第1話 栞奈(かんな)、婚活について調べる
正直マッチングサイトは当たりはずれが大きいと思う。
5年間以上したけど、未だに当たりは引かないなあ……自分、泣いてよきですか?
では、どうぞ。
※1話は日誌形式ではないので注意してください。
__7月8日
今日という日は、藤美野 栞奈の誕生日であった。
栞奈は32歳となった、このめでたい日に、何かを決意したかのようにゆっくりと立ち上がる。
そして、老朽化の煽りを受けた黒シミしかない天井に向けてビシッと指を差した。
「ーー婚活を始めるわ‼」
力強く放った声音が家中で響き、隣人のうるせー‼ の声が聞こえて、やべーと思ったが、敢えて聞こえなかったことにして、すぐさま家を出た。
※※※
婚活ーーそれは結婚活動の略であり、結婚をするために行動をすることである。
ではなぜ栞奈が急に婚活宣言をしたのか……そう、それは友人の多くが結婚して幸せになっていく姿を嫌が応にも見せつけられたのが主な原因だ。
あと、次は栞奈の番だねとか、次こそは栞奈の番だねとか、そろそろ結婚できるんじゃない? あとは栞奈だけだね、という無自覚な煽りを幾度も受けるようになったのも大きい。
栞奈は現在独身であり、しかも交際経験0という今どき珍しい処女だ。
容姿が優れていると言えないが決して酷かったり、性格が最悪というわけでもない。
ただ、高校卒業時にそこそこの中小企業に就職した結果、仕事が忙しすぎてプライベートまで時間を回せなかったからだ。
これに尽きる。
まあ栞奈の仕事覚えが悪かったのも理由であるが。
そんな栞奈は自宅を出てからすぐにとある場所へと向かった。
着いた先は24時間営業している大手書店であった。
まだ朝早いためか、お客は数えるほどしかいないようだ。
栞奈は店に入ると、迷いなく進んでいく。
しばらくすると目的の場所に着いたのか立ち止まり、とある雑誌を手に取った。
「あった……MARRIGE」
MARRIGEーーそれは結婚情報雑誌であり、栞奈のような婚活始めました的な超初心者が最初に頼るバイブルである。
結婚情報雑誌の販売元として既に50年以上続いている、この業界の最大手メーカーから販売されているだけあって安心と信頼が段違いであり、購入するならこれと決めていたようだ。
MARRIGEをそのままレジへと持っていき購入して帰宅した。
栞奈は帰宅するとすぐさまMARRIGEを読み漁る。
雑誌の隅々まで目を通し、有益な情報を蓄積していく。
それは2時間ほど続き、ようやく読み終えた。
そして、MARRIGEを読み終えた結果、婚活の結論を出す。
「マッチングサイトへの登録よ! そして、理想の旦那さまをゲットする! もうこれしかないわ!!」
と、強く意気込む栞奈は、普段はめったに使わないパソコンを開き、数ある婚活マッチングサイトの中で自分に一番合っているサイトを血眼になって探した。
今の時代はインターネットの普及と婚活者の増加にともない、かなりの数の婚活マッチングサイトがあり、中には婚活者からお金だけを不当に摂取するサイトや利用者の7割が業者と呼ばれ、利用者を食い物にする輩が充満した、もはやマッチングサイトとして成り立っていないド畜生なサイトも残念ながら存在している。
MARRIGEには、そんな悪質なマッチングサイトの餌にならないよう様々な知識や、評判の悪いサイトのレビューなんてのも掲載しているため非常にためになるものばかりだ。
ちなみになぜ婚活マッチングサイトへの登録にしたのかは、ちゃんとした理由があったりする。
確かに婚活相手を探すには他にも多く方法もある。
例に出すなら、知り合いの合コンに参加したり、マッチングサイトという顔も素性もわからない相手を選ぶより結婚相談所で探す方が断然いいだろう。
会社のちょっと気になる人にアタックするのも定番だ。
しかし、それらの方法はあいにく使おうとは思わなかった、否、使いたくなかった。
まず、栞奈の知り合いはほとんど結婚しているため合コンを開くことはないし、結婚していない知り合いもいるが、栞奈と住んでいる地域が違いすぎたり、もう独身のままでいいと諦めている者や栞奈同様に仕事に忙しすぎてプライベートに時間を回せない者だったりと……。
それに単純に恥ずかしいのも理由だったりする。
栞奈は、見栄っ張りなとこがあり、知り合いから、あいつめっちゃ焦ってんなと思われたくないのであった。
ということで残念ながらこの案は却下だ。
次に結婚相談所なのだが、これは単純に敷居が高いのだ。
もっと詳しく言うと結婚相談所への登録はかなり高く、登録代だけで10万円を軽く超える。
さらに費用はこれだけでなく、お見合い用の写真撮りをする強制的な有料サービスがあり、その費用もドン引きするレベルで高いのだ。
栞奈のように日々の生活に余り余裕がない女が利用するには費用的にかなり辛いものがあり、この案も却下であった。
マジであいつらこっちの足元見やがって調子乗ってやがる! とは栞奈の言葉である。
最後の会社の意中の男性にアタック作戦だが、そもそも栞奈の会社は女性のみで構成されている男禁制の会社であるため男性がいないのだ。
と、諸々の深い理由があり、栞奈は婚活マッチングサイトで将来の旦那さまを探すことに決めたわけだ。
栞奈は現在、仕事が休みなので、ありとあらゆるマッチングサイトを探し回った。
気づくと、深夜0時になっており、半日以上経過していた。
その甲斐あって、見つけたのだ。
自分に合うマッチングサイトを。
そのマッチングサイトは、『CUPIA』である。
まず、CUPIAは、数あるマッチングサイトの中でぶっちぎりで評価がよかった。
もちろん完璧にクリーンとは口が裂けても言えない。
業者や軽い関係ーー強いてはセフレ目的な輩といった婚活者にとって悪といった者たちが存在しているのは確かだ。
しかも、それなりの数がいるという。
なぜ、栞奈はそんな微妙なマッチングサイトを選んだのか。
理由を話す前に。
少し話が長くなってしまうが、婚活マッチングサイトというのは、利用者皆、結婚したい欲が前面に出てきてしまうあまり、必要以上に必死になり過ぎることが多々ある。
イコール=心に余裕がなくなる者が多い。
その結果、自分でも気が付かないうちに、いつもの自分とは思えないほど思考が鈍るのだ。
栞奈たち婚活者も馬鹿では無いので、ネット上だけの素性のわからない者を完全に信用するなんてことは基本的にないだろう。
マッチング利用者をターゲットにしたロマンス詐欺や結婚詐欺があったと連日のニュースになっていたので間違いなく知りえている。
そう、知っているんだ。
詐欺者に食い物にされる可能性を知らないわけがないんだ。
ちゃんと理解だってしている。
しかし、いざマッチングーー結婚相手として繋がりを持つことーーができると『期待』という厄介な罠にはまるのだ。
期待ーーそれは、もしかしたら恋人ができるかもしれない、そしてその先のーー
--結婚できるかもしれない……!!
皆、そんな期待に心が躍らせられるのだ。
心の奥底では、この人なんか怪しいな、この人運営が注意喚起している詐欺師に似てない? なんて思えるが、期待という罠が発動して浮かんだ懸念をかき消す。
いや、そんなわけがない!
自分はそんなものに引っかかるほど馬鹿ではないんだ!
この人は、間違いなく将来のパートナーだ!
と、思い込んでしまう。
それが『期待』の罠の正体だ。
先ほども言ったことだが、そんな期待という罠に付け入る悪質な業者や詐欺師は多く存在している。
騙される人がいる以上はどうやってもなくならないであろう。
間違いなく、『悪』だ。
そう、婚活をしているマッチングサイト利用者にとっては……。
では、婚活マッチングサイトの運営会社にとっては、完全な『悪』と言えるのか?
もちろん悪以外の何物でもないに決まっている!
こいつらは、運営会社にとっても癌だ!
癌は切除しなければ、このマッチングサイトが壊れてしまう。
見つけ次第、始末してやる!!
と、声を大にして言いきれる婚活マッチングサイト運営は、残念ながら少ないのが現状だ。
業者であっても自社コンテンツを利用してくれるお客様であることには変わりないので、悪即斬は余りしない、否、できないのだ。
サイトをパトロールしている運営スタッフたちは悪即斬したいのかもしれないが、上層部がそれを許してくれない実情があるのだろう。
自分たちは、コンテンツを提供して利用者からお金をいただき、利益をたたき出して運営をしている会社。
このプロセスがある以上、業者といえど、うかつに手を出せないのだ。
要は利用者にとっては『悪』な業者や詐欺師も運営にとってはお金を落とす大切な利用者なのだ。
それに加え、業者がいることで自社の婚活マッチングサイトは盛り上がっていると疑似的ではあるが、そう見えてしまうのだ。
この影響も想像以上に大きい。
それが悪循環であるのは変わりないが、これで運営は回る、否、回ってしまう。
長々と話したが、つまりは、婚活利用者にとっては『完全な悪』であっても運営にとっては『必要な悪』となってしまい、本当の意味で婚活支援を行える環境とは言い難いのだ。
どうしても後追いの対応になってしまい、マッチングサイトの他利用者から申告を蓄積&蓄積でようやく対応する。
しかし!
いや、その前に散々遠回りしたが、話を戻そう。
なぜ、数あるマッチングサイトの中から『CUPIA』を選んだ理由、である。
それはひとえに、運営がちゃんと仕事をしているからだ。
これに尽きる。
先ほど言ったが運営にとって業者は完全な悪とは言えないため、対応がクソが出るほど遅かったりする。
しかし!
この『CUPIA』はその辺の有象無象の婚活マッチングサイトとは一味も二味も違う点がある。
まず、他社婚活マッチングサイトとは、大手企業が運営していることが多く、それは自社の数あるコンテンツの一つが婚活マッチングサイトであるというだけで他コンテンツにも力を入れないといけない。
その結果、コスト面の関係上、どうしても細部にまで力を入れることできない部分が出てくる。
また、一つ一つの企画を通すにしても上層部へ通達、そこから無駄に時間をかけて企画を吟味し、ようやく企画決定を行うため、どうしても時間がかかってしまうというデメリットもあるのだ。
しかし、CUPIAは大手企業の中では力は落ちるが、婚活マッチングサイト一本しかしていないため、全ての力を注いで運営を行うことができる。
上層部も運営に根深く関わっているため企画時の連携は非常にスムーズであり、無駄な時間はかからない。
そして何より、栞奈がグッときたのは、業者や詐欺師といった悪質利用者についての対応が尋常がないほど早いのだ。
すぐに悪質利用者懸念がある利用者の裏という裏を調べ上げ、業者や詐欺師ーーつまり『悪』と断定したならば、即措置を行う。
退会措置はもちろんのこと、悪質利用者の情報をギリギリアウトレベルで晒すという恐ろしいスタイルなのだ。
個人情報保護法に真っ向から喧嘩を売ってるんじゃね? と思うほどの過激なスタイルには栞奈も頬が引きつったが。
事実、自社コンテンツの侵害した際のガイドラインにもし自社に不利益を行うことがあれば、注意喚起としてその情報を開示する的なことが細かく書いている。
もちろんそんな運営には批判的な意見も数多くあり、問題視する声は多く上がるが、善良な利用者が食い物にされないようするための必要な措置だとか、情報開示にのっとているだとか、行政からしっかりと営業許可を得ているとかなんとか、超強引な説明で乗り切っているようだ。
それって間違った判断で誤った措置をしたらどうなるの? と運営に尋ねてみると、長々と説明してあったが一言でまとめると、疑わしきは罰せよ! とのこと。
とはいえ、ネットの口コミには誤措置についての書き込みは極々僅かであり、アンチコメントにしか見えなかったので信憑性は薄く、栞奈は理不尽な誤措置の可能性についてはスルーしていいと考えた。
そんなこんなで、やや過激と噂の婚活マッチングサイトーーCUPIAを利用することにした。
「よし、絶対に理想の旦那さまを見つけて幸せになってみせるわ!」
深夜の部屋に栞奈の声が響いた。
隣人のうるせー今何時だと思ってんだ! の声をまたしても聞こえなかったことにして深々と眠りについたのであった。
ご覧いただきありがとうございました。