ミレド、事後処理をする
「解除!!」
ミレドの言葉と共に光の粒子が舞い散りゲートが現れる。クレーターのど真ん中に無傷の木製のゲートが立つ。
「これで良いかのう。しかし‥‥‥‥」
自身の格好を見る。折角の服は血塗れ、体中に砂ぼこりと魔物の肉片がまとわり付く。
「汗でベトベト、気持ち悪いのう。水浴びがしたいのじゃ。」
昨日、入った風呂を思い出す。
(風呂という物は気持ちよかったのう。戻ったらまた入りたい物じゃな。)
風呂へと思いを駆り立てながらゲートをくぐり抜けて村へと戻り、宿屋へと歩き出す。
宿屋である巨木の扉を勢いよく開き中に入る。
「戻ったのじゃ~!!皆の者、居るかのう!!」
しかし、元気の良いミレドの声に返す者はいない。部屋の明かりは消えている。
(なんじゃ~。戻っておらぬのか。仕方ないのう。)
ネスク達の魔力を【探知】で探す。
二◯◯m先の東側からクーシェの魔力とポーアの魔力を感じる。
(そこ、かのう。―――しかし、妙じゃのう。二人の魔力は感じるが肝心のアヤツの魔力を感じぬのう。
‥‥‥‥いや、確かにあるのじゃが、これは‥‥‥)
通常のネスクの魔力が馬鹿でかい為、最初こそは見落としていたが小さいがクーシェやポーアの魔力に隠れるように魔力を感じる。
(急ぐかのう。何かあるのじゃと事じゃしのう。)
ミレドは開けた扉を閉じて急ぎ足で外に出る。その足でクーシェやポーアの魔力を目印にして、向かって行く。
ミレドが出ていった部屋の中に二つの緑に発光する球が現れる。
『行ったみたいだね~。』
『そうみたいだね~。』
『あの人達、どう思う~?』
『分かんな~い!』
『おなじ~!』
『でも~』『でも~?』
『悪い人じゃないと~、思う~』
『ねえ~!』
『キャキャキャッ!!』
『ハハハハハッ!!』
そして、光は暗闇に消える。
子供のような声が誰もいない部屋で反響する。
***
「はあ~、疲れた。」
神木の根を背もたれ代わりにして座り込む。
未だに油断は出来ないが、それでも峠は越した筈だ。治療を開始してどれくらい経っているのだろうか?
魔力の残量的に三時間は経過している筈だ。グレープを栄養剤のように食べているため腹は減ってはいないが、それでも蓄積される魔力消費による疲労は否めない。
あれから、
傷口から化膿している患者の二十三人。
全ての治療を行った。全員、何とか化膿部分を切除して、細胞を再生させた。
その後、バジリスクの毒の感染者の手伝いをした。症状の軽い者は書庫で調べた対処法でどうにかなったが、重症者は別だ。
この毒は進めば進む程、体の細胞が高熱と共に石化していく。その症状を解毒をするにはそれ相応の薬品か、解毒の魔法をするしかない。
石化が進んでいた二割が既にその症状が始まっていた。薬を作るための薬草を採って来る余裕がないまでに進んでいたためにネスクとクーシェ、あとポーアと水魔法に精通した部下の方々に魔法の使い方を教えて解毒していく。
今現在、後の事はヘイズさん達に任せて今は神木の側で魔力供給に専念している。
まだヒュドラ毒の患者が残っているが、
それは教えた解毒剤と彼らも医に精通している者なのだからそれくらいは直ぐに出来るだろう。
神木の側だと周りが魔力に満ちているため、供給をしつつ、魔力の回復を行っている。
(ソフィア、魔力供給を維持できるか?)
まだ【自動モード】を発動しているため呼び掛けると直ぐに返事がくる。
『はい、可能です。マスター、どうかされましたか?』
ソフィアの声が返ってくる。
(少し、寝る。‥‥‥疲労で頭痛がする。
今俺が倒れる訳にはいかないからな。
供給維持を任せてもいいか?)
『了解しました。お休みなさいませ、マスター。』
(ああ、お休み。ソフィア)
その通信を最後に意識を深い奥の方に沈む。
*****
<クーシェ>
「ネスク様~!ネスク様~?」
私はネスク様を探して部屋を出る。
ポーア様の話だと隣の神木様の側にいるとの事だった為に部屋を出て巻いて貰っている布を取り声を出す。
今は何とかヒュドラ毒の患者の容態が安定した為にネスク様の状態が気になって探している。
―――探していると神木様の根元に腰を下ろして座っているネスク様の姿を直ぐに見つかる。
近付いて見ると寝息を立てて座っていた。
幼さの残る顔だが、しっかりと落ち着きがあるその顔が目に入る。
「お疲れ様です、ネスク様。」
いつもネスク様がしてくれる様にネスク様の頭を撫でる。
「んん‥‥‥‥ん」
気持ち良さそうに寝ているが表情を緩める。
いつもは、もっと凛々しい顔をするためにその表情を見ていると思わずそのギャップに笑みを溢してしてしまう。
「ふふふっ」
そして自分もネスク様の横に腰掛けると不思議と睡魔が襲ってくる。
そのまま、自分も意識を委ねる。