る。
ペチッ
頬に何かが刺さる感触がする。
「!?」
焦って思わず飛び退く。
先程まで背後には誰も居なかった筈なのに、
――少女が立っていた。人差し指を立てている。先程刺さったのはその人差し指のようだ。
「‥‥‥‥‥‥?」
キョトンとしているその少女。
前に会った事があるような不思議な感覚を感じる。
しかし、この少女に見覚えは無い。
「えーっと、君は誰だ。どうしてこんな所にいる。というかここはどこだ?」
「‥‥‥‥‥。」
問い掛けても何も喋らない。
じっくりとこちらを観察しているだけで
何も答えてくれない。
しばらくこちらを観察していると、
「‥‥‥‥‥違う。」
「違う?何が違うんだ?」
碧色の瞳が動じること無くこちらを一点に見つめる。そして、
「‥‥‥はあ、久しぶりに姉様の魔力を感じて呼び出してみれば、やはり姉様は出て来てないようですね。」
何故かため息をつかれる。
そして、いきなり口達者になる。
この会話、何処かの誰かさんを思い出す。
――今仕事を任せている誰かさんを。
「姉様?」
「あなたに言っても多分、
姉様は出てこないと思いますが、一応言います。
姉様を出してくだちゃい!!」
「‥‥‥‥‥」
噛んだ。
多分、舌噛んだな。
見た目が九歳くらいの少女。(一部例外がいるので見た目で判断しないが、)舌を噛んで痛かったのか痛そうにしながら、プルプル震えて目に涙を溜めている。
「えーと、大丈夫か?えーっと、‥‥‥‥名無しちゃん?」
名前を教えてくれないし、
分からないから『名無しちゃん』と呼んでみた。
「誰が名無しちゃんですか!!
私にも立派な名前くらいあるのですよ!!」
プンスカしながらも余程、舌を噛んだのが痛かったのか涙目で怒る名無しちゃん。
見ていて面白い。
若葉色の髪が動く度に揺れる。
ウェーブ掛かった長髪に頭のてっぺんから触覚のように一本だけ伸びている。
その少女の頭が揺れる度に前後に揺れる。
「ちょっと!人が話している時にちゃんと話を聞いてますか!!」
頭上の触覚を見ていると怒られた。
「ん?ああ、悪い。聞いてなかった。で、何だって?」
「ちょっと、何で聞いてないのですか!!!
人が折角名乗ったのに!!!
というか、先ず自分の名前を名乗るのが礼儀と言うものです!!」
それは一理ある。
一応、名乗っておくか。
「俺はネスク、年は一四だ。
『禁書庫の守護者』をやっている。」
「ということは、今の姉様の‥‥‥‥‥。」
ぼそりと何かを呟いたが小さすぎて聞き取りなかった。
「で、君は?」
「もう一度言います。私は『ヒサカキ』です。
神木『ヒサカキ』、それが私です。」
それを聞いた瞬間、我が耳を疑った。
「えっ、神木っていうと、‥‥‥ドルイドの?」
「はい、そうです。」
「俺が今、‥‥‥背もたれにしている?」
「早く退いて下さい。」
それは無理な相談だ。今、神木から離れると恐らく俺、二度と目が覚めなくなってしまうかもしれない。永眠してしまう。
頭をブンブン振って気を取り直す。
「じゃあ姉様というのは?」
「‥‥‥‥‥。」
いや、答えてよ!!
そこまで答えておいて何で最後だけ答えないの?!
ってか、本当に姉様って誰だよ!!
凄いモヤモヤする。
「あなたは一体何をしているのですか?」
座り込んでウンウンと唸っていると、声を掛けられる。
「いや、別に。何も、というか姉様という人物の名前を教えてくれ。姉様だけだと分からなさすぎる。」
手を顎においてヒサカキは困った表情を浮かべる。
「姉様には、‥‥‥‥‥‥‥‥名前が無いのです。」
その答えに頭を捻るしかない。
「名前が無いってどういう事だ?この世に生まれたからには名前くらいあるんじゃないのか?」
「姉様は‥‥‥‥少し事情が事情なので女神様、"セレナ様"から『器名』を預けられていないのです。」
俯くヒサカキに首を傾げる。
「器名を預けられる?」
ヒサカキがコホンッと一咳して答えてくれる。
「私たちは作られた日に女神様から
その物《特有の効果》を持たせる為の意味を込めて器名。
つまり、効力を持った名前を預けられるのです。
――姉様にはそれが無いのです。」
「へえー、器名ねぇ~。ちなみにお前はどんな器名何だ?」
半分は興味で半分は冗談のつもりで聞いてみる。
「私は、『盾』の意味を込めて、
【スクートゥム】です。
ちなみに名前が【ヒサカキ】なのでお前ではなくヒサカキと呼んで下さい。」
「姉様とやらに名前は無いのか?器名じゃなくて。」
ヒサカキは更に俯く。
「‥‥‥‥私の知る限りではありません。
しかし、前のパートナーからは仮の名前として、こう呼ばれていました。
―――『ダンタリアン』と。」