魔力無き者の襲撃
ネスクとヴラムとの激戦を書く予定でしたが、先にミレドの現状を書いて、次回にネスクの方を書こうと思います。楽しみにしていた方、申し訳ありません。
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濃い霧の中をミレドは、迷うことなく南に向かって走る。
「【探知】」
走りながら、【探知】を掛けて現在の状況を確認する。
向かう先に複数の魔力を感じる。
何十もある魔力が散らばっている。そして、北にある一つの大きい魔力が何十もある魔力を一瞬で狩り取っていく。
「ネスクの奴、張り切っておるのう。それじゃあ、妾も始めるかのう。」
走っている片方の足に力を込めて踏み、
――空中へ。
「氷生成、標的確認、【凍てつく槍】発動」
空中に飛んだミレドの周りをダガーのように刀身が短い槍が舞う。
「魔力感知・・・数、五十」
淡々と、発動のための魔法をミレドは発動していく。そして、
「標的照準、【凍てつく槍】狙撃!!!」
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いきなり濃い霧が発現して、盗賊達は混乱の最中にあった。
「おい!!一体どうなっている!?」
盗賊が周りの仲間に問う。しかし、今の状況を誰一人と理解していないため答えれる者などいない。
「おい!!テメエこの霧何とかしやがれ!!!」
先程の盗賊とは別の盗賊の男がローブの男の胸ぐらを掴み脅しをかける。
「こ、こんな濃い霧を消す魔法なんて、知らない!!!大体、霧を消す魔法なんて、ある訳ないだろう!!」
このローブの男は知らない。
元々この魔法は、ネスクのオリジナルに近いため、この魔法を解くにはネスクが解くしかいない。
「チッ!!使えないヤツらだ。じゃあさっきの魔法を準備しろ!!」
その盗賊はローブの男の胸ぐらから手を離す。離した勢いで後ろへ下がり、げほげほと咳き込む。
「おい、まだか?早くしろ!!!」
「・・・・・」
「おい!!どうした?っ?!!」
返信が無かったため、もう一度声を掛けるも後ろの光景に凝固してしまう。
―――男は氷漬けとなっていたからだ。
「い、一体なに、が?!」
ブスッ!!
鈍い音のあと、体に痛みが走った。
恐る恐る自分の体を見下ろす。
体にダガー程の槍の氷が刺さっていた。
「だ、だれか!!たす、け」
パキパキ!!
体が数秒足らずで氷になっていき、ローブの男のように氷漬けとなる。
男の声が霧に包まれる中を木霊していった。
***
「【探知】」
空中から地上に着地したミレドは再び【探知】を掛けて確認する。
近くの魔力から順に消えていく。
数分で南側にいた魔力が全て消え失せた。
「ふむ、少々呆気ないのう。」
一瞬で終わった敵にまだまだ足りないと感じながらネスクの魔力を確認する。
(む?ネスクが苦戦しておる?)
ネスクの魔力がもう一つの魔力とぶつかったり、離れたりを繰り返している。
「仕方ないのう。手伝ってやるかのう。」
『そういう訳にはいかない』
「む?」
手伝うために向かおうとするミレドに、その声が響く。そして、
シュッ!!!
ミレドは中指と人差し指でそれを掴む。
暗器と呼ばれる暗殺者が使う武器。それが、ミレドに向かって投げられる。
顔面めがけて百発百中の正確さでダガーが飛んでくる。
(コヤツ、この霧の中で妾の場所を把握しておる。ということは【探知】を使えるのか?)
「今のを止めるか。ではこれならどうかな?」
霧の中でその声が響く。そして、
シュッ!!!シュッ!!!
先程と同じ暗器が飛んでくる。
次は二本である。
「ハアッ!!」
両手を振る。
風圧で二本の暗器が停止し、下に落ちる。
(やはり、魔力を感じられぬ。どういうことかのう?)
***
二人が飛び出し、一人残されたクーシェは今の家の中にいる。
そして【探知】を使い、家の周りは結界を張っている。
「二人とも、どうか、ご無事で……」
両手を合わせて神に祈る。
「っ!?」
(何、この魔力!?)
クーシェの【探知】は、ミレドやネスクより、広範囲で発動することが可能である。
その範囲にその魔力が入る。
(なん、て禍々しい、の!!)
あまりの禍々しさにまだ何十kmもあるというのにクーシェの尻尾が逆立つ。
その魔力がこちらへと向かってくる。
―――正確には北へと向かっている。
まるで取り逃がした獲物を取りに来るかのように。
「ネス、ク、様に知らせな、きゃ。」
盗賊がまだ潜んでいるかも知れない今の状況でクーシェは飛び出す。何かに引っ張られるかのようにすごい勢いで駆ける。
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