暗闇の中から・・・
暗闇に閉ざされた空間の中で少年は目を覚ます。その瞳には光が無く、空虚である。
―――ここは‥‥俺はあの時………。
記憶を辿ろうとするも、すぐに辿ることをやめる。友情、家族、夢。何もかもが『幻想』であった。その事に拒絶反応を起こして思考を拒む。
―――全て失い、絶望の中にいる。
光が灯ることのない空間。
流れに身を任せるように揺蕩っている。
音も匂いも視界も。
全てが何もない無の空間は、
――まるで宇宙を漂うよう。
「はは、‥‥あははははははははは!!!」
声にならない声で自分を自嘲する。
この場に正常な者がいれば気が触れてしまったのではないかと思えるくらい笑わずにいられない。
―――ははは、さんざん足掻いた末…
‥‥‥‥全てを無くしてたんじゃ……!!
‥‥‥‥これが笑わずにいられない…!!!
乾いた笑い声が誰も居ない暗闇で響く。
少年は、もう何も信じられなくなっていた……。
全てを打ち砕かれて、涙も出なくなった彼には笑う事だけが正常な反応手段でしか無くなった。
もう何時間、いや
何日そうしていたのだろうか。
暗闇しかない空間なのだから当然。
時間という概念が崩壊する。
―――そして、それが近づいてくる‥‥。
自分を覆い尽くせるくらい眩しい一筋の光が―――。
‥‥‥‥やっと見つけた‥‥!!
光の中でそう呟く優しい声。
暖かな抱擁のような光に吸い込まれる。絶望の暗闇から少年を救い上げた瞬間だった……。
春のような暖かな日差しが顔に差している。その日差しを浴び、まだ重い瞼をやっとの思いで開ける。うっすらとしか、ぼやけて見えない。しばらくすると徐々にピントが合ってくる。
目の前には、二つの同じ大きさの丘が見える。そこから優しい瞳がこちらを伺っている。空のように澄んだ水色の瞳に、日に照らされ腰程まであるブロンドの髪がキラキラと輝いている。
―――首裏の柔らかい感触。そして、見上げるように見える顔。
どうやら『膝枕』をされている状態のようだ。
気恥ずかしいため力を入れ、体を起こそうとする。―――が、体に力が入らず鉛のように重く体の自由が効かない。それに、非常に眠い。
「今はお眠り……。あの空間にずっといたのだから。辛かったでしょう、寂しかったでしょう
もう良いのですよ‥‥。
眠って貴方を責める者はもう誰もいません……。
だから、今はただ休みなさい。
――そして、次へと糧にして、力にしなさい――」
優しい声音で告げてくる。そして、頭を優しく撫でてくれる。それを最後に再び意識をプツリと手放した。
―――あったかい、まるで母に抱きしめられているかのようだ……。
ポトリと、一滴の涙が頬を滑り落ちていく……。
そして、自分の中に何かが灯ったような感覚がした。
***
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「行ってしまわれましたか...」
少年の体が光に包まれて消えた。
まだ膝の上に残っていた感触にその女性は余韻を味わう。数千という時間を重ねてきた彼女には久々の人との『ふれあい』だったからだ。
始めはとある老人の頼みから始まった。
その老人は次の人生に旅立つ前にあの少年を自分の代わりに見守るように頼んできた。
自分に頼み事をする者はあまりいなかった。
その為、私は二つ返事で快く引き受け今までずっと、見守っていた。
―――その後の少年は見ていられないほど、悲惨な人生だと思えてしまった。
家族は彼から離れ、友人も裏切る始末。そして、唯一の望みも最後は潰えた。
しかし、少年は必死に足掻いていた。
その姿を見ていつしか惹き付けられていた。
どうしてそこまで頑張れるのか。
それは家族と共に幸せに過ごしたい。
その一心だったのでは―――と、今にして思える。
「どうか、彼に次こそは幸あらんことを……。」
その女性はそう願う。
彼女の頭上の光輪が美しい光を放ち彼女のいる空間を光が満たす。