遭遇
生い茂った枝葉同士の隙間から漏れだす日差し。西の空に傾きつつある昼下がり。
ネスクは今。
――森を歩いている。散歩日和には良いが、ネスクが道も無い森の中を悠々と歩いていられるのは、とある魔法のお陰。
探知<サーチ>
魔力を探知する魔法。近くに魔力を持っている生物に反応する魔法である。今のネスクだと自分から半径三◯◯m程である。
湖を出発して南に二km。そろそろ何か食べたい時間である。
頭上を見上げると、
「?、‥‥何かあるな。」
枝に実の集合体になった果物。ブドウのようにも見える。
(採れなくもないとこだし、採ってみるか……)
「【身体強化】」
足に強化を掛け勢いよくジャンプ。
実をもぎ取り下へ落ち着地。
やはり、―――見た目がブドウである。
「【調べ物】」
一応確認してみる。‥‥‥‥‥‥あった。
持っている実と全く同じ果物が描かれている。
『グレープ』
一つに密集した実を作る果物である。
毒はなく、酸味が程よくておいしい。ワインやお酒の原料として使われることが多い。
‥‥‥‥どうやらこの世界にもブドウはあったようだ。万が一のこともあるので、前回の教訓から最後まで目を通していく。すると、――
※注意
食べる際は、皮を剥いて食べてください。非常に高いアルコールを含んでいるため、常人なら口にいれた瞬間に動けなくなります。
「‥‥‥‥‥‥。」
あぶなっ!!
危うく前回と同じ過ちを犯すところだった。
危うく魔物の餌になるところでもあった。
集合体から一つ取り、
皮を剥いてから口に放り込む。
控えめの甘さに酸味が利いている。
全部は持っていけない。
五、六個もぎ取りそのまま先へ進んでいく……。
*
歩きながら茸や薬草を採取している。採取したそれらは、ネスクが持つ小さな袋に入れている。小さいが立派な『アイテムポーチ』である。
グレープを取った直後、ミレドと遭遇した最初の洞窟が近かった為。
入口近くにあった白骨死体を埋葬しに訪れた。その際、白骨死体が持っていたこの袋を使わせて貰っている。
名も知らない白骨死体よ...。ありがとう。
【探知】に何かが引っ掛かった。
でかい魔力である。
こちらへ近づいて来ている。
車並みの猛スピード、
逃げてもすぐに追い付かれるだろう。
「‥‥‥‥やるしかない、か。」
仕方なく決意を固める。魔法の袋を懐に入れた。
あれこれ考えてはいられない。
――あと、数十メートル付近まで接近。
バキバキ バキッ!!
それに伴い反応のある方向の木々が倒される。だがその原因となる何かの姿は見えない。
目に見えないという恐怖がここまでとは。
想像の斜め上に行っている。
ヴヴヴゴアアアアアアアッ!!!!
空気が震え大元から雄叫び声が上がる。余りの雄叫び声にネスクは耳を塞ぐ。
―――すると、
目の前の木々が倒れた。
何かがネスクめがけて飛んでくる。
「っ!?【身体強化】!!」
咄嗟に身体強化で後ろへ避ける。
ドンッ!!!
鈍い音と共に自分のいたその場にそれがいる。
「な、なんだ!?こいつは?」
目の前に、
―――自分の何倍もある巨体。
黒いモヤの中、赤く目を光らせる獣がいた。