ドルイドの森にて
ポーアに言われた通りに魔方陣の中心へと足を運ぶ。
「これで良いのか?」
クーシェ、ネスク、ミレドが魔方陣の中心に固まる。残りのポーアはまだ円の外にいる。
「はい、大丈夫です。そのまま円の中においでください。」
ポーアが小型の折り畳みナイフを取り出し指を切る。血が切った所から溢れ出る。
その血を一滴円に垂らす。
「【ЖρшДφЙшршДφЙλγρЦмлсанШЩкЧ(我が血において求む】」
ドルイドの言葉で言い放つと、
魔方陣が光る。
ポーアも中に入り皆と同じ所に立つ。
「【φЗлЙусλДЮбДφρшЙаруЩ(我らの根源たる源へ我らを還したもう】」
光が魔方陣の円に沿って壁のように
天へと放たれ、カーテンの様に
ネスク達を取り囲む。
「おおっ!!」
その光景に思わず声が漏れた。
「【ЩЖЙ(エキザカム)!!】」
包んでいた光が蔦のような植物に覆われていく。薄紫の小さな花が咲いていく。
数多の花に覆われ尽くすとその花が枯れて枯れた所からふわふわとした光の綿のような物が出来上がる。
「‥‥‥綺麗」
クーシェがポツリと呟く。
「そうじゃな。じゃが、どこか儚げじゃ。」
ネスクもミレドに共感する。
「ドルイドの秘術、【エキザカム】です。紫の花を咲かせる花の名前でございます。意味は『帰還』でございます。」
ポーアが先程の魔法について説明してくれる。
「私達ドルイド族は、
――全ての根源たる魔力は
植物の根で繋がっている
という考え方を持っております。
その考えを反映させて作られた魔法がこの魔法です。この魔法は植物が生息している場所であれば移動することが可能となる魔法です。」
「【転移】のようなものじゃな。」
ミレドが聞き慣れない魔法の名前を口にしたためネスクは聞き返す。
「【転移】?」
その問いにミレドは答える。
「【転移】とは一度訪れた場所であればどんな場所でも一瞬で移動することが可能となる魔法じゃ。これは女神様がお教えくださった古代魔法の一つじゃ。」
「仰る通りです。これは代々私の家に伝わる古代魔法でして、ドルイド族なりに【転移】を使いやすく改良させた物です。」
その二人の会話で理解した。
ドルイド族は植物と共に生きる種族。
植物を魔法で操り、森を育てる。
彼らが森の住人と呼ばれる由縁もそこにある。
植物に関連付けた魔法の方が彼らドルイド族にとっては扱いやすかったのであろう。
「‥‥ところでこの植物から出来ている綿は何だ?」
俺が光る綿のような物に触れると綿は弾けて散り散りに飛び散る。
「それは私の血に刻まれたドルイド族の村、『ケシド』の記憶の欠片の集まりでございます。」
「記憶の欠片?」
「はい。この魔法は【転移】と同じく一度行った場所を私の血から、あと、魔法を掛けた時の思いから魔方陣が読み取り発動します。発動してしまうと媒介にした血の記憶が消えて無くなります。」
「へぇー、そうなんだ。」
綿を見つめながら何気ない言葉を返す。
「クーシェ様はご自分の家に伝わる魔法か何かはお持ちで無いのでしょうか?」
ポーアはクーシェへと話を振る。
この一ヶ月の間に
いつの間にか二人は仲良くなっていた。
女の子同士だから話が弾むのだろうなと思う。
「私、ですか?いえ、私は幼い頃に両親を二人とも亡くしてしまったのでそういった物は伝えられておりません。」
「そうだったのでしたか。辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません。」
ポーアは申し訳なさそうに頭を下げる。
「あ、いえ、そんな事ないですよ。そもそも私自身小さかったのであまり覚えていません。でも、もしそんな魔法があるのでしたらもっと知っておきたかったです。そうすればもっと皆さんのお役に立てたのに。」
クーシェは顔を下げる。
「今でも充分じゃ。妾やネスクだけじゃと今のように美味しい飯を食えなんだろうしのう。」
「それ、ミレドが言うか?!最初の時なんか肉を生で食べようとしてただろ。」
「おぬしも最初の頃はロクに焼けなんだであろう?!生焼けの状態の肉を何度食わされたことじゃ!!」
「何をっ!!」
「何じゃとっ!!」
「まあまあ、お二方その辺で、そろそろ到着致します。」
ポーアが二人の間に入り二人を諌める横でクーシェは微笑み笑いを浮かべる。
どうやら元気が戻ってきたようである。
―――そして、景色が変わる。
蔦が地面へと引っ込んでいく。最初の光のカーテンが徐々に開けて消えていく。
「ここが、ドルイドの村か?」
ネスクは周りを見渡す。うっそうと木がそびえ立ち太陽の光が射し込まない。
「ふむ、何というか。あまり聖域と変わらないのう。」
「いえ、聖域と違います。樹木の一つ一つが巨木ですし、何より風の音が違います。」
「風の音?」
「はい、聖域は風が木の間を通り抜ける音が聞こえてましたがここは何といいますか、湿った空気が静かに流れるといった感じでしょうか。」
「?」
首を傾げてしまう。
五感の良いクーシェのみが分かる感覚なのであろう恐らくは。人間の自分には分からない感覚である。
しかし、ここが聖域と違うことは分かる。理由は周りの魔力である。聖域と違い空気中の魔力の濃度が薄い。その事は魔力に敏感なネスクだからこそわかる。
「ネスク、気付いておるか?」
ミレドが小声で言う。
「‥‥‥ああ、八、いや九か。囲まれてるな。」
「油断するんじゃないぞ。」
「分かってるよ。」
そして、反応が二つ急速に近づいてくる。
「ポーア!!クーシェ!!頭を下げよ!!」
ポーアとクーシェはミレドの言葉を聞くと頭を地面へと下げる。
「【凍てつく槍】」
氷の槍が二人が頭を下げると同時に放たれ、ソレを捉える。空中で氷付けになる。
見た目は狼であるが額にドリルのように旋回線のある角がある。
「『一角狼』じゃな。」
一角狼
額に一本の角を生やした狼。
鋭い角で獲物を貫き絶命した後に引き抜いて食べる魔物。
ネスクは反対側から襲い来るもう一つの反応へと魔法を掛ける。
「【重力加重】」
飛び掛かってきた一角狼が地面に押し潰されたかのような姿勢で落下。
地面にめり込み絶命した。
「他は様子見といった所じゃな。
こいつらは先行であろうのう。
――さて、どうするかのう。コイツらが倒されたことで奴ら相当警戒しておる筈じゃ。このまま逃げてくれれば良いのじゃが‥‥。」
警戒を緩めず構えていると魔力の反応があった箇所で動きを見せる。
そして、何かが飛来する。
「っ!危ない!!【防御】!!」
無詠唱でクーシェが【防御】を発動させる。
ネスクの後方から大きな岩の尖った物が飛来し、【防御】の壁に当たり砕け散った。
「どうやら、奴ら。
近距離は危険と判断して遠距離から魔法を仕掛けるようじゃな。厄介じゃのう。」
魔力の反応が動き回っている。
そして再び飛来する。
クーシェの発動している【防御】によって岩は防がれているがあまり長くは持たない。
「クーシェ様、もう少し持ちこたえてください。」
ポーアが地面に手を付き目を閉じる。
ポーアの手に植物が絡み付く。
「うっ、まだなのでしょうか。もう、持ちません!」
【防御】で次々に降り注ぐ岩をクーシェが持たせているが、
―――亀裂が入り徐々に大きくなっていく。
「汝、我が力を用いて彼の者を捕えん。【茨の枷】」
【防御】がパリンと割れると同時に動き回っていた魔力の反応が停止した。
「きゃっ!!」
「ミレド様、ネスク様!!今です!!」
魔法の崩壊で倒れるクーシェを支える姿勢でポーアが言う。
「ああ!!」「うむ!!」
後方と前方にそれぞれに構える。
「標的固定【凍てつく槍】発動じゃ!!」
ミレドが前方の三体分の氷の槍をミレドの頭上に展開する。
「【聖雷】」
ネスクの周りに白い雷が発生。
弓を引くような姿勢を取る。すると、左手に雷の弓、構えている右手に光の矢が出来上がる。
「標的確認、‥‥‥‥魔力出力、安定、‥‥‥凝縮、更に圧縮」
光の矢の輝きが構えている左の人差し指辺りに集中する。
しかし、そこで魔力に揺らぎが生じる。ネスクはそこで口の端を噛む。
(くっ、今はこれが限界か‥‥‥。)
ネスクはそこで魔力の縮小、圧縮化を止める。これ以上すると暴発してしまうからだ。
二人共の魔法がほぼ同時に放たれる。
ミレドの放った氷の槍が各魔力位置へと飛来していく。障害物を縫うように避ける。
魔力の反応が三つ同時に消失する。
ネスクの右手が矢から放される。
スパンッ!!という音と共に番えていた矢が目に見えない速度で四つの方向に別れてネスクの前方に飛んでいく。
放った前方の木には焦げたような小さな穴が四ヶ所の木に同じ跡を付ける。
焦げた木の先にある魔力が四つ消失した。
「【鳴雷・光の矢】」
ネスクのポツリとした声のみを残して前方の敵が全て消え失せた。
今まで書いた話の中で一番長くなりましたがここまでにします。
初めてのチームプレイを書いて見ました。
ネスクとミレドのコンビは前の話で書きましたが四人は初めてです。防御をクーシェ、ポーアが足止め、そしてネスクとミレドが攻撃。このチーム意外に良いチームかもしれません。
次回は出来次第上げて行きます。楽しみにお待ち下さい。