ミレドの贈り物
仕事やら色々で遅くなりましたが更新します。
獣との戦いから数日後、
ネスクはミレドと相も変わらず稽古をしていた。稽古をする後ろの茂みの影から小さな影がその様子を見ている。夕陽の様に真っ赤な目と髪、そして獣のような耳、
そして尻尾。
背はミレドと同じぐらいである。
*
意識が浮上してくる。
まだ朦朧とする意識の中、ネスクは目を覚ました。
木々に囲まれ、既に日は落ちたのか真っ暗。
パキパキ、パキッ!
枝のはじける音。
焚き火が目に映る。やはり周りには誰もいない。
―――あの後、どうなったのだろうか?
ガサガサ
焚き火の後ろの茂みが揺れ、体が反応して勝手に身構える。
だが、それは杞憂であった。茂みから顔見知りの人物が姿を現す。
「おお!起きておったのか、ネスクよ。」
「ミレドか、驚かすなよ。ここはどこなんだ?あの後、何がどうなったんだ?」
ミレドがかい摘まんで説明してくれた。
あれから三刻。つまり、三時間経過しているようだ。
ミレドは僕が倒れる少し前に到着したそうだ。その時には、未だあの獣は魔力を全て使い切っていたが、―生きていたらしい。その生命力には恐れ入った。
その後、ミレドにより滅ぼされた。湖に戻るには遅い時間だったため、戦ったあの場から100m程のここに移動して、結界を張り、今に至るそうだ。
「あの獣、まだ生きていたのか。しぶとい奴だったなぁ。」
「ヤツの力が混じっておったからのう。普通の生き物より生命力が高いんじゃ。」
「ヤツ?」
「おぬしは調べたじゃろう?ヤツ。邪龍【ヘヴラ】のことじゃよ。」
「へぇ、ってことは。あの強さがヘヴラの強さなのか?」
獣の強さを思い出す。脅威的な回復、周囲から生命を吸い上げる攻撃。
黒いモヤが大量にあふれ出し、周りの生気を吸い取る光景が焼き付いて離れない。
「いや、あれはほんの一部じゃよ。ヤツはあれとは比べ物にもならん。」
「あれでほんの一部かよ。ってか、その一部であの有り様、実際に戦って勝てるのか。本
当に。」
実際、その一部の力を与えられた獣すら倒せていなかったのだ。
実力の違いが有り過ぎて挫けそうになる。
「今のままでは、一瞬で終わるのう。じゃが、ほんの一部とはいえ、その強さの一端に触れたおぬしならこのまま研鑽を磨けば恐らく……」
「勝てるのか?」
今まで落ち込んでいたネスクは次の言葉に希望を抱きながら、ミレドへと視線を送る。
しばらく考えるミレド。―そして
「・・・・いや、勝てん。」
ズコーン!!!
綺麗に滑っていくネスクであった...。
*
「結局、勝てんのかい!!」
あっぱれとしか言えないくらいの敗北宣言にネスクはミレドへ突っ込む。
「おぬし一人では無理じゃな。たとえ研鑽を積んでもじゃ。」
「じゃあ、どうするんだ?」
「言ったじゃろ?『一人では』と。つまり、妾とおぬしでやればどうなるか分からんと言うことじゃ。」
「前の二人とは上手くいかなかったのか?」
ミレドの顔が少し陰った。・・・気がする。
「う、ぐ。あの時は少々特殊じゃってのう。三人で上手くすることができなんだのだ...。」
言葉に詰まるミレドにネスクは首を傾げるが、
「そっか...。」
―――深くは聞かない。
一週間ずっと見てきたネスクだから分かる。
あの二人の最後については詮索しない方が良いとミレドを見ていれば分かる。
「おぬし、深くは聞かぬのか?」
「聞いて欲しいなら聞く。けど、言いたく無さそうだから聞かない。」
「律儀じゃな。おぬしは」
「こういう性格なんだよ。僕は」
「ふふふ」
陰った顔に再び笑顔が戻った。
その後、ミレドが探してきた木の実や肉を食べる。当然、肉は焼いて。
ミレドはそのまま食べようとしたが、焼いた方が良い。相変わらずミレドは四次元ポケットでもあるのかと思うほどの肉を胃の中にどんどんと吸い込んでいく。
けど、そろそろ調味料が欲しい所である。
「ネスクよ、おぬしにこれを渡しておく」
食べ終わる頃に、
ミレドが何かを渡される。
ミレドから受け取り、手の上のそれを眺める。
黒くて丸い掌サイズの黒真珠の様な水晶。
「これは?」
「『宝武珠』じゃ」
「ほう、ぶ、じゅ?」
「宝武珠とは持ち主の魔力に合わせて武器に変化する珠じゃ。それで作られた武器は一般の武器と違い、魔力を通しやすく持ち主の力を十分に発揮させることができるのじゃ。」
「へぇ、これがねぇ~」
「ちなみに、それは妾が作ったものじゃからな。それを売れば一生遊んで暮らせる程の額となるぞい。」
「ぶふっ!!」
危うく落としかける。
宝武珠を手の平で上手いことキャッチする。
「そんな物貰えんぞ!!」
宝武珠を返そうとするもミレドは横に首を振り、受け取らない。
「いや、おぬしに持っておいて欲しいのじゃ。そのために妾が作ったんじゃから。」
「けど・・・」
「信頼の証として、貰ってくれぬか?」
「・・・・・」
上目遣いで見てくるミレド。
こんな瞳で言われたら、返す物も返せない。
「・・・・分かった。ありがたく貰っとく。」
「うむ!!大事に扱ってくれよ、ネスク!!」
「ああ、ちなみにどう使うんだ?」
「魔力を流してみればわかる。そして、自分の使いやすい武器をイメージしてみよ。」
目を閉じ宝武珠へと意識を集中する。そして、魔力を流す。
しばらくそうしている。
―――目を開けるも変化は起きていない。
「何も起きないぞ。」
「もう少し、強く流してみよ。」
言われた通り先程より、魔力の量を多くする。
――すると、
宝武珠が光り出し形状が変化していく。
そして、
光が収まると、手の中に武器ができていた。
一刀の『太刀』である。
「おぬしの武器は変わった武器じゃな?」
ミレドが興味深そうに見ている。ミレドが珍しいということはこの世界には、『刀』という武器は存在しないということだ。
「これは刀と言う武器だ。」
「カタナ?」
首を傾げるミレド。やっぱり、
「とある国にある武器で片側に刃がある剣だよ。こんな風に」
鞘と刀の持ち手を持ち抜く。
刀身も持ち手、鞘同様で真っ黒で艶がある。
そして、刀身には、稲妻のような線が一本赤い線がある。
「ほお、確かに片側にしか刃が無いのう。面白い武器じゃ。」
「この世界には無い国だから。事実上唯一の剣だな。」
「なんでそんな物をおぬしは知っておるのだ?」
「うぐ、まあミレドならいいか。話が長くなるぞ。」
こうして、現時点でのネスクの前世の話で夜が更けていく。