対話と禁忌魔法<理>
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<ネスク>
【銀月の刃】で斬り付けたため、間合いが再び離れる。
「すぅ、はぁ……」
呼吸を整えて構え直す。
人間、何故我ノ攻撃ガ見エテイル?
ヘヴラが問い掛けてくる。
「‥‥‥‥‥‥お前の動きに目が慣れただけだ。」
【心眼】
敵の攻撃、癖、パターンなどからあらゆる攻撃を見切る回避能力である。この能力で攻撃を見切ることが可能となる。発動には一度攻撃を見る必要があるため発動させるのに時間が掛かる。心の眼で敵を見通し見えない攻撃であっても自然と体が避ける。
ネスクはこの約三ヶ月間ずっと毎日、ミレドの厳しい朝の修行を受けてきた。
試合で目で見えない攻撃を常に、その身に何度も受けたり、突然木刀一本だけ持たされ、森の狂暴な魔獣の中に放り込まれたりした。
その修行の末、攻撃を受け流すために自然と出来るようになったのがこの能力だ。
ネスクは首に鎌が触れる瞬間に、ヘヴラとの攻防の果てにネスクは感覚が研ぎ澄まされ自然と体が反応して避けたのである。
ただし、一時的な物なのでネスク自身が自由自在に使えるわけでは無い。
「お前にも聞きたいことがある。」
ヘヴラが問い掛けて来たためそのついでに聞きたい事を聞く。刀は構えたまま、両者とも距離は縮まることなく会話は続く。
「ここから東に進んだ先に小さな村があった。三ヶ月前、お前がその村を通った筈だ。その村に住んでいた住人はどうした?」
ハテ、何ノコトダ?
奴にとってはまるで道に転がる小石のように気に止めるものはないかのように返答してくる。
そのヘヴラの反応にネスクは声を低くする。
「とぼけるな。燃える村の中で悠々と飛ぶお前を見たのを俺は覚えている。」
我ハソンナ些事ナド覚エテオラヌ
我ガ通ル道ニ生キル者無シ
故ニ我ハ邪ノ龍ナルゾ、人間
何の躊躇いもなくヘヴラはそう答える。
「人間の命を些事と切って捨てるか、ヘヴラ。お前に何の権利があって罪の無い人を殺すことができる。」
人ハ皆、生キル為ニ他ノ命ヲ脅ヤカス。
ソレノドコニ罪ガ無イトノタマウカ。
我ハソンナ者ヲ裁イテイルダケデアル。
己ノ命モ他ノ生キ物ト同様我ニ食ワレ裁カレテ
何ノ問題ガアル?
その回答に吐き気がする。
正当な回答なようでそうではない。
悪意に満ちたその言葉は聞いているだけで気持ち悪い。
「お前のその行為は喰うためではない。
他の生物の命で弄び、ただ滅ぼしているだけだ。そんなお前に必死に生きようとする者を裁く権利なんて何もない!!」
ヘヴラの自分勝手のその発言に怒りを覚える。
話し合いで蹴りを付けれる相手ではないことは理解していたがどうやら最初からヘヴラとは理解などできる筈が無かったのだとネスクは判断する。
殺気の籠った視線を送りながら、頭の中ではヘヴラの次の行動を予測しながら出方を伺う。
モウ良イ、ソノ耳障リナ言葉ゴト滅ボシテク
レヨウゾ、人間。コレデ最後デアル。
ヘヴラが手に持っていた鎌が黒い霧に戻り、手をこちらに翳す。その瞬間の行動でネスクは次に来る攻撃の予測がつく。
『黒霧・終焉の死息』
ミレドと同じような『咆哮』。
赤黒く染まった咆哮がネスクへと放たれる。
「禁忌魔法<理>限定解除、認証開始。」
刀を構えたまま、動くこと無く迫り来る『咆哮』の真正面で見据えて、ネスクはぼそりとつぶやく。
ネスクの脳内に少女とおぼしき声が響く。
『認証、使用者【大朏】様、使用魔法を脳内のイメージより選別、・・・・・・・選別完了』
脳内に魔法式が浮かび上がっていく。
そして、自然とその使い方も分かり体中に魔力が満ちてくる。
ネスクは書庫によるサポートだと直ぐに理解する。
再び声が響く。
『世界の理<光>と<闇>、更に<火>を限定解除致します。ご存分にお力を振るい下さいませ、マイマスター。』
「ありがとう。ソフィア」
自然とその言葉が口に出る。
姿を見た訳では無いが、声とその気配で自然と分かる。
いつも側にいて、見守ってくれているその暖かい感覚。
迫る咆哮に手を翳し発動する。
「理―<光>・<闇>―【宵闇の月光】」
真っ黒な雲に覆われた光がネスクの手から放たれ、咆哮とぶつかる。
雲におおわれた光が咆哮を飲み込んでいく。
次回は2日後に上げる予定です。