ただ今、修行中
‥‥さん‥‥に‥さん‥‥‥‥にいさん。
誰かが泣いて呼んでいる。その言葉に聞き覚えはない筈なのに。自分が呼ばれている気がするのはなぜなんだろうか?
にいさん‥‥す‥て‥‥すけて‥‥たすけて
聞き覚えもない筈なのに。頭がキーンと鳴り出し割れるように痛い。
き、みは誰、なんだ?
その人物が暗闇へ徐々に溶けていく。
誰なんだ?
そして完全に溶けた頃に
いつも眠りが解ける……。
*
ガバッ!!
「はあ、はあ、はあ、すぅ・・・・・・はあ」
ネスクは毎日のように見ている。
「また、あの夢か………。なんなんだ、一体‥‥」
転生して一週間。ここはネスクがミレドの修行と称して作った家の中である。
あれからずっと、ミレドの指導の元で修行の日々を送っている。
始めはこの家作りからであった。
斧もノコギリも無いので魔法を使って丸太を切り、加工した。それから、必要な家具を作り、今の一戸建ての家が完成である。
見た目は山小屋のようである。が、中には様々な家具がある。
入ってすぐにテーブルと椅子が並べられ、左奥にいわゆる台所?のような場所。
右手はベッドが二つ並んでいる。
目に付いた跡に気付く。
寝ている間に涙が出たようだ。涙の跡は完全に乾き切っている。涙を流した理由に心当たりは今のところ無い。
ベッドから降りて台所に向かい桶に汲んでいる水で顔を洗う。
寝汗で体がベトベトなので外の湖で洗うために外へ繋がる扉へ向かう。
扉を開けると逆光が目に入る。
「‥‥‥‥眩しい。」
太陽の光が直接目に入る。手で影を作り目を覆う。春風のような爽やかな風が肌を撫でる。
(‥‥涼しい。)
穏やかな風を全身に浴びて先程までの寝汗は乾いていく。
「おお、ようやく起きたのか。」
ふと声が掛けられる。
ここ。で、唯一の知り合いの彼女だ。
「‥‥‥‥はあ」
声がした方に当然。彼女はいた。
―――湖の中だ。だから、
「なんじゃ?起きて早々にため息とは。
疲れるにしてはまだ早かろう。」
「‥‥いえ、一週間前にも同じを言った気がしますが、あえて口にします。」
大きく空気を吸い、
「服・を・着・て・く・だ・さ・い!!!」
全裸のすっぽんぽんの彼女が湖に堂々といた。
女性なのだから恥じらいを持って欲しい所である。というか、もう少し警戒という物を持って欲しい。
*
「これで良いかのう?」
「‥‥はい。」
服を着たミレドがいた。今日は自作の白いワンピースのような格好をしている。ひらひらとしたスカートからみせる白い足。
まだ、水気を含んだ肌に濡れた髪でどうも調子が狂う。
ミレドが服を着るまでの時間は約一時間。今、湖を前に家がおよそ50メートル程後ろの所にある。
「それじゃあ、始めるかのう!」
「やっぱりするんですね・・・。」
「当然じゃ。
日々の精進が力となるのじゃからな。肝心な時に力不足で戦えないということにならん為にもじゃ。分かったらさっさと、取ってこい。」
ミレドに言われた物を取りに小屋の中へ戻る。
入って直ぐ、ベッドの脇に立て掛けられたソレを取り、ミレドの所まで戻る。
―――ミレドは先程の場所より左手の。
何もない平地に移動していた。
「これでいいのか?」
「おお、良い良い。それでは始めるかのう。」
取ってきたソレをミレドに放り投げ渡す。
――木刀である。ミレドの右手、そして、自分の右手にも同じ物が握られている。
これはネスクが修行がてら、木から削り作った物である。
剣道の竹刀は流石に作れないため、今出来る最大限の物で作ったのがこの木刀である。
毎日の修行でところどころが欠けてきているがまだまだ現役。使える所まで使うつもりだ。
長さは前に握った木刀と同じ手頃な長さ。
―――はて、自分はいつ。木刀を手にしたのであろうか。まあいい。
木刀を前に構える。対するミレドは何も構えない。ただ。こちらをじっと、見てるだけ。
隙があるように見える。
―――だが、実際はその逆だ。
隙があるようで無い。
初日もその構えの無い構えで一瞬にして打ち倒された。何度やってもミレドには一度も勝てない。
「すぅ‥‥‥‥はぁ‥‥。」
深呼吸を置いてから飛び出る。
また、ぼっこぼこにされるかもしれないがここで怖じ気づいていても仕方がない。
「来い、ネスク!」
今日はもう一本上げる予定です。