凶器のデコピン
襲い来る男の剣を捌いていく。
右、左、斜め、横、下、右と様々な角度から襲って来る。
「彼の者の動きを封じその動きを束縛せよ【枷】!!」
「!!」
足が何かに束縛されて動けない。見ると地面から植物が伸びて足に絡み付きその場に固定している。
「死ねぇ!!」
男が剣を振る。
(やれやれ、あまり人に魔法を使いたくないが。‥‥‥‥そうも言ってられないな)
心中でため息をして手に魔力を集中させる。
(薄く、鋭く、けど、流し過ぎない。)
魔力を制御しながら手刀の様に指を揃えて隙間を開けずに揃える。迫る剣へと手を出す。
カンッ!!
剣がネスクの手刀に触れた所からポッキリと折れて宙を舞い、後ろの地面に刺さる。
手刀とは別の方に魔力を集中させて移動させて拳にして男の腹へ一撃。
「馬鹿、な。」
後ろの立ち上がろうとする男の上へその男を投げる。
「ふげっ!!」
下の男が悲鳴を上げて二人共動かなくなる。
「な、なんで人間ごときが剣を真っ二つに出来るんだよ!!アイツ、まま、魔法も何もしてなかったぞ!ば、化け物!!」
【枷】を発動させた男が狼狽えながら後ずさりする。
(いや、魔法は発動させたんだが。アイツら何、言っているんだ?)
頭に疑問符が浮かぶ。
確かにこの時、ネスクは魔法を発動させた。
しかし、これは魔力を体に纏わせて強化する付与魔法の応用。
付与魔法は元々、魔力を体中に流し魔力で全身を覆いそこにイメージした現象、
―――例えば炎をイメージしたならそのイメージ通りに魔力が具現化して現す魔法。
無色の物に脚色してその色を出すような物。魔力制御を行えるようになった今のネスクは呼称、詠唱をせずにこの強化を行うことが可能となったのだ。
「くそっ!!こんなったら!!」
逃げる男を制すること無く、傾げているネスクへと尻餅を付いていた男が手を翳す。
「人を喰らい栄養とする者、彼の者を喰らい汝の欲する欲望を喰らい尽くさん【人喰い植物】」
その男の手から小さな種のような物が現れて急に成長して無数の鋭い歯を持つ植物へと変化する。
「いけっ!!"人喰い植物"、骨も残さずそいつを喰らえ!!!」
巨大な赤い花のような形で無数の鋭い歯を持つ植物がネスクへと迫る。
足に絡み付く蔦を再び手刀の形に手を変えて切る。
「――ふう、全く。少しは他人の事を考えろよ!!」
後ろに転がる二人を横目で見ながら、思わずため息を出してしまう。このまま避ければ恐らく後ろの二人が喰われる。
そうなっては、せっかく絶命させないように気を付けた自分の苦労が沫となる。
「生け捕りの方が難しいとはこの事か。あっ、でも別に生け捕りにするわけではないか。」
ネスクはぼやく。
目前まで迫りつつある"人喰い植物"などそこに無いかのように。
「【纏い・迦楼羅】」
ネスクの身体が植物に埋もれる。
「は、はははは!!やった!生意気な人間を一人やってやった!!ははは!!ざまあ、見やがれ!!人間!!俺達、ドルイドに手を挙げるからこうなるんだ!!」
男の笑いが広場を反響する。その声に気付いたドルイドの住民達が徐々に集まって来ていた。
「ははは!はっ?」
男の笑いが疑問へと変わり、更に表情が固まっていく。
"人喰い植物"から青い焔が出始めたからだ。そして、植物が苦しむかのように暴れ転がり始める。まるで地面に上がった魚のようにのたうちまわる。
そして、青い焔の柱となり、その植物を包み跡形も無く、燃やし尽くす。
「ふう、さすがにこの魔法はキツイ。一回でかなりの魔力を使うから更に制御が必要だな。けど、これ、制御が難しい。もっと制御の訓練が必要だな。」
炎の柱からネスクが現れる。男はポカーンと口を開き閉じることが出来ないでいる。
周りの人々もガヤガヤと騒ぎ始める。
「さて、また突っ掛かれるのも面倒だから。ここで一発」
ネスクが男へと踏み込む。その速さに反応できずに間抜けな顔のまま男の額に中指を親指で押さえたポーズをとり魔力を込める。
「【指鉄砲】」
バキューン!!!
銃で撃たれたような音と共に男が後ろにぶっ飛び地面に倒れる。
白目を剥き、泡を吹いて男は気絶している。倒れた男の額には湯気が上がり、更に痛々しい跡が残されていた。
「魔力を込めてデコピンをやったら、こうなるのか。………マジか。」
魔力を込めたデコピンの威力に思わず引く。自分でしておいて何だがここまで強力な物になるとはネスク自身、思ってなかったのである。
「これは一体、何事でいらっしゃいますか!!」
人混みを掻き分けて誰かが叫びやって来る。声の方を見ると会議をしている筈のポーア達であった。
【茨の枷】と【枷】の違いですが、【茨の枷】はその名の通り、束縛する枷が薔薇の刺の有る蔓で出来ていて此方は束縛するだけでなく、刺で相手に傷を付ける魔法です。【枷】は蔓で束縛するだけの魔法で此方の方が生け捕りにする場合などには適していて魔力消費も【茨の枷】の2分の1です。