貧弱な体の僕と彼女
「これで分かって貰えたかのう、ネスクよ。
おぬしと話しするにはこの姿はちと、不便でのう。じゃから人化の魔法を使ったのじゃ。」
再び体が発光し、少女の姿になるミレド。
「ちなみにこの姿は妾が一番気に入っておる姿じゃ。他の姿にもなることは出来るが肩を凝るからのう。特に胸が。」
えらく強調して言うミレド、ずきりと頭に痛みが走るネスク。そして、
「そうですかー。それは大変ですねー。」
とても冷めた声音で答える。
「おぬし、やけに冷たいのう。どうしたのじゃ?」
「いえ、前世でのことで少々ありましてね。」
ネスクはこの時。
前世の記憶の一部を思い出した。
―――そう、放課後の幼なじみ二人が話していた時の記憶を……。
それにより、ネスクは『オオヅキ』としての記憶の一部に触れた事でその時のオオヅキの感情にも触れてしまった。
―――人間不信となってしまったのだ。特に女性関連で色々あったため、人の形をしている者に対してはどうしても冷たい。
前世の二の舞にならないために、体が自動的に反応をしているのだ。
「うむ、それはすまぬ事をしたのう。」
「いえ、それよりも先に‥‥」
「先になんじゃ?」
「‥‥‥‥。
~っ!‥‥服を着てください。」
顔を背けながら言うネスク。
そう、少女もとい、ミレドは
今、何も着ていない。ありのままの姿である。
ありの~、ままの~♪と歌いたくなるのは捨て置き、後ろを向いて顔を手で覆った。
「なんじゃおぬし、そんな事ことか。別に減るもんでないし、妾は気にせんぞ。」
平然とそう答えるミレド。彼女には恥じらいというものは無いのだろうか。
「ミレドが気にしなくても僕が気にするわ!!
というか、さっき着ていた服はどうした!?」
先程まで着ていた服がいつの間にか消えていることに気付く。服が溶けたとでも言うつもりだろうか。
「ああ、無くなったのじゃ。元の姿に戻ると、どうしても服が邪魔になるからのう。じゃから、戻したのじゃ。元の粒子へとな。」
――どういう意味だ?さっきの言葉は‥‥。
まあ後で聞こう。それより‥‥!
「まだ服を着てないのですか?このままだと話しづらいんですが‥‥」
「話しづらいのならこっちを見れば良いじゃろう。それとも何か、妾の裸を見て興奮するから見れないとでも申すのか?お・ぬ・し~。」
まるで面白い玩具でも見つけたかのように楽しそうな声音をしてミレドが言ってくる。
先程見えてしまったミレドの姿を思いだしながら、
「いえ、興奮はしません。というか何でそんな貧弱な身体に興奮するんですか?」
艶かしい肩や足、だが。
板のように平べったい胸を記憶の中から出てくるがいつもよりトーンを低くそう答える。
「ひ、貧弱。貧弱とはなんじゃ~!!!!!」
ミレドの声が森の木々の向こうへとこだましていった...。
「‥‥‥‥これで良いのかのう?」
背けていた顔を戻すと龍の姿に変身する前に着ていた服を着たミレドが立っていた。だが、その声音からどこか不機嫌であるのが伺える。
そして、口を尖らせている。
どうやら先程の言葉で拗ねているようだ。
「まだ拗ねてるのか?」
「別に拗ねておらぬ。ただ、おぬしの先のことばで傷ついただけじゃ、」
ぷっくりと頬を膨らませている。
やはり拗ねているではないか‥‥。
「‥‥‥‥悪かったよ。僕も少し言い過ぎた。昔のことがあるからね...。でも人前で裸になるのはやめた方が良い。僕だったから良かったけど人によっては、‥‥‥‥襲ってくる人もいるから。」
少し心配した声音でそう答えると、
「襲われても返り討ちにするだけじゃが、ネスクの言うとおり人前で肌を晒すのはよそう。」
その言葉で反省したのか少し申し訳無さそうにそう答える。根は優しいようだ。
でもその言葉で気づかされた事がある。
(考えてみれば、確かにそうだ。)
この世界では最強の部類に入るこの少女を襲えば返り討ちに遭うのは必然。まあ、少女なのだからその身に傷なんか作って欲しくはない。
「そうして貰えると助かる。僕も裸族と一緒にいると思われると困る」
冗談混じりに伝えると、
「誰が裸族じゃ!おぬしこの姿になってから妾に対して少し辛辣じゃないのかのう?」
涙目になりながらミレドが答える。
「そんな事ないよ。その姿、きれい‥‥だと思うから。」
本当の事を伝える。こういうのを口にするのは気恥ずかしい。
「き、きれい‥‥じゃ‥‥と‥‥。おぬしがそう言うのならそう言うことにしてやろうかのう。ふむ。」
顔を赤くしながら、クネクネしているミレドにネスクは首を傾げる。
(ミレドは表情豊かだな。まったく)
急にもじもじするミレドを見ながらそう思うネスクであった。
***
もじもじが収まるとご機嫌になったミレドに先程抱いた質問をしてみる。
「所で何を作ってたんだ?」
「ああ、焚き火をするために石を組んでおったのじゃ。ほれ、そこに‥‥‥‥じゃ、。」
そこにはポカンとへこんだ窪みが在るだけ。
どうやら、先程の龍の姿になった際、近くで作っていた焚き火のための石は踏み潰されてしまったようだ……。無惨に残されるのは破壊痕だけ
である。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
二人の間に沈黙が広がる。
いつまでもこうしていられない。
「‥‥‥‥手伝うよ。」
「‥‥そうして貰えるとありがたい。」
それから二人で、石を集めて組み立てネスクが採ってきた枝を石でぐるっと囲んだ中へ入れて、ミレドが火を使い、焚き火をする。
龍にはならず、そのままの姿で。最初からその火を出すのをしていればあの悲劇にはならなかったと後から思う。
―――ミレドが取ってきた肉を焼き、一緒に食べる。
二人に会話は無い。しかし、どこか二人でいると安らぎをネスクは感じていた。この世界に来て知らない事ばかりの上に、周りは危険ばかり。そんな右も左も分からない状況下でミレドは見捨てずにいてくれた。
その事実がネスクの心の支えになっていることをネスク自身はまだ気付いていない。
肉を食べながらこうして夜は更けていく……。
昨日は私事で更新出来なかったので今日は二本上げます。