人間
引導ヲ渡ス?キサマニソレガ出来ルノカ。
霧と化したヘヴラがミレドへと声を投げ掛けてくる。
「女神様から伺っている。そなたの『死の楔』は破壊神からの贈り物『死の霧』によるものじゃとな。」
ホウ、知ッテイタカ。ソノ通リ、我ノ『死の楔』ハ『死の霧』デ吸イ上ゲタ生気ヨリ生マレタ物ダ。
その言葉に驚愕の余り、思わず言葉を挟んでしまう。
「それならどうやってコイツを倒すつもりだったんだよ!!」
「落ち着くのじゃ、ネスク。」
ミレドの諌めると、言葉を続ける。
「おぬし、魔力は残っているな。」
「あ、ああ」
「なら大丈夫じゃ。」
(何が大丈夫なんだ?)
その疑問が浮かんだがミレドの言葉で後にする。
「最後に言い残す事はあるかのう。ヘヴラ」
再びヘヴラへと言葉が掛けられる。
何故、キサマハ人間ノ為ニ戦ウ?
人間ハ他ヲ踏ミ台ニシ己ガ為、
ニ平気デ嘘ヲ付キ、同種デ争ウ。
ソノヨウナ輩ノ為ニ何故、
キサマハソノ手ヲ振ルウ?
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
その言葉に思わず同感してしまいそうになる。その事は自分自身が身を持って体験したのだから。
それにより、一度命を落としたのだからネスクは何も口に出せない。
そんなネスクの思いの他、ミレドは口を動かす。
「簡単じゃ。友のため・・・・・・じゃな。」
友ノ為トハ?
「妾の友、二人はキサマにより生涯を終えた。妾も始めは人間なんぞ嫌いじゃった。確かに、
すぐ嘘を付くし他の者を蹴落とす。
中には、人を売って自分のために行動する者もおったのう。
しかし、そんな彼らと触れている内に気付いたのじゃ。嘘は嘘でも他の者の為に嘘を使う。皆が皆、醜い人間ばかりではないと、のう。
一緒に笑い合い、一緒にいる楽しさを学んだのじゃ。
そんな彼らとの時間を失いたくないとも思うようになったのじゃ。それにずっと一人でいるのはとても孤独じゃからのう。故に妾は人の為に戦うのじゃ。」
どこか懐かしむようなそんな表情を浮かべて言葉を発するミレドに何処か心惹かれる物があった。
ソレガ同種デ争イ、己ノ種ノ滅亡ニ成リ果テル結果トナッテモカ?
「その時は止める。妾もそれくらいの力はまだ持っている。それに・・・・・・妾には『家族』がいるからのう。その時は手伝って貰おうかのう。」
少し顔を赤らめてネスクをチラチラ見てくる。首を傾げるも話が逸れそうなのであえて聞かないで置く。
セイゼイ足掻クガヨイ。
全テガ終ワリヲ告ゲルソノ時マデ
我ハキサマヲアノ世デ見物シテオコウ。
「‥‥‥‥ネスク、手を翳すのじゃ。」
「ああ」
ミレドに言われた通り霧へと手を翳す。
「おぬしは今出せる炎系統の魔法を頼む。」
「わかった。」
現在の魔力で出来る魔法を思い浮かべるも脳内には存在しない。
そこで書庫に頼むことにする。
(【炎】では火力が足りない。【聖炎乱舞】は今の魔力では使えない。ソフィア、頼めるか?)
『・・・・・・少々お待ちください。
・・・・・・・・・・・・検索完了。
――魔法式を転送。
世界の理<火>の使用を推奨致します。』
魔法式が脳内に思い浮かんでくる。
「理―<火>ー発動!!」
翳した手のひらから炎が溢れ出す。
「いけそうかのう?」
「ああ、いつでも。」
「【浄化の斬裂】」
「【焔の龍】」
二つの魔法がそれぞれの主から放たれる。
ネスクの翳した手の平から龍の形をした炎が、ミレドの手の爪から光が飛び出し、空中を引っ掻くと三本の光の斬擊が。
二つの魔法が飛んでいく中で混ざり合い。
光を放つ炎の龍となり、黒い霧のヘヴラの元へとぶつかり爆発する。
・・・ヤット、コレデ我ハ終ワレル
黒い霧は燃え尽き消え、その言葉は二人の耳に届く。奴も自身の特性で永遠に苦しんでいた者であったようだ。
****
「・・・・・・終わったな。」
刀を鞘に戻し、ぽつりとネスクは言葉を溢す。
森全体に火が回っているのか周りは、火の海と化し、火に当てられた風が熱風となり髪やローブに吹く。
こんな火の海の中にいると、ネスクは頭の奥が疼く。
死ぬ前の光景が今のような光景とそっくりで合ったのだから。
「終わったのう。」
横にいたミレドが自分の声に反応する。
「これでやっと‥‥‥‥‥‥‥‥」
「ミレド?ミレド!!!」
横に立っていたミレドが急に倒れた。
ネスクはしゃがみ駆け寄るもそこで、くらっとくる。
そして、
バタンッ!!!
ネスク自身も仰向けになり倒れる。
薄れゆく意識の中で顔にポツリポツリと何かが降り注いでくる。
雨である。
****
<クーシェ>
「この辺りで良いでしょう。」
走っていたクーシェは、前を走っていたポーアのその声で足を止める。
「ここは?」
周りは炎がまだ回っていない森の中であった。
ポーアは地面に手をあて、目を瞑り何かに集中している。
その様子をクーシェは見守りながら、指示を待つ。
少し時間が立つと、
ポーアに声を掛けられる。
「クーシェ様、あなた様は水魔法を使うことができますか?」
「え?ええ、一応、出来、ます」
「なら話しが早いですね。私が植物を生やしたらその植物に水魔法をお願いします。」
「分かり、ました。」
その返答を聞くと再び目を閉じる。そして、
「我の言葉に返答しその身を大きく巨体となりて我らの母たる森を癒やしたまえ【花の涙】」
詠唱後、ポーアの数メートル先に小さな若葉が生えてくる。その若葉が急激に成長し、二m程の大きさまで成長し蕾ができる。
「クーシェ様、蕾にお願いします。」
クーシェはポーアのその言葉通りに水魔法を発動させる。
「【水球】」
クーシェは手を翳すと、ビーチボール程の水の球が出来上がり、それを蕾へと放つ。
蕾にあたると水の球は弾ける。
そして、蕾に水が吸収され消える。
蕾は蒲公英のような花となり、枯れて綿毛になる。そして、熱風により空へと舞い上がり綿毛達は空に飛び立ち消える。
ポツン、ポツン
クーシェの鼻に何か落ちてくる。そして、雨が振り出し始める。
【花の涙<フラワー・ティア>】
巨大な植物の花を咲かせて、その種を使い周りに雨を降らせるドルイドの魔法である。
蕾に水を与えることにより開花し、一気に枯れ綿毛となって空に種を打ち上げる。
種は空中の気温で破裂して空気中に雨雲を作り雨を降らす。
この魔法は植物が生えてくるいる所でのみ使用可能で周りが炎が燃え盛る中では使用出来ない。
「これで一安心ですね。」
ポーアは立ち上がりながら、クーシェへと話し掛ける。クーシェはその言葉と降り注ぐ雨で胸を撫で下ろす。
そして二人の魔力に気付く。
弱々しながらも二人の魔力を感じる。
そしてあの禍々しかった魔力が消えていることに。
「ミレ、ド様と、ネス、ク様の元に行きま、しょう!!」
ポーアの手を引き二人の元まで急かす。
「・・・・・・そうですね。急ぎましょう。」
ポーアはクーシェに引かれながら駆け出す。
死闘を繰り広げ生き残ったであろう二人の元に急ぐ為に。
本日二本目です。この場面も描きたかった場面の一つなので指がすらすら進みました。もしかしたら、後一本上げるかもしれないです。楽しみにしていてください。