蜜蜜柑ジュースと仲直り
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
二人の間に気まずい空気が流れる。
今現在、ポーアとネスクは家の中で二人だけで取り残されている。
ミレドとクーシェはいない。気まずい空間が二人を取り囲んでいる状態。
どうしてこうなったかというと少し遡る。
*****
ミレドの後ろにくっ付いて家の中へ。
もう既に、日も西の空に沈み掛けている。
「戻ったのじゃ!クーシェ、そっちはどうなったのじゃ?」
「お帰りなさい。ミレド様!こちらも何とかですね、ポーア様。」
「は、はい。お騒がせ致しました。」
椅子に座っている二人が入ってくるミレドとネスクをお出迎える。
「うむ、良い良い。さて、夕食にするかのう。」
「はい、そうですね。あっ。」
「どうしたんじゃ?クーシェよ。」
クーシェが口を押さえて固まってしまう。
「あ、いえ、夕食にしたいのは山々なのですが、‥‥その、ポーア様が全部粉々に切ってしまったので、食材が無いんです。」
「なんと!!それは死活問題ではないか!
仕方がない、クーシェ、妾と取りに行くとするかのう。」
「じゃあ、俺も。」
「おぬしはポーアとここにおれ。
い・い・な、これは絶対じゃぞ?」
ミレドが俺ににっこり微笑む。その表情を見て背筋に悪寒が走る。
「あ、ああ。‥‥‥‥分かった。」
「クーシェ!!準備したら行くぞ!!」
「はい!!少々お待ち下さい!!」
クーシェは二階へと荷物を取りに行く為に椅子から立ち上がる。ポーアの横を通り抜ける時、クーシェは耳元でこそっと囁く。
(‥‥‥‥頑張ってください。)
ネスクには聞こえない音量でポーアにエールを送る。そしてクーシェは二階に荷物を取りに行った。
「それじゃ、行ってくるのう。いいな!ネスク、ちゃんと話すんじゃぞ?」
そう言い残してミレドは扉から出ていった。
その後に、クーシェも扉を開けて出ていく。
「それでは行って参ります。」
****
そして、現在に戻る。
(えーと、どうしよう。何か、無いかな?)
気まずい空間にネスクは耐えきれず、キッチンへと入る。
キッチンに置いてある棚には密蜜柑が数個あるだけでやはり何も無い。
(蜜蜜柑か。なら、それならあれを作るか。)
蜜蜜柑を手に持つ。
そして、魔力をコントロールしながら、
「【切断】」
シャキッ!!!
蜜蜜柑が手の上で皮だけが紐状に連なり切れる。
綺麗に切れた蜜蜜柑を鉄のコップに入るように千切り入れる。
コップに手を翳して放つ。
「【重力加重】」
そしてコップの中のみに魔法が掛かる。
一ヶ月前のネスクであれば、ここまで緻密な魔法コントロールは出来なかった。その成果がこんな所で役立つとは、自身も思いもしなかった。
コップの中に果汁が溜まり出来上がる。それを今ある蜜蜜柑を全部使い絞る。
それを二杯分作り両手に持ち戻る。
「ポーア、良ければ‥‥だけど。」
片方の器をポーアへと渡すと、ポーアは受け取り中を確認する。
「・・・・・・これは何ですか?」
「蜜蜜柑を絞って作った蜜蜜柑ジュースだよ。口に合えばだけど。」
不思議そうに思い頭に?マークを浮かべながらポーアは一口ごくっと飲む。
「‥‥‥‥おいしい。
蜜蜜柑の甘酸っぱく爽やかな味、
味に残る爽やかな香りと蜜蜜柑の甘い香りが癖になります。」
ネスクも一口飲む。
「‥‥うん、上手くいって良かった。」
今残っているもののわりに上手くいったことにネスクは満足する。
「おかわりありますか?」
「はやっ!!」
ネスクが味を確認しながら味わっているとポーアはいつの間にか全部飲み干していた。
「とても美味しかったのでつい全部飲んでしまいました。」
「そうなんだ。でも申し訳ないんだけど材料が無いから今回はこれしかないんだ。」
「・・・・・・そうなのですね。残念です。」
しょぼんとするポーアに申し訳なさがネスクの中を駆け回る。
「また作って上げるよ。材料がある時に。」
「これもわたくしが今朝に無駄をしなければ。」
「いや、元はといえば俺が昨日あんなことしなければ良かった。」
「いえいえ、あれは私が覗いてしまったのが。」
「いやいや、俺が扉に鍵を付けていれば。」
「フフフッ」
「ハハハッ」
「何だか可笑しいですね。二人して」
「そうだな。可笑しい。」
お互いがお互いを責めることに思わず二人して可笑しくて笑ってしまう。
「‥‥‥‥また、作ってくれますか?」
こくりっ。
材料切れが惜しいところであるが、
簡単すぎるため、材料さえあればいつでも作れる。
「ああ、材料があったらその内に。
今度は二人がいる時にでも作るよ。」
「そうですね。あっ、私が何か摘まめる物でも作りましょうか?」
「そうだな。それなら頼もうかな。」
「・・・・・・それで、その、昨日はえーと、その裸でいらっしゃったのでしょうか?」
ポーアは頬を少し赤らめる。
「せっかく、先に進んだのに話が戻るんだな。」
頬を掻きながらネスクはポーアに言う。
「だって、気になることでしたから。」
湯浴みについてを分かるように説明した。
その説明をポーアは終始興味深そうに真剣に聞いていた。
「そうだったんですか。‥‥その、湯浴み?とは、少し興味があります。よろしければ、
私にも入らせて下さいませんか?」
「まだ、試作途中だから、完成したらで良い?」
「はい!!是非!!」
やっぱり女の子だから興味があるんだなと思うのであった。
そして某アニメを思い浮かべる。猫型ロボットと眼鏡の少年が少女の入浴を邪魔して桶や石鹸を投げつけられるシーンが頭を過る。
(ああならないように気を付けよう。
あっ、でもその逆は起こってしまったんだった。)
ポーアがニコニコと嬉々としている横で今回のことを沁々と反省していると扉が開く。
「戻ったのじゃ!!どうじゃ?進展したかのう。」
ミレドの元気な声が家の中に響く。
「ただいま戻りました。」
ミレドとクーシェが帰って来た。
―――意外に早い帰還であった。
「さて、戻ったことじゃから夕食にするかのう!!」
ミレドが張り切っている。
よほど腹が減っているのであろうな。
既に日も沈み星明かりが夜闇を照らしていた。