日常その2
「「お帰りなさい(ませ)」」
扉を開けて入ると、
台所にいるポーアとクーシェが朝飯の準備を
しながらそう言ってくれた。
クーシェは、コンロのような形をしている道具で肉を焼き、ポーアは包丁を使い果物を切っている。
――すると、
クーシェが肉を焼く良い匂いが香る。
魔コンロ
魔力をコンロ内にある丸い魔結晶<ラクリマ>に注ぐことで物を温めたり、焼いたりさせることが出来る。
ネスクがこの一ヶ月で作り上げた魔道具である。
手元のひねりで火の調整を行う。
魔結晶<ラクリマ>
魔素の濃度が高い所で魔素が結晶化した物。
触れると魔力が吸収され水晶内に魔力を溜める水晶。魔力が溜まっていると発光し、洞窟内にいても昼のように明るい光を放つ。
ネスクが最初にいた洞窟にあった物がソレである。
ぐ~~~っ!!
匂いに吊られてネスクのお腹が鳴る。
「ふふっ。……もう少し待って下さい。」
クーシェがフライパンの上で、肉をひっくり返す。
ポーアは切った果物を鉄の皿に盛り付けていく。ちなみに、この果物は『蜜蜜柑』である。
蜜蜜柑<ハニーオレンジ>
甘い香りを放つ特徴を持つ果物である。前世の世界のみかんと同じ形であるが、その皮は固くて手では剥けない。刃物で切ってから実と皮を剥がして食べることをオススメする。
切ってから内側から剥がすと、綺麗に剥がれる。味は酸っぱくて蜂蜜のように甘い。皮が硬いほど甘さが増す。
包丁で切った蜜蜜柑の横にクーシェが焼いた肉を載せる。
その皿をポーアがテーブルへと運んでいく。
「ネスク様、皿を運んで下さいませんか?」
「了解。」
手を、桶に汲んでいた水で洗い、ポーアに言われた通りに残っている皿をテーブルへと運ぶ。
ピーッ!!!!!
鍋が吹く。
どうやら米が炊けたようだ。
クーシェが蓋を取り、
お玉で皿に米を注いでそれを置く。
「おおっ!!もう出来ておったのか。早いのう。」
二階から降りてきたミレドが加わり、米を盛った皿とスプーン。そしてアレを人数分持ち運び椅子に座る。
それぞれが椅子に座り全員が座ると、
手を合わせて、
「「「「頂きます。」」」」
朝食の開始である。
一ヶ月の間、ケガのリハビリがてら、ネスクは更に様々な物を作った。
人数が増えた事で家具を更に増やし、魔道具を作り上げた。
――魔道具に関する知識はミレドから教わった。
もっとも、アイデアは『大朏』の記憶から出したものだが。
「相変わらずおぬしは器用に使うのう。」
ミレドが食べながらそう言う。
皆は、スプーンであるが、ネスクはソレを使い食べる。
二本の木の棒を四角に加工し、更に光沢が出るように研磨。
ツルツルと舌触りを良くし
こだわりにこだわったその逸品は、
――――――――― 『箸』である。
「まあ、俺の場合はこっちの方が慣れてるからな。」
ミレドに返答して、米を口へと放り込む。
瑞々しい米が広がり、噛めば噛むほどあまみが染み出る。
ゴクンと呑み込むと、
蜜蜜柑に取り掛かる。
皮と実を引き離して実を取り出し、口へと入れる。酸っぱさの後に、濃厚な甘さが伝達される。
噛むと噛んだところから蜜のような甘い汁が口の中一杯に広がる。そして口の中に柑橘の爽やかな香りが漂う。至福の時である。
肉は・・・・・・・・・
焼き加減は良いが、味が"肉の素材の味"しか無い。やはり香辛料が欲しい。絶対、欲しい。
なんとかならないのであろうか.......。
「「「「ご馳走さまでした。」」」」
あっという間に朝食が食べ終わった。
ミレドは米のおかわりを何杯も食べていた。
一体あの体のどこに吸い込まれているのであろうか……。
ミレドの七不思議の一つである。
****
朝食を終え、後片付けを終えてから、それぞれが別々の事をする。
クーシェとミレドは勉強。
クーシェが来て二ヶ月、
あれからミレドはよくクーシェに人間の言葉を教えていた。始めの頃の辿々しかった言葉も徐々に慣れたのかすらすらと喋れるようになってきた。
ポーアは森の修復である。
ヘヴラとの爪痕が思いの外深く、この一ヶ月ずっと森の修復を行っている。ドルイドは、『森の民』とも呼ばれるため植物に関することは、彼女任せておいた方が無難である。
そして、俺は・・・・・・・・・
「‥‥‥‥ふぅ、こんなもんか。」
家の裏手で新しい小屋を作っていた。
そして今日完成だ。
一旦ここで切ります。ネスク達の日常の1日を書いた後、展開していきます。