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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
2章 亜人連合国騒乱編
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顛末

  ガチャリと戸の鍵が外れる音がする。ガラガラと扉を開き、中に入る。


「ここが、大朏君がいた教室よ。」


  頭上の教室の表記によると、

――『2-C』と書いてあった。

「ちなみに私は、『2-D』。"TKコンビ"が『2-B』だよ。」


「へえー、皆、バラバラ何だね。連絡、取り合ったりしてるの?」


「たまにだけど、ここ一年、取って無かった、かな。けど、顔を合わせた時はよく、最近のことは話してたよ。」

  TKコンビは、今、ここに居ない兄さんの友達でよく昔は一緒に遊んだ二人。

鷹野 好太郎さんと高原 孝希さんである。

 二人のイニシャルがTとKから私達は

二人を"TKコンビ"と呼んでいた。


「あそこが大朏君の席だよ。」


  奥の窓際の席を指差す。

 そこには机の上に花瓶が置かれている。

 夏休みということもあり、誰も世話をしないせいで花は枯れている。


 まるでそこだけ別の空間のようにポツリと机と椅子、そして花瓶が置かれている。


  席と席の間を抜けて、その先へと近付いていく。


(ここが、兄さんの席‥‥‥‥‥)


 席の前に立ち、席を見下ろす。

そして、ふと気付いた。


(‥‥‥‥ん?この跡‥‥‥)


  花瓶の置かれた席を見ていて、

気付いたが何かの跡が見える。

 そこに書かれていた物を必死に消したような跡。

 確かに綺麗に消してはいるが、書いた物が濃すぎて少しだけ残っている。


(シ‥‥‥ネ?)

 そう見える。確証は無いが、確かにその跡はそう見える。椅子を引いてみる。


――何かを剥がした跡がある。

 椅子の木の部分が削れ、塗装加工してある部分の殆んどが加工前のように抉れている。


「ナナミン、ちょっといい?」

  手招きすると、後からナナミンがやって来る。

「どうかしたの?」


「こ、れ‥‥‥‥何?」

  見つけた物を指差しながらナナミンへと聞く。


「‥‥‥‥‥‥‥」

  何も言わない。


「ねえ、ナナミン。何か言って。

 ――お願い、何か答えて。」


「実はね‥‥‥‥‥‥」


  ナナミンの話を聞いて思わず絶句。


  兄さんはいじめられていたらしい。

 その事に教師達が認知したのが丁度、



兄さんが火事で死んだあの日の次の朝らしい。


  その日は警察が来ると、連絡があったため、担任の教師が早めに教室に向かったそうだ。

教室に入ると、

クラスメート数名が兄さんの席で何かしていたそうだ。

  近寄ってみると席に書いた落書きを必死に落としていた。そして、椅子には画鋲をボンドか何かで大量に貼り付けられていた。

 それを知った教師は彼らを激怒し、彼らを問い詰めた。


―――そして、今までの事が明かされた。


  兄さんへの罵詈雑言、恐喝、暴行、更に盗難など、数を挙げれば切りがない。


  それらを行った人物が五人。

そしてクラス全体がそれらを見て見ぬ振り。


「‥‥‥‥‥‥‥。」

  何も言えない。

 その犯行に頭の中は怒りで爆発しそうになる。


「その人達、……転校したそうよ。事が事だけに学校側も問題にしたくは無かったそうだけど、結局は彼らの親御さんが決めたそうなの。」


  ナナミンは終始、俯いたままである。

しかし、体が震えている。


  外を見るとパラパラと雨が降り出していた。どうやら、通り雨であろう。

 この時期にしては珍しい。

先程まで晴れていた天気も曇り暗くなる。


「‥‥‥‥そう」


「‥‥‥ごめんなさい。私がもっと早く気付いてあげていれば――」

  瞳から涙が溢れそうになっている。


「ナナミンのせいじゃないよ。

それに悪いのは彼らだし、ね。

 兄さんの死は彼らが原因じゃなくて、放火魔の放火が原因。彼らを恨んでも兄さんが帰ってくる事は無いし。」


  ナナミンの涙を見て、爆発寸前の怒りが引っ込む。自分でも驚くほど冷静で冴えた頭になる。

――天井を見上げる。何も無い空間。

でも、兄さんの顔が映る。


「ナナミンは‥‥‥‥さあ、‥‥‥兄さんから相談とかされてた?」


「えっ?」


 ナナミンが俯いた顔を上げてこっちを見る。その目には今にも涙が溢れ落ちそう。

言葉が出ないのか頭をブンブンと横に振る。


「やっぱりか。あのバカ兄、自分のことなんだから、少しは相談くらいしてよ。」


「サヨちゃん、どういうこと?」

  ナナミンに話そうかどうか悩む。

 けど、このままだと優しいナナミンのことだからずっと、後悔し続ける。


 しばらく考えた末、

――話すことにした。


「兄さん。

余裕が無かったこともあるかもしれないけど、ナナミンに心配させたくなかったんだと、思う。兄さんもナナミンのことは知っていた筈だからね。もちろん、生徒会のことも。」

 恵はそこでハッとする。


「生徒会がどういった事をしてたのかは知らなかっただろうけど、それでもナナミンが負担になる事はしたくなかったんじゃないかな。」


「うう、‥‥‥‥う」

  ずっとナナミンと一緒にいた訳では無いため分からないが、葬式でも彼女の泣く姿は見ていなかったため彼女が泣く姿は久々。


  ナナミンが泣き止むまで彼女の傍で頭を撫でてあげる。

――かつて、兄さんが彼女にしていたように。


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