獣との激戦
冷たい汗が頬を伝い落ちた。
その獣のような何かのヤバさは【探知】の魔力からも分かるが、
今の一撃からも分かる。
……いや、分かってしまった。
避けた場所。自分が元いた場所が隕石が落ちたのかというように抉れていた。
一発であれ。
ならば、直撃した場合‥‥‥‥。
ここにきて、嫌な想像が考えてもいないのに働く。この場の異様な状況のせいかは分からない。
だが、一つの事実として
――自分の体など簡単に吹き飛ぶレベル。
この事実だけは決して覆らない。
「【構造具現化】」
武器を【構造具現化】で生成する。
付け焼き刃も良いところだが『テウメッソ』を斬った武器。無いよりはマシだ。
それにこの武器が通用する。という事もある。
朝、ミレドと修行した時のように構える。
下手に隙を作れば先程の一撃で吹き飛ぶ。
それだけは避けたい所。
獣がこちらを見ている。
仕掛けてくる様子はなく、完全にこちらを観察しているだけ。
(やるか...。)
―――先手必勝である。
片足を半歩下げ、足に力を込めた。
構えた型を『下段』に切り替える。
「【身体強化】!!」
地面を一気に蹴る。
獣の横を一線。剣を横持ちにし、すれ違い様に胴体を下から斬りつける。
獣を背後に止まる。獣の血が剣に付いた。
手応えもあった。
「なっ!?」
振り返った先には、優雅にこちらへ振り返る獣の姿。斬られた傷口から血がドバドバと出ているがそれもつかの間。身に纏った黒い何かが傷を覆ったあと、斬る前の状態に戻った。
何かしたのか?
という風に首を傾げる。
「くそっ!!」
まるで効いていない。
「だったら‥‥」
「【荒ぶる風】」
風の魔法【荒ぶる風】を使い
獣の上へ飛ぶ。
体を回転させ、獣の胴体へダイブし剣を振り下ろす。
「くっ!!」
―――斬れない。さっきはバターのようにすんなりと入った刃が一切立たない。
鉄を斬りつけたのかと思えるぐらいに黒いモヤに弾き返された。
獣の体を蹴り離脱。
しかし、獣の手に掴まる。
「ぐっ。この、放せ!!」
体を動かすも凄い力で抜け出せない。そして、徐々にその手に力が入っていき、体が締め付けられる。
「ぐっ、ぐぅ。」
バキバキと骨が軋む。
「ぐっ、フ、【閃光】」
咄嗟に【閃光】を使った。ネスクの体から直視できない程の光が瞬いた。
グググギャヴヴヴヴ!!
獣は怯んでネスクを放り飛ばす。
「ぐぅ、くっ!!」
地面に叩き付けられながら停止した。
フラフラしながら立ち上がる。
ビキッと痛みが走った。
おそらくあばら骨を何本かやったのだろう。
痛みが体を駆け回る。
グギャヴラララ!!!
奴は―――というと、苦しんでいるのか暴れ回っている。ただの目眩ましにしては苦しそうだ。木々を薙ぎ倒し、黒いモヤが体から溢れ出す。
獣の近くに生えた草木が枯れ落ち腐る。
跡形もなく、塵となって消えてゆく。
―――まるで生気を奪い取っているようだ。
獣がギロリとこちらを見る。
さっきより魔力が上がり、瞳から獣独特の殺気を感じる。
どうやら今さらながらこちらを≪敵≫と判断されたようだ。
「【身体強化】!!!」
痛みを堪えながら身体強化を掛けて駆け出す。
黒いモヤが球のように飛んでくる。
剣で斬りつけて防ぎながらヤツへと近づく。
―――爪の薙ぎ払いが来る。
足に力を込め大きくジャンプして薙ぎ払いを避ける。そして、再び獣の上へ。
獣の顔が数メートル先にある。
ギョロっとした赤い目に自身の姿が写る。
黒いモヤに覆われた顔。元が何の獣であったのかその面影はもう無い。
その顔目がけて、右手に握り締めた剣を斬り付ける。
だがこのまま斬ってもさっきの二の舞。
―――こちらにもまだ手はある。
「【付与聖】!!!」
剣に【聖】を付与して斬る。鉄のような堅さだったモヤがまた柔くなりすんなりと刃を通す。刃で斬られた箇所から赤黒い淀んだ血しぶきが出る。
聖魔法
光魔法の一つ。呪いを退ける為に使われる魔法である。
グギャヴラララ!!!!
雄叫びを上げる。体から再び溢れたモヤが傷を覆い隠した。やはり、今の自分では力不足のようだ。
ゾクッと寒気が走った。
身の危険を感じて獣の体を蹴り後ろへと飛ぶ。
「【防御】!!!」
防御魔法をあらかじめ掛けておく。
獣の前足が飛んで来た。剣に防御魔法で防御を固めるも吹っ飛ばされる。
「ぐっ!!!」
木を何本も薙ぎ倒して止まった。【防御】のお蔭で致命傷には至ってない。
「うっ‥‥う。」
なんとか膝をついて剣を杖代わりにして立ち上がろうとするもすぐに膝をつく。
「ヒ、【治癒】」
緑の光が手から全身へと広がり折れたであろうあばら骨などを動ける程度に治した。
―――頭がぐらつく。魔力切れも近いようだ。
「はあ、はあ‥‥はあ‥‥‥‥はあ。」
体力も限界。体もガタガタ。魔力も残り僅か、
風が吹けば倒れてしまうほどの風前の灯火。
(こんな時、どうすれば‥‥‥‥)
ズキッ
魔力切れによる症状とは別の鈍い痛みが走った。こんな絶体絶命の状況、前にもあったような………。