ミレドVS見えない男 1/2
霧に覆われた中、
ミレドは見えない敵と相対する。
どこからともなく飛んでくる暗器を弾きながら、人影とおぼしき物に向かって魔法を撃つ。
「【火炎】!!!」
人影に当たるも掻き消える。
そして、後ろから再び、人影が現れて暗器を投げてくる。
ひらりと躱し、先ほど拾っておいた敵の暗器を影へと、投げる。そして、又掻き消える。
「これはきりがないのう。どうするか?」
『諦めろ、キサマはここでくたばるのだ!!はっはっはっは!!!』
森全体に男の声が響く。
まるで森全体で嘲り笑っているように。
(ここは一つ試してみるかのう。)
ミレドは目を閉じる。
『キサマ、どうした?諦めたのか?なら楽にしてやるよ!!しーねぇ!!』
ミレドの後方から暗器が飛んでくる。
それを目を閉じたまま、首を反らして避ける。――が、全方位から先程と同じ暗器が飛んでくる。
最初のは囮でこれが本命である。
ミレドはどう見ても、避けようが無い。
「【脱け殻】」
そして、暗器に埋め尽くされミレドの姿が消える。
『ひゃっはー!!こんだけ毒を塗った上にこの数だ!もう生きていないだろうな。』
暗器に埋め尽くされたそれがバタリと倒れる。
透明なソレが近づき、確認する。
『どーれ?どうなったか確認してやるよ!!』
透明なソレは暗器に埋め尽くされた物を足で小突く。反応が無い。
『ひゃっはっはっは!!死んだ!!やったね、これで俺の取り分は二倍だぜ!!!ああ、これもう要らないか、解除っと♪』
ソレを解除すると現れる。
黒い衣装に身を包んだ男は、懐から水晶玉のような物を取り出す。
「さてとお仕事、お仕事♪ふ~ん、んん♪」
黒装束の男は、鼻歌を歌いながらその玉を近づけると、中に煙のようなモヤが浮かび上がる。
そしてその玉に吸い込まれるように、暗器だらけのソレが段々小さくなり、
―――そして暗器だけ残して消えた。
「周りのヤツらも吸っておくか。多少はタシになるだろう。」
男が踏み出したその時、
『ほう、「吸魔玉」とは珍しい。そして、その力も、じゃな。まさか、周りの魔力に浸透させて自身の魔力を消しておったとは。それにあの影の魔法、【影写】じゃな。』
「っ!?」
男が後ろへ暗器を投げる。
暗器は空を切り飛んでいく。しかし、
ミレドに当たることなく虚空へと消えていった。
「キサマ!!確かに殺した筈っ、どうして生きている!!」
『ああ、あれは身代わり人形じゃよ。ある程度の魔力を注いでおるからのう。本物と変わらんかったろう?』
「なら、次こそ殺してやる!!」
『ムダじゃ。ネタが分かったなら、もうこっちの物じゃ。』
「言ってろ!!」
両手に暗器を投げる。
「我命じる、我が魔力を糧とし、その物を影から呼びたまえ【影写】!!!」
飛んでいく暗器が一から十になり、男を中心に全体へと飛んでいく。
【影写】
一つの物からその物体の影を使い、その物と同じ物を作り出す魔法である。例えば、暗器を投げて影写すると、暗器に加わっている力も影写される魔法である。
しかし、
「なん、だとっ!?」
『だから、ムダじゃといったじゃろう?』
暗器を投げ飛んでいくものの、
――数十mすると掻き消えた。
「キサマ!!!何をしやがった!!!」
『何、おぬしの逆の事をしただけじゃ』
「!?どういう意味だ?!」
『説明しても分からぬと思うが。それよりおぬしに一つ聞きたい事がある。その「吸魔玉」何に使うつもりなのじゃ?』
そう問うミレドの声が、先程の男のように森全体から響く。
「キサマには関係無い。だが、俺に勝てたら答えてやる。」
『時間も惜しいからのう。さっさと終わらせる。』
「ほざけっ!!」
男はそう言うと地面に手を付く。
「我が身我が魔力を隠したまえ、木は自然の中に気は空気の中へ【浸透】!!!」
男の姿が薄くなっていき、そして魔力も姿も見えなくなって消える。
シュッ!!!
男が移動したのか、地面を蹴る音がする。
『これが最後じゃ!!!さっさと済ませて、アヤツの所に行かなければならぬからな!!!』
霧の森の中で姿が消えた者同士が音だけが響く。
***
「急が、ないと!!!!」
クーシェは霧の森の中を駆ける。
あちらこちらに、ネスクが倒した盗賊とおぼしき人が倒れている。
ネスクの元へ【探知】を頼りに急ぐ。急がなければ間に合わない
段々とネスクの魔力に近づいていく。
―――前方にネスクを発見。
「ネス、ク様!!!」
「クー?」
ネスクが不思議そうに首を傾げている。近くには大柄の男が倒れている。
「ネス、ク様!!たい、へんです!!」
「クー、駄目じゃないか!!
ここに来たら、早く家に戻るんだ!!」
自分へとネスクは叱る。それは、自分の身を案じてということは容易に分かる。
「ごめん、なさい。けど、早、く伝えないと、駄目、だと、思って。」
「何か合ったのか?」
その必死さにネスクは気づいたのか、そう問いかける。
「【探知】に、禍々しい、魔力が、こっちに、向かって来てます。」
「何!?」
「だから、ここから、早く、離れないと・・・」
―――空が翳る。
そして、それが月に照らされ映る。
体から禍々しい魔力を放ちながら、
悠々と空を駆ける黒い龍が。
***