短編 蜥蜴の尻尾切り
「はあ、はあ、はあ、」
暗闇の中を黒い衣装に身を包んだ男が走る。
(くそ、あんな化物がいるなんて聞いてないぞ!)
心の中でぼやきながら、魔物が蔓延る森の中を自身の魔法で闇に紛れて潜みながら森を進む。
既に日が落ち辺り一面、真っ暗な暗闇と化している。
自身の魔法でミレドの拘束から脱出したこの男はミレドとネスクがヘヴラと死闘を繰り広げている際中に、足を走らせてその場から離脱し住み処へと急いで戻っていた。
がさがさと草むらが揺れ小柄な魔物がその男へと襲いかかる。彼は姿や魔力を隠すことが出来ても自身の匂い自体は消すことが出来ないため、鼻がいい魔物は襲い掛かってくる。
「くそっ、こんな時に!!」
襲いかかるその魔物を避けて、暗器を懐から取り出して投げる。
そして、
「影よ、我の武器となりて我が意思が望むままに影とかせ【影喰い】」
男の投げた暗器が黒く染まり影となる。
その影が魔物を呑み込み、跡形も無く喰らい尽くす。
男は膝を付く。そして全身から力が抜ける脱力感に苛まれる。
(くっ。魔力が少ない。……先を急がないと。)
膝を上げ、止まった足を再び走らせる。
体が夜の冷たい風に当たり傷に触りヒリヒリと痛む。
影魔法でなんとか拘束から逃れることが叶ったがミレドが放った拘束魔法が余りにも強力であったため、体に凍傷の跡が残ってしまったのである。
その傷を抱えながら、家への道があと少しとなっている。
(この森を抜ければ・・・・・・)
「失敗した奴は果てろ。」
「えっ?」
男が前のめりに倒れる。
その体は胴と頭が2つに分離する。
透明な体と化し魔物からも魔力を感知されない筈の男は自身の死に気づく暇さえなく絶命した。
「ったく。面倒事を増やしやがって。まっ、死体処理は魔物がしてくれるだろうから楽で良いがな。」
男の死体が転がる前からローブを着た別の者が姿を見せる。その手には円のような弧を描いた暗器が握られていた。その武器を外套にしまう。
「なんとかいう盗賊の頭領のえーと、なんていったっけ?ヴラムだっけ?アイツも始末したし、これで後処理も終わった。アイツ姑息なんだよな。『身代わり人形』なんか使って自分だけ生き延びようなんて。」
身代わり人形<スケープゴート>
魔道具の一つ。藁人形のような形をしている二対の人形である。一つを自身が持っておき、もう一つは安全な場所に保管することで発動する道具である。持っている藁人形に自身の魔力が通い、一度だけ自身の代わりにその人形が身代わりとなり致命傷となる攻撃を受ける。攻撃を受けるとその場に人形のみが残り保管している場所に強制転移させる。
「失敗した者は必要ない。それが道具なんかで失敗が無かったことにしていようと関係無い。さて、後始末も終わったし、魔力回収も充分だ。後はあの方に任せるとするかな。」
ローブを着た者は空を見上げる。月は出ておらず星のみが空を覆い尽くしている。
「戻るか。」
闇の中に消えて溶ける。
その者の姿が闇に溶けて消えると、赤い目がたくさん光っている。
魔物である。
その魔物の群れが群がり死体を貪る。
「ああ、忘れてた。アレを探さないと。触媒となるアレを…。」
暗い森の中にその言葉のみが響く。
短い話ですが見張りや盗賊として雇われていた者の末路です。因みにこの謎の人物は二部で再び登場しますり