心と命
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
黙々と二人でアイテムポーチの中に入れていた物から作った簡単なご飯を食べている。
ポーアが戻っていった後、
―――腹の空き具合から飯にしたのだ。
村は太陽が差さないため今が何時なのかわからない。そのため、腹の空き具合で判断するしか出来ないというのもあるからだ。
作る最中も、クーシェは一度も話さない。
元々、クーシェはあまりお喋りをする方ではないが、少しも話さないということは……、
―――これまで一緒に暮らしてきた中では
怒っている時か、
不機嫌な時くらいの物である。
ネスクはクーシェの尻尾へと視線を送る。
ゆらゆらと左右に揺れ、通常の太さより太い。
(何か機嫌を損ねることでもしたかな。)
作ったご飯をパクパクと食べながら考える。
思い浮かぶことは、ただ一つ、
魔法で男達をやり過ぎて倒したくらいである。
「クー?」
スプーンを置き、口の中の物を呑み込んで話し掛ける。
「‥‥‥‥何でしょうか、ネスク様。」
持っているスプーンを動かしながらクーシェは聞く。その表情は無表情。
「えーと、その、さっきの事だけど、」
「さっきの事と言いますと?」
スプーンでスープを掬い口の中に入れて飲む。
「―――魔法でやり過ぎたことだ。
アレは俺もやり過ぎたと思う。反省している。だから、機嫌を直してくれないか?」
動かしていたスプーンの動きが止まる。
「‥‥‥‥‥そのことでしたら、
別に気にしておりません。
確かに少々やり過ぎかと思いますが、あの方々はネスク様を殺しにきていたのですからあれで済んだのは丁度良いかと思います。
いえ、むしろあの程度で済んだのは足りないくらいです。」
クーシェのスプーンを持っている方の手に力が入っている。
「私が怒っているのは先程、ポーア様に言った言葉です。」
「言葉?」
「先程、ネスク様は『あれぐらいでやられるようでは所詮、自分の命はその程度だった』と仰いましたよね?」
「‥‥‥‥‥」
「ご自分の命を軽はずみな言葉で片付けないで下さい!!
邪龍様との戦いでもそうでしたが、
私はネスク様が何日も目を覚まさなかった時
―――このまま目を覚まさないのでは。
と気がきで眠れませんでした!」
クーシェの力に堪えきれず、
―――スプーンがグニャリと変形する。
そして、その言葉でネスクも気付いた。
「残された者がどんな気持ちになるのかもう少し考えて下さい。」
頬を伝い彼女の瞳から涙が零れ出る。
(俺は馬鹿かっ!!自分もその気持ちを味わった筈なのにどうして忘れていたんだ!!クーがどれ程、俺の命を大切に思っていたのか!!)
バシンッ!!
両手でおもいっきり自分の頬をひっぱたく。
クーシェがビクッと驚き目を見開くる。ネスクはクーシェからながれる涙を指で拭いてあげる。
「‥‥‥悪い。言葉に気を付けるべきだった。これからはもっと言葉を選んで話すよ。」
「はい。ご自分の命はもうネスク様だけの物ではありませんのでその事は常に頭の隅に置いてください。」
雨上がりに照らされる花のようにクーシェはネスクに微笑む。
その表情を見た瞬間、ネスクの顔がトマトの様に真っ赤になる。
(ヤバい、可愛い過ぎる。)
口を押さえて言葉が漏れ出ないように後ろへと向く。元々、純真で可愛いかったことも合間って更に可愛く見えてしまう。
可愛い+涙+微笑み=凄い破壊力
ネスクの頭の中で、
変な公式が出来上がってしまう。
「ネスク様?どうしたんですか?」
「い、いや、何でもない。気にするな。」
ネスクは気持ちを抑えながらそう答える。
(‥‥‥‥すう、‥‥‥はあ、これは思春期によくある自意識過剰だ。だからクーが微笑みかけてもそれはいつも通りのことだ。大丈夫、何も考えるな。心頭滅却、心頭滅却)
十四歳という年を心の中で考えて深呼吸をして目を閉じ自制する。
「大丈夫ですか?本当に。」
クーシェが心配そうに話し掛けてくる。
「ああ、大丈夫だ。」
どうにか平常運転に戻してクーシェへと返事する。
ガチャリと扉が開く。疲れているが聞き覚えのある声が聞こえる。
「‥‥‥‥‥戻ったのじゃ。」
再びポーアを引き連れてミレドが入って来る姿が目に入る。
「戻りました。」
最後に入ったポーアが扉を閉める。
「お帰り」
「お帰りなさい」
二人へと声を掛ける。
よほど疲れていたのか空いている席に座るとテーブルにうつ伏せになる。
「――――疲れたのじゃ。」
ミレドがおっさん染みた口調で言う。
クーシェはミレドのご飯の準備をする。
「お疲れさん。で、現状はわかったのか?」
ネスク自身一番気にかけていることを早速聞いてみる。
今回はクーシェの回でした。
心優しく、純粋な獣の少女。過去に大切な家族を人間に奪われながらも健気に尽くす姿は次第にネスクの心の拠り所となりつつあります。