正体
「ありがとう、戴くよ。」
チョコレートの一欠片を摘まんで口の中に放り込む。口の中いっぱいにチョコレートの甘い味が染み渡っていく。
「‥‥‥‥ふぅ、美味い。ところで、このチョコレートやさっきのハーブティーはどこから持ってきているんだ?此処には本棚しか見渡らないが…」
周りを見渡してもやはり本棚しか見当たらない。
「普段はこの袋に入れています。」
そういうとソフィアはドレスのポケットから小さな袋を取り出し見せてくる。
「それは?」
「初代様お手製の『魔法の袋』です。この中に普段はチョコレートやハーブなどを入れて保管しています。」
話しによると、『魔法の袋』はアイテム等を収納する物でその性能は魔法の袋の質によって変わるそうだ。
【悪】が実寸より少し多いだけ
【普通】がおよそ実寸の三倍ほど
【良】が車庫1つ分
【最上級】が車庫2つ分
である。
さらにソフィアのは初代様が改良を重ねたため、
【最上級】に冷蔵完備を整えているらしい。
「先程のチョコレートなども此処から出しました。他にも疲れたに効く物がたくさん入っています。」
「へぇ~、これを初代様が作ったのか。石碑も作るし一体何者だったんだよ」
「‥‥‥‥ええ、本当に凄い人でしたよ。」
ソフィアはどこか懐かしいような儚げな表情を浮かべている。
しばらくチョコを摘まみながら、ソフィアと話していると時間は直ぐに過ぎていった。
「‥‥さて、そろそろ戻るとするよ!」
「そうですか。では最後に忠告をしておきます。鍵を使う際は、自分の体が安全な所にあるのを確認してから使ってください。鍵を使っている間は身体が無防備になってしまいますから。」
「了解、じゃあまた来るよ。」
「はい、またお会い出来る日を楽しみに待っています。では、また……。」
「ああ、またな!」
椅子から立ち上がり、ソフィアに背を向ける。
イメージは鍵を想像する。すると、手の平にいつの間にか透明な鍵があった。
その鍵の持ち手を摘まみ持ち、一言
「【閉じる】」
鍵を来た時と、逆にに回す。すると、
来たときと同様に光が漏れだし、体が光に包まれ意識がそこで途切れる。
<ソフィア目線>
オオヅキ様の体が光に包まれ、収まると姿形は跡形もなく居なくなっていた。
後には、埃が日に当てられキラキラと舞っているだけであった。
「行ってしまわれました‥‥。」
その声に名残惜しさと寂寥の念が込められていた。
*
初代様、『ジル』様が亡くなられて以降はずっと一人書庫で暮らしていた。
元々、この書庫とは切っても切れない状態なので空腹にはならないが、寂しいとは感じていた。
毎日毎日、本とにらめっこ。
そればかりであった。
千年、いや、それ以上の時間をこの書庫の中で暮らしていた。やっと現れてくれた主様である。
あの方はあまり喋らない方なのか、ポツリポツリとしか話さなかったが、それでも久しぶりの会話はとても楽しかった。それに新しい名前も頂いた。
「次は何時いらっしゃるのでしょうか…」
ソフィアは次に来る時を待ち焦がれて、今日も書庫で本とにらめっこをする。
*
途切れていた意識が徐々に浮上してくる。目をゆっくり瞬たかせる。段々と視界がクリアになっていきピントが合ってくる。
「おお、ようやく戻ったか」
顔を上げると、鍵を使う前と全く同じ場所にいた。
「‥‥‥‥で、妾のことは分かったのかの?」
「‥‥‥‥。あなた様は『聖龍ミレドグラル』様でいらっしゃいますね。」
「‥‥‥‥左様、妾は女神『セレネ』様より遣わされた龍、聖龍ミレドグラルであるのじゃ。」
やはりそうだった。初めて会った時に感じたオーラに此処が聖域であると言うことは彼の龍がいてもおかしくない。
ぐ~~~~!!
「おぬし、腹が減っているのか?」
「そういえば、今まで何も口にしていなかった。」
書庫では食べたり飲んだりしたが、あれは精神だけが食べたり飲んだりしただけであるため、肉体には何ら影響がない。
「まずは飯にするかのう。しばしここで待て」
そういうや否や、翼を羽ばたかせ洞窟の外へと去っていくのであった……。
現実世界に戻ってからの話しが長くなりそうなので取り敢えずここで一旦切ります。
次回はこの続きからです。