夢は終わり、帰還する
少し遅くなりましたが更新します。
次回、第一部エピローグです。
その後、登場人物紹介と少し短めの話を挟んで
二部突入します。
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「‥‥‥‥‥‥ここは?」
見たことのある間取り、机、そしてベッド。
ここはかつての自分の部屋であり、今は燃え尽き、灰となっているであろう筈の部屋の中で意識を取り戻す。
―――ようやく、全てを思い出したようだな。
背後から声を掛けられる。振り返ると黒髪に見慣れた制服姿のかつての自分がいた。
「‥‥どうして俺がもう一人いる?」
何を言っている?
お前は俺であり、俺もお前だ。
自分がもう一人いて何が可笑しい?
ここはお前の精神領域なのだから。
頭の中がごちゃごちゃになりそうになる。
頭を抱えて整理をしているともう一人の自分が話し掛けられ我に返る。
………で、答えは出たのか?
「一体、何の答えだ?」
惚けんな、俺。保留になっていた『人間』についてだ。
お前はまた人間と交流を深めるつもりか?
裏切られた挙げ句に殺されたというのに。
確かにそうだ。今までは人間なんて二度と関わり合いたくなあと思っていた。
しかし、ミレドやクーシェ、大切な人達が再びでき、ネスクの心の中では今混沌を極めている。そして、決定的なのがミレドのあの言葉である。
「‥‥‥‥二人とふれあって、ヘヴラと戦ってミレドがいった言葉でいつしか人間というものが信じて良いものなのか、
それとも関わらないべきなのかがわからなくなった。
でも、殺意を持ってくる奴だ。
その時は……容赦しないつもりだ。」
‥‥‥‥それならいい。
今決めている事実を伝えると満足したのかもう一人の自分は、腕を組む。
「で、それだけにここに呼び出したのか?」
――先程から疑問であった。
それだけを聞きたいなら、自身の精神領域なのだからそれぐらいの事はすぐに調べれば分かる筈なのにわざわざ姿を表したのだから、
―――何か他に理由があるようだ。
その予感は見事に的中する。
いや、それだけじゃない。
「やはりか。」
ああそうだ。渡しておく物がある。手を出せ。
言われた通り手を出すとそこにもう一人の自分の手が重なる。そして重なった手から光が放たれる。その光は暖かくもあり、何処か不気味さを醸し出す光である。
「これは?」
もう一人の自分は光を渡すと手を離し光についてを話してくる。
それはお前の力となる物だ。使い方次第で善にも悪にもなる力だ。時が来れば、自然と使い方が分かる。あとアドバイスだ。
「アドバイス?」
ああ、そうだ。俺から二つアドバイスだ。
まず一つ目。お前はもっと自分の能力を使うべきだ。特に『禁書庫』を。
側に国の権力者が欲しがる叡智を常に持っているのだからもっと彼女を使って挙げるべきだ。
最後に二つ目。これは忠告になるが、魔力操作をもっと極めろ。今のままだと魔法に呑まれるぞ。
もう一人の自分は指を立てながらアドバイスをしてくる。自分に疑問を返す。
「呑まれる?」
はあーと、ため息を着いてから説明してくる。
魔法は万能じゃないと以前、ミレドから聞いたな。
魔法は事象を起こす変わりに対価を常に払う。この場合だと、自身に流れる魔力がその対価だ。
事象が大きくなればなる程対価も大きくなる。
自身の魔力以上の魔法を使うとなると空気に流れる魔力から対価を払わなければならない。でも元々自身の魔力じゃないから使い勝手が違う。使い方を誤ると自分の体を傷付けることになる。下手すると二度と魔法が使えない体になることだって有り得る。
だからもっと極めろ。俺から以上だ。
もう一人のその言葉で身の毛がよだち、背中に寒気が走る。
「なんで自分なのにそんなこと知ってるんだ?」
元々お前の中は書庫と繋がっている俺はそこから情報を貰っただけだ。お前、もっとソフィアを使ってやれよ。本当に彼女、泣くぞ。その時は俺が表に出るからな。
ジト目でもう一人の自分にドヤされる。
ネスクはもっとソフィアを使ってあげようと心の中で決意するのであった。
そして意識が遠のいていく。
薄れていく意識の中でもう一人の自分が最後に話し掛けてくる。
そろそろ時間のようだな。いつかくるその時の為にもっと鍛えるんだ、俺。そしてアイツを助けてくれ!!頼んだぞ、今の俺。
「アイ、・・・ツ?」
そしてテレビの電源がプツリと切れるように意識が途切れる。
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「んん・・・ん」
ネスクの意識が浮上し目を開ける。
急に光が目に入ってきたため眩しい。
ぼやける視界で周りを見回す。
―――いつも通りの木の天井、そして木の壁、床、そして二階へ上がるための木の階段、自分の家であるのは分かる。
「あの後、どうなった?うぐっ。」
上体を起こすも体に激痛が走る。
(ヘヴラとの戦いではそれほど体を痛めるダメージを受けてなかった筈だ。ということはこれは【反転】による反動ということか。)
自分の体を確認すると気付いたことがある。
自分の体のあちこちにベタベタした物の上に白い布が巻かれている。察するに、包帯と薬のような物であると判断し、ネスクはそれを剥がさないようにする。そしていつの間にか、服は元の服に戻っていた。
状況を確認していると、入口の扉が開く音がする。そして何かが床に落ちる音がする。
その音で視線を入口に向ける。
入口にはクーシェが立っていた。
目の前の光景に呆気を取られネスクが自作した水を汲む桶が転がり中の水がぶちまけていた。
「ん?‥‥クーか。あれからどうなったんどあ!?」
話し掛けると急にクーシェが飛びついて来たためバランスを崩し再び体が横に倒れる。
「よがっだ。ひぐっ、本当に、よがっだでず。
もう、あのまま、目を、ざまざないの、ひぐっ、がど、ひぐっ、おぼいまじだ。」
クーシェは涙をこぼしながらそう言う。
その表情は涙で濡れ、ぐしゃぐしゃになっている。そんなクーシェにネスクは頭を撫でて上げる。
「心配かけたな、ごめん。あと、ただいま。」
膝の上で泣いていたクーシェはベッドから床に降り、涙を手で拭いて雲の切れ目から夕陽が照らすかのような満面の笑顔で一言、
「おかえり、なさい。」
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