日常その1
第二章 プロローグ
暗い森の中で、
目で追えない程の速度で、
大きくそびえ立つ樹を縫うように
二つの閃光が近づいては離れてを繰り返す。
閃光がぶつかる箇所では火花が散る。
――白い閃光がネスク、黒い閃光がローブで顔を隠れしていて分からない黒装束の者。
二人はそれぞれ刀と刀身が短い剣『ダガー』を構えて振りおろす。二つの武器がぶつかり、火花が発生しているのである。
「キサマの目的はなんだ!!」
刀を振り下ろしながら、その者へと問い掛ける。
―――男はひらりとそれを避ける。
「言うと思ったか?俺に勝てたら教えてやる、よっ!!」
高速な剣筋でダガーを突き刺そうと攻撃してくる。
「っ!」
首を反らしダガーの突きを避けるもネスクの頬にかすり傷が出来る。
(男か。そしてこの剣筋、こいつは...)
―――人を殺すための剣筋。
躊躇の無いドロッとした泥の土のように粘い殺気をコートのように着こんで刃を振りおろす。紛れもない殺人に長けた剣だ。
「ほう、今のを避けるか。大抵の奴は、……これで一撃だったんがな。ヴラムとかいう奴よりやるな。」
"ヴラム"という言葉に体が反応した。
「‥‥‥‥なぜ、ヴラムを知っている。」
「くくくっ。お前も知ってたか、なら教えてやるよ。それはな、」
その男から黒い何かが見えるように感じる。
フードの奥の瞳が怪しく赤く光る。
まるで飢えた獣が獲物を狩った後の優越感に浸るように男からはそれに似た何かを感じる。
「俺が殺したからだ。」
その一言をきっかけに再び男が襲い来る。
それに吊られて刀で防御し受け流して、男へと刀を振るう。
だが、ネスクの脳内ではパニックが発生中―。
(どういうことだ。アイツは確かに、俺が殺した筈だ。)
そうこう考えているとダガーによる猛攻が更に激しくなっていく。
(くっ、考えるのは後だ。まずはコイツに集中しないと)
頭を切り替え、男の突きをいなして、攻撃を加える。
両者の攻撃と防御が光のような速さで斬り合う。
「ひゃはははは、俺がここまで斬り合ったのは初めてだぜ。ほれ、もっと本気を出してみろや!!!」
男の狂喜に狂った笑い声が森を駆けずり回る。
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二章第一話
日常
――― ヘヴラとの戦いから一月が経過。
風が徐々に涼しい風へと様変わりを始めていた。
この世界でも四季はある。
前世と同じく二ヶ月で温度が変わり、『春夏秋冬』と季節を巡っていく。
ネスクが転生した直後がちょうど、冬から春へと変わる頃、そしてヘヴラとの戦いが春から夏に変わる頃であった。
この世界の夏は、前世のヨーロッパと同じくそれほど暑さの変化はない。
―――しかし、冬はとても冷える。
この日もミレドと一緒に早朝から修行をする。
「はぁっ!!!」
木刀をミレドへと振るう。
ミレドは下へと潜り込み避ける。
「ふんっ!!!」
――腹へと突きが飛んでくる。
「くっ。はぁっ!!!」
体をギリギリに逸らすも、脇腹に木刀が掠り、痛みが走る。
痛みを堪えてミレドの首へと木刀を振る。
ミレドは後ろへと飛び、避ける。
その後もミレドとの試合兼修行は続いていった。
しばらくして、
「そろそろこの辺りにして、朝飯にするかのう。」
ミレドが終わりの言葉を発する。
構えていた木刀を下ろす。
「ありがとう、ございました。」
息を上げながら、一言そう言う。
ミレドは、というと、
……全然息が上がっておらず、まだまだぴんぴんとしている。ミレドの体力は一体、どのくらいあるのだろうか。
ミレドと俺は、出会いの洞窟から戻ると、
クーシェにこってりと絞られたのであった。
そして、森の修復から戻ってきたポーアと初顔合わせして自己紹介をした。
ポーアから色々聞きたい事があったが、傷に触るとのことでこの一ヶ月聞けていない。
「何をボサッとしておるのじゃおぬし。
早う来ないか、ネスク!
妾がおぬしの分も食べちまうぞ」
ミレドの言葉に我に返り家の中へと急ぐ。
早く行かないと、ミレドに何もかも、
食べられてしまい朝食が無くなってしまう。
二章スタートです。