ようこそ『ケシド』へ
「「【探知】」」
ネスクとミレドが【探知】を使い、
広範囲の魔力反応を確認する。
「敵反応は‥‥‥‥無しじゃな。これだけかのう?」
「ああ、恐らくな。けど、まだ何があるか分からないから皆、気を抜くなよ。」
皆が周りを見回して警戒を強める。
ポーアが先程ミレドが倒した氷漬けの一角狼へと近づき観察する。
「おかしいです。四ヶ月前はこのような魔物はこのドルイドの森にはいなかったはずです。この数ヵ月に一体何が‥‥‥。」
その時、
氷漬けの一角狼の氷がひび割れて砕ける。
ガルルルルル!!!
氷の中で氷漬けになっていた一角狼がポーアへと牙をむく。
ネスクはポーアの方へと手を翳す。しかし、
(くっ、間に合わない。それにポーアにも当たる!!くそっ!!)
魔法で間に合わないと判断したネスクはポーアへと翳した手を伸ばすも後、一歩届かない。
「ポーア!!」「ポーア様!!」
二人の悲痛な声が森を木霊する。
その場の全員が諦めかけた時、
どこからともなく伸びてきた蔓が一角狼の体を絡めとる。
一角狼は必死にその蔓を噛み切ろうとするも何重もの蔓が体に絡み付き、蔓でぐるぐる巻きにしてしまう。
ネスクは蔓が狼を絡め取ったことで後ろから地面に倒れるポーアの体を受け止め、ゆっくり地面に下ろし庇うような姿勢で蔓に巻かれた狼の向き合う。狼は巻き上げられ宙に浮き身動きが取れないでいる。
「なっ!!一体何が‥‥‥。」
その光景に驚いているとクーシェとミレドが駆け寄ってくる。寄ってくると腰を下ろしたポーアにクーシェは抱き付く。
「油断しておった。魔力が消えておったからてっきり死んでおるものじゃと思っておった。‥‥‥で、何が起こったのじゃ。
ネスク、おぬしの魔法か?」
自身の油断を反省しながらミレドは、
目の前の現象について説明を求めてくる。
「いや、俺じゃない。そもそも魔法自体あの時は間に合わなかった。」
記憶を辿りながら考えるも、
魔法を誰かが発動させる素振りを見ていない。ポーアも咄嗟のことに驚き固まっているだけであった。
「なら、一体誰が‥‥。近くには魔力の反応は無かったしのう。」
巻かれる一角狼を見上げながら、ミレドとネスクは目の前で起こっている現象について考察する。
「あれは恐らくお兄様の仕業です。」
クーシェに手を借り起き上がったポーアが話す。
「この魔力の残留、お兄様の物です。」
「近くに魔力の反応が無いようじゃが、一体どこからなのじゃ?」
「この先からです。付いてきてください。」
ポーアが先導しながら先へと進む。巨木の根を足場にどんどん進んでいく。
巻き取られた狼は四人の姿が見えなくなった辺りでトマトを潰すかのような要領で蔓が小さく締め上げる。蔓と蔓の間から狼の血が流れ出る。
そして、数時間後、
魔物に会うこと無く順調に進んでいる。
ポーアが足を止めて後ろに振り返る。
「ここが私達、ドルイドの村、‥‥というより、隠れ里、でしょうか。その入り口です。」
二つの周り木より小さな若木が左右対称に並び互いの枝と枝がしめ縄のように巻き付いた木がポーアの後ろにそびえ立っている。
「これが、そうなのか?」
「はい、木と木の間には結界が張られております。特定の人物で無いと入れない仕組みとなっています。」
「では私達は入れないのでは?」
「その事でしたら心配無用です。お兄様は先程の件で恐らく見ていた筈でしょうから。では、皆様、こちらへ」
ポーアに施されるまま、木の前へと行き、木の間を恐る恐る手を出しながら進む。
手に何かが触れると空間がずれるような現象が起こる。それは結界とその外との境界である。この現象は結界特有である。
そのまま、ネスクは歪む空間へと入る。景色が一変する。
薄暗い森だった筈が目の前の巨木には中から光が漏れ出ている。そして、木の周辺にも光る何かがいる。ファンタジーな世界がネスクの前に広がっている。
「‥‥‥‥‥‥私達、ドルイド族は木を棲みかにしてます。この先の巨木は全て『家』となっております。ここでは、人族のように木を加工して家を作る方は稀です。」
後方から声が掛かる。振り返ると三人が結界の境界から入ってきていた。ポーアが先にいたネスクの前へ進み出て振り返る。
「ようこそ、ドルイド族の隠れ里もとい村『ケシド』へ」
ようやく村に到着!!
村でゆっくりしたい、と言いたい所ですが、
次回もまた一悶着有りです。
聖域を飛び出しての初めての旅?は波乱万丈です。