師匠と弟子
スプーンで一掬いし、口の中へと放り込む。
口の中いっぱいに米の瑞々しい粒が広がっていく。そして一噛み。
米の一粒一粒の甘さが弾けて、口の中が幸せでいっぱいになる。
久しぶりの味に涙が出そうになる。
一回一回の味を噛み締めながら噛み、呑み込む。
「美味しい……。」
自然とその言葉が飛び出す。
「前に食べた時より、旨いのじゃ。」
「おいしい、です。」
残りの二人にも、
その美味しさが伝わったのか、口々に言葉が出てくる。
それからは米粒の一粒たりとも残さず、綺麗に食べきった。
*
「二人ともどうだった?」
米を食べ終わり片付けをしながら二人に感想を聞いてみる。
「おいし、かった、です。」
「うむ!!絶品だったのじゃ!!まだあるのじゃろう?また作って欲しいのじゃ!!!」
どうやら大好評だったようだ。
「そうだな、まだあるからその内やろう!!
けど、醤油や海苔なんかがあったら、また違う味わいが出来たんだがな。」
「「しょうゆ?のり?」」
二人が揃って首を傾げながら、反復してくれる。
見てると可愛い。
(醤油や海苔、後他にも何かあれば良いんだがなあ。ちょっと検討してみるか......)
二人を横に考え込むネスクであった。
****
その日の夜はいつもより早めに休むことにした。
朝、昼の修行と労働、そしてその後の森にて腹ごなしに動いたことも相まって横になるとすぐに、眠気が襲ってきた。
(今日はゆっくりと眠れると良いが・・・・)
目を閉じると、夢の中へとすぐに意識が吸い込まれる。
「・・・・・・・て・・・」
(・・・・ああ、またこの夢か)
夢の中でいつもの夢がやって来る。もう何十回も見てきたため、すぐに夢だとわかる。
「・・・・・き・て・・・」
暗闇の中で誰かが何かを言っている。
(あ、れ。いつもと何か引っ掛かる。)
「・・・おきて、ネスク」
その言葉と共に現実へと引き戻される。
*
「起きて、下さい、ネスク、様!」
意識が現実へと引き戻されると、ボヤける視界の中、寝間着姿のクーシェが自分の体を揺す
っているのが分かる。
「どうしたクー?」
目を擦りながら、上体を起こし尋ねる。
「敵、です。囲まれて、います。」
クーシェのその言葉に寝ぼけた頭が覚醒する。
「なに?【探知】」
【探知】を掛けて確認する。
此処を囲むように展開された魔力が感じられる。
「ミレドを頼む。あとすぐに来てくれと伝えてくれ」
「分かり、ました!!」
クーシェに指示を飛ばすと大急ぎでミレドの部屋へと、駆け込みに行った。その間に支度を整える。刀を取り服を寝間着から変える。
終わる頃にミレドとクーシェが入ってくる。二人ともいつもの服に着替えて。
「どうするのじゃ?、ネスク。」
入ってくるなり、質問をしてくる。
「奴らの狙いが分からないからな、迂闊に此方に手を出す訳にはいかないだろう。」
「この感覚、おそらく、あの、盗賊、です。」
「ああ、アイツらか。」
(死の間際にボスがなんとかいってたな。確か……)
二ヶ月前、クーシェを救い出した時の盗賊を思い出す。
「とりあえず、この場はミレドとクーシェに任せる。」
二人に作戦を伝える。
「おぬしはどうするのじゃ?ネスク。」
ミレドがその作戦に質問を返してくる。
「おそらく奴らの狙いは僕に対する報復だな。
だから二人ここを守ってくれ。」
「そん、な、私のせいです。私が、此処に、来たから。二人、を巻き込ん、で」
クーシェの頭を撫でて上げる。
「クーのせいじゃない。元々悪いのはあちら側だしな。」
「そうじゃ、おぬしのせいじゃない。それに妾も少し腹が立っておるからのう。」
「さあ、殺るか。」
「そうじゃのう。」
「「此処まで来たのだから報復の時間だ(じゃ)」」
師匠と弟子は似ると言うが、この二人にも当てはまるようだ。その表情は完全に悪い顔で三日月のようにつり上がった顔であった。 *
作戦はこうだ。
まず始めに、ネスクが【深き霧】を使い敵の視界を攪乱させる。
その間に真ん中から後ろをミレドが、前をネスクが崩していく。相手の人数は約一◯◯人である。
そして崩れた包囲網をネスクとミレドがそれぞれ倒していく。
という、至ってシンプルな作戦である。
「それじゃあ、始めるぞ。」
「ああ、頼むのう。」
家の扉から出てきたミレドとネスクがそう、言葉を交わす。
「っ?!二人、とも、危ない!!!」
「「?」」
「【水の結界】」
クーシェが【水の結界】を張ると同時に火の雨が降り注ぐ。
クーシェもある程度はミレドから指導を受けている為、防御系の魔法は一応使える。
この時はクーシェの魔法により降り注ぐ火は防ぐことに成功する。